フランスに学ぶ子育て支援 | Blog by John with Four sisters

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四姉妹の父の日記

以下、伊勢雅臣 [メルマ!:00000115] より抜粋転載。

■3.フランスの出生率を回復させた育児休業制度

 フランスは先進国では珍しく出生率(一人の女性が一生の間に産む子供の数)が2.0を超える国だ。しかも90年代から一貫して上昇している。対する日本の出生率は1.4。近年、若干上向いてきたといえ、はるかに低い。

 日本で子どもを産み育てるのに「悲壮な決意」がいる最大の理由は、母親が出産や育児で仕事を続けられなくなる、ということだろう。その間、収入がなくなり、かつ、好きな仕事を諦めなくてはならない。

 パリ在住の翻訳家で、自ら2人の子どもを育てている中島さおりさんは、フランスはこの問題にうまく対処したことで出生率が上がった、と言う。

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 なかでも85年にできた「育児休業手当」が出生率の上昇に与えた影響は大きいと考えられています。育児休業制度というのは、産休明けから子どもが3歳になるまで、仕事を離れて家で子育てに専念するのか、パートタイムで働けるのかを選べる制度で、会社では無給、あるいは減給扱いになりますけど、その代わり社会保険から手当が出る仕組みです。

 この手当ができた当初は、子どもを3人以上育てていることが条件でしたが、それが94年に2人からでも出るようになりました。子どもが2人の場合、完全に休むと月500ユーロ強、ハーフタイムの場合は350ユーロ弱が支給されるようになりました。日本円で5万~7万円強を超える金額を受け取ることができるようになったのです。

それにより、子どもが小さいうちは自分で育てるという選択が容易になりました。育児休業手当の拡大も引き金になり、95年からフランスでの出生率が回復をはじめたと言われています。[1,p54]
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 日本では子育てと仕事の両立というと、すぐに保育所の充実が議論されるが、東京都の公営の保育所では月額にして子ども1人あたり約19万円ものコストがかかっているという。[a] 乳幼児を他人に任せて月19万円も掛けるよりも、母親に任せて7万円をその母親に直接支払った方が、はるかに安上がりである。

 さらに3歳までの乳幼児期は、母親の愛情をたっぷり受けて人格形成をする大事な時期であり、また母親も育児経験を通じて母として成長する期間である。[b,c]

 育児休業制度とは、健全な家庭を守る、という意味で賢明な制度であり、また育児休業手当は社会的コストから見ても合理的である。同様の仕組みはノルウェー、フィンランド、デンマークでも実施されている。[c]


■4.「子どもが小さいときは、できるだけ一緒に過ごしたい」

 エールフランスでフライト・アテンダント(客室乗務員)として働きつつ、柔道家のフランス人と結婚して、2児を育てているミサコさんも、育児休業制度の恩恵をフル活用している。

 フランスの法定育児休暇は3年だが、エールフランスはもともと国営企業で、今でも組合が強いので、4年とれる。ミサコさんの先輩の中には、4年おきに3人の子どもを産んで、12年間の育児休暇をとった後、定年まで働いた人がいるという。

 また育児休暇の後も、フルタイムから50%までの勤務時間を選ぶことができる。ミサコさんは長女が生まれて、4年の育児休暇から復帰した後も、66%の勤務時間として、2ヶ月働いて1ヶ月休む、というスケジュールにしたという。

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 私がフライトで家を離れるときは、朝は夫が子どもたちを学校に連れていって、夕方はベビーシッターに来てもらっています。勤務日数を減らせば、その分だけお給料は減りますけど、身分は正社員のままで福利厚生などの条件も同じです。

その時々の家庭の事情に合わせて勤務を選べることは、仕事を続けていく上で、ありがたいことですねえ。[1,p40]・・・

 私はこの仕事が好きだし、接客業は性に合っていると思います。フライトでいろいろな国を訪れるのは息抜きにもなるので、定年まで働きたいと思っています。

でも子どもが小さいときは、できるだけ一緒に過ごしたいし、子どもが手を離れたら趣味の写真も再開したいと思っています。いろいろなことをやりたい私にとって、いまの働き方はぴったりしているんです。[1,p43]
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 育児も仕事もこなすという、これこそ女性の幸福だろう。


■5.日本の何倍もの水準の公的家族支援

「育児休業手当」は育児で仕事を休んだ際に失われる所得を補償するものだが、別途、子どもを育てるコストを国が支援する手当がある。

 まず「家族手当」は2人以上の子どもを持つ家族なら、所得制限無しに受け取れる。2年おきに2人の子どもを20歳まで育てた場合、支給される現金は約3万1千ユーロ(1ユーロ150円換算で約465万円)。

 これに加えて「乳幼児受け入れ手当」がある。0歳から3歳まで支給され、所得制限はあるが、国民の80%以上が受け取れる。子ども2人の場合は約8千ユーロ。「家族手当」と合算すれば、3万9千ユーロ(585万円)となる。

