「これだ!」
彼らは大きな菓子製作会社の製品開発部のBIG5と呼ばれる。
今回は駄菓子部門の開発が急がれていた。
『第100回駄菓子王』
の日が近づいてきているからである。
第100回といっても10年ぶりの復活である。
近頃の駄菓子業界の低迷は明らかであった。
新製品とは言えども、全て人気商品の類似品ばかりであった。
そこで、菓子製作会社のいくつかに会議で『駄菓子王』復活の話がでたのである。
BIG5は銀座の高級寿司店 食う兵衛にいた。
「流石ですな。これは口に入れた途端、とろけて無くなってしまったわい。」
「おいおい高橋、お前はTVタレントみたいな事言うな。」
田中はいつでも高橋に冷たい。
高橋は無駄にリアクションが大きいからだ。
若い頃は5人のムードメーカーであったが
歳を重ねるにつれて、うっとうしく思われる存在になってしまったのである。
……鈴木がソワソワしている。
「どうした?鈴木」
佐藤が鈴木を気遣う。
「いっいや、なんでもない。」
一同はまた寿司に手をつけ始めた。
静かな空気の中にシャリをかみ砕く音だけが響く。
5人があまりにも、ゆっくり食す為に
職人は手のやり場に困り、胸の前でフラフラさせ始める。
職人は高橋が食べ終えたのを確認すると、
パシッと手を叩き
「何にいたしましょう。」
と威勢よく注文を促した。
その時、
スミスは立ち上がって言った。
「寿司が作りタイデス」
4人はハッとして視線を上に向けた。
「俺もだ!」
鈴木はそう言って、スミスとがっちり手を結んだ。
両者とも少し手がベタついていたことに後悔した。
そして、そのまま外に飛び出し
夜の銀座を颯爽と駆け抜けた。
二人はBIG5から抜けた
革命を予期していた。
田中は言う。
「今回の駄菓子王は『ヌルヌルぬるね』でいいか?」
高橋、佐藤は互いに目をあわせ2㎝うなづいた。
BIG5として名を菓子業界に広めたのは20年前の話である。
その頃は『うもい棒』や『ねりねりねるよ』、『黒井さんだ!』など大ヒットを連発した。
駄菓子屋も新商品の貼り紙で溢れていた。
子供達は新しい味に
毎日、首をかしげていた。
駄菓子屋はもう無くなった。
二年前の事である。
世の中の電子マネー化に追いつけなかったのだ。
仕方なかった。レジスターさえない駄菓子屋はおばちゃんがロボットでない限り…………
スミスと鈴木はアメ横にいた。
「3個で3000円でいいよっ」
と[住田水産]に威勢の良いかけ声が響く。
「スシ、ツクル 」
そして、スミスは赤身、大トロ、中トロのセットを9000円のところ
2500円で買った。
「スミス、こんなのもあるぞっ」
そこはチョコレートの叩き売りだった。
「コンナにイインデスか?」
「さらに入れちゃうよっ」
その中には
当社の製品もあった。
その後、二人は古びた工場に来た。
そこは、鈴木らが若かりし頃、汗水たらして駄菓子に命を吹き込んだ場所であった。
「鈴木サーン、シャリ ナイデス」
「えっ?本物の寿司が作りたかったの?」
ここから、鈴木の孤独な開発が始まった。
中トロのように口に入れたら、溶けて無くなり。
たくさん食べてもしつこく無い。
そんな寿司の駄菓子を!
「いや、手で持っただけで溶けてしまう……」
「うーむ、奥歯をコーティングしてしまう……」
など苦悩の連続であった。
そんな頃
『ヌルヌルぬるね』は完成段階に入った。
「これで良いかね、佐藤?」
「うん、このくらいの甘さがちょうどいい」
「まぁ復刻版とでもうたって、駄菓子王はいただきか……」
「「ハッハッハ」」
鈴木は…………
「イカンイカン、これでは駄菓子王に間に合わない。」
鈴木の苦悩は鈴木の頭頂部を軽く掃除しだした。
抜け落ちる髪
込み上げる眠気
壊れかけのレディオ
今すぐ辞めたかった。
逃げ出したかった。
けど…逃げない
住田のためにも……
住田は10年前に
「中トロが食べたい」
と言って忽然と姿を消した。
5人でやってきた日々を鈴木は忘れない、だから…
「出来た!」
この舌触り
口に入れたら、溶けて無くなってしまうような感触。
「これはまさしく中トロだ!」
「ちょっと待ったぁ」
田中である。
「何だお前ら、BIG3でやってくんじゃないのか?」
「俺達には何か足らなくて困ってるんだよ」
「金ならたくさんあるだろ 帰ってくれ」
「その中トロにもだ」
「インパクトが足らない」
「俺達には他にも鈴木が足らない」
「なぁ一緒にまたやらないか?」
微笑む田中、佐藤、高橋に涙を流す鈴木
4人は
第100回駄菓子王で
『中トロング』により栄冠を得た。
その大きさがこども達のハートを捕らえたのであった。
4人は笑って寿司を食う
前には板前のスミスがいた。
「何ニギリマショウカ?」
「中トロを頼む」
