アンダーグラウンド / 村上春樹 | [A] Across The Universe

アンダーグラウンド / 村上春樹

厳密には村上春樹の作品とは言えない。
彼が書いているわけではないから。

しかし、証言した60人近くを、ほとんど村上春樹がインタビューしている。
彼が書くのは、インタビューした方の印象とその背景のみ。

危機的な状況から回復したが、まだうまく話せない方と面会した際の状況(一人)だけを村上春樹が描写している。
そこで、あれだけ生と死を描写してきた村上春樹が、「生きる」ということがどういうことなのかと言う「根源的な命題」に直面した、と書いている。


以前から生と死をテーマに書いてきた作家が、圧倒的な事実を目の前にして「生という根源的な命題」とまでいわざるを得ない状況がそこにあったということだ。



1995年3月20日。
地下鉄サリン事件が起きた日のことは今でもはっきり覚えている。
当時、茅場町の近くにオフィスがあった。
鳴り響くサイレンの音。

当時私も東西線で通勤しており、路線こそ違え、一つ間違うと被害者だったかもしれない。
都内に通勤する方は、そんな方がたくさんいただろう。

たまたまその日が早く出る日だった人、遅く出る日だった人。

運悪く乗り合わせたものの、運良く被害が軽症で済んだ人。


多くの方が命を落とした阪神大震災の2ヶ月後、テロによって12人の方が命を落とし、数えきれない方々がその後の人生を大きく変えることになった。

なんの落ち度もない方々が、訳の分からない連中によって被害に遭い、社会復帰後も後遺症から来る能率の低下等により会社をやめざるを得ないなどの二次被害を受けた。

あの理不尽な事件をどう総括すれば良いのか。
麻原が死刑になったとしても、未だに消すことが出来ない漠然とした不安。



千代田線の駅員だった方の証言が重い。

彼は、「オウムみたいな人間たちが出てこざるを得なかった社会風土というものを私は既に知っていた」と言う。
日々駅で多数の人間に接していると、マイナスの面がよく見えると。
他人の批判はしても自分の責任は果たさない、そんな人間が1995年当時既に増えていたということだ。

あれからもうすぐ15年が経つ。

あのようなものを生み出す社会が変わったと言える自信が私にはない。






アンダーグラウンド (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
売り上げランキング: 6135
おすすめ度の平均: 4.5
5 恐ろしいです、こんなことが実際起こったと思うと・・・
5 真のサリン事件の記録であり、マスコミが放送しない被害者の方々の真実の物語
5 「世界の圧倒的暴力」と「作家の倫理」について
5 時間は流れるが…
5 人間社会という薮の中の中の真実