 子沢山を奨励するために、これが5人の子どもだと、家族手当15万ユーロ、乳幼児受け入れ手当約3万ユーロ、合計で約18万ユーロ(約27百万円)となる。一方、日本の児童手当は12歳までで、1人180万円、5人でも450万円に留まる。

「家族政策の見本市のよう」と評されるフランスでは、さらに出産先行手当、保育ママを雇った際の手当などがある。しかも、現在、20歳以下の子どものうち、85%がなんらかの手当の対象となっている、という浸透ぶりだ。


■6.子沢山なら、税金も安くなる

 フランスの家族支援は手当の支給ばかりでなく、税金面でも抜かりない。冒頭で登場いただいた4人の子育て中のタカコさんはこう語る。

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 フランスでは子どもを育てることに対していろんな優遇措置がとられていますが、わが家の場合は、そのなかでも税金について一番恩恵を受けていると感じています。[1,p49]
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 フランスでは、世帯の収入を家族人数で割って税額を算出する方法をとっている。たとえば、夫婦で年収6百万としたら、子どもなしの家庭は一人あたり3百万の収入として税額が計算されるが、子どもが4人いたら、最初の二人の子どもは0.5人分とされるので合計5人、一人あたり120万円の収入と見なされる。それだけ税金も大幅に安くなる訳だ。

 保育園や学校の費用も、我が国とは大違いである。3歳からの無料の保育園にほぼ100%の子どもが通う。小学校と同じ敷地内にあり、朝8時半から4時半まで預かってくれる。タカコさんは言う。

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 3歳になった下の子が今年から学校(保育園)に通い始めてからが、子育てがこれまでで一番楽になりました。フランスでは3歳から公立の学校に通えるのも、日本との大きな違いです。今では4人とも同じ敷地内にある学校(JOG注:保育園と小学校)に通っています。

私の通訳の仕事は不規則で、フランス以外のヨーロッパの国に出張することも多いので、月曜日から金曜日まではお手伝いさんとベビーシッターを兼ねた人に来て貰っています。私の出張と主人の残業が重なった場合などは、泊まってもらうこともあります。
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 ちなみに、フランスでは公立校に通う限り、大学までは無料である。日本では子どもを大学までやろうとすると、1人2千万円かかる。4人なら8千万円。大卒のサラリーマンの生涯賃金が3億円程度と言われているから、日本で4人の子どもを育てようとするには、それこそ「悲壮な決意」がいるが、タカコさんには学費の心配をする必要もない。

■8.国民を不幸にし、国の未来を自ら暗くしている現在の日本

 フランスがいかに手厚く子育てを支援しているかを見てきたが、日本で同様なことをするには税金が足りない、という意見がすぐ出てくるだろう。

 しかし、1人あたりGDP(国内総生産)はフランスが約4万4千ドル(100円換算で440万円)に対し、日本が約3万85百ドル(385万円)と、それほど違いがあるわけではない。フランスにできて、日本ができない訳はないのである。

 現在の日本の公的家族支援は対GDP比で0.75%だが、フランスは3.02%。フランスの比率は、イギリスの2.93%、スウェーデンの3.54%と欧州各国と比較しても、決して突出した水準ではない。

 逆に日本はアメリカの0.70%と並ぶ低い水準である。もともとアメリカは個人の生活に国が介入するのを嫌う傾向があり、政府による公的支援は極端に低い。そのアメリカと同じ水準でしかない、という事は、日本の公的家族支援の手薄さを示している。

 フランスでは「国を守るためには人口が重要なんだ」と小学校から教えているという。育児支援、特に子沢山ほど手厚く支援するという制度は、その思想の反映である。

 フランスのように国家政策として多産を奨励するかどうかについては、いろいろな議論があるだろうが、それとは別の次元で、子どもを産みたいのに産めない家庭が少なからずある、という事は、国民生活にとって解決すべき問題である。

 また、外国人留学生には奨学金や渡航費まで援助するのに、自国民が大学まで出るのに2千万円も覚悟しなければならない、というのは、誰が見ても馬鹿げた政策である。

 子どもを産み、高度な教育を施すということは、将来の優れた国民を育て、かつ税収を増やす、ということであり、将来投資として税金を投入する、というのは合理的な国家政策である。

 明治初期の日本は、貧弱な財政の中でも、全国津々浦々に無料の小中学校、師範学校などを作って、多くの人材を育て、そのエネルギーでわずか半世紀で世界の5大国の一つにのし上がった。

 それに対して、現在の日本は誤った政策から、子育てを「悲壮な決意が必要」なものとして、国民を不幸にし、国の未来を自ら暗くしているわけである。明治の先人たちは墓場の陰で「何をやっているのか」と歯がみしているのではないか。
(文責:伊勢雅臣)