木のいのち木のこころ (2)/ 西岡常一、小川三夫、塩野米松
前回に続いて「木のいのち木のこころ」
代々伝わる口伝に忠実に従い、宮大工としてのプライドを保ちつつ法隆寺を守り通してきた西岡常一師匠。
その生活の厳しさから、自分の子供も跡継ぎにはしなかった。
しかし、たった一人だけ弟子をとった。
その人が小川三夫。
栃木の進学校に籍を置き、修学旅行で訪れた法隆寺の五重塔に心を奪われる。
みんなと同じ進学ではなく、1300年間もびくともしない建物を造る職人の技術を受け継ぎたい。
卒業間際の小川は、つてもなく奈良県庁を訪れ、宮大工を紹介してもらう。
それが師匠となる西岡常一だった。
しかし、仕事がないと追い返される。
彼は仏壇屋、家具屋、図面引きの勉強をしながらひたすら待った。
そして3年後、法輪寺の三重塔の再建の仕事でやっと弟子入りがかなう。
弟子入りして最初にいわれた言葉が「道具を見せてみい」。
そして、小川の道具を見てポイと捨てる。
そして「納屋を掃除しておき」。
これは、納屋には自分の道具が置いてあるから、それを良く見ておけ、ということだった。
そんな、直伝の技を吸収しつつ、徐々に一人前になっていった小川は、薬師寺にかかりきりの西岡の代わりに、中断していた法輪寺三重塔の棟梁を26歳で任される。
2年後に塔は完成した。
塔の回りの素屋根をはずしていく。
一番上がはずされ、相輪が見えた。
三重の屋根が現れたとき、小川は真っ青になる。
屋根が大きく傾いて空に向かって反り返っていた。
これは腹を切ってお詫びしなければならないと小川は思った。
しかし、二重、初重が現れたとき、反り返っているように見えたのが錯覚だったとわかる。
この始めての仕事は、今でも反り返っている屋根の夢を見ると言う。
その後小川は西岡に弟子入りしたまま、宮大工を「食える」職業にすべく、鵤(いかるが)工舎を作る。
日本全国、請われれば出向いて自社を作る宮大工養成所である。
弟子を持つようになり、自分と同じように同じ釜の飯を食いながら育てる小川はこう言う。
「個性なんてものがなければ、誰にでも同じ方法で教えてやれるけど、人は木と同じでそれぞれ癖があるんだ。それを無視したらだめになってしまう。癖を生かすように、それを伸ばしてやるのが教える側の勤めや。」
「いまの時代は何でも早くやりたがり、究極の目的を儲けることに置いているから、このように時間をかけてものを教えたり、教わったりすることはなかなかできにくいわ。人間はみな不揃いなんだ。そのことを忘れているから教育が問題になるんやないか。」

西岡 常一, 小川 三夫, 塩野 米松
木のいのち木のこころ―天・地・人 (新潮文庫)
代々伝わる口伝に忠実に従い、宮大工としてのプライドを保ちつつ法隆寺を守り通してきた西岡常一師匠。
その生活の厳しさから、自分の子供も跡継ぎにはしなかった。
しかし、たった一人だけ弟子をとった。
その人が小川三夫。
栃木の進学校に籍を置き、修学旅行で訪れた法隆寺の五重塔に心を奪われる。
みんなと同じ進学ではなく、1300年間もびくともしない建物を造る職人の技術を受け継ぎたい。
卒業間際の小川は、つてもなく奈良県庁を訪れ、宮大工を紹介してもらう。
それが師匠となる西岡常一だった。
しかし、仕事がないと追い返される。
彼は仏壇屋、家具屋、図面引きの勉強をしながらひたすら待った。
そして3年後、法輪寺の三重塔の再建の仕事でやっと弟子入りがかなう。
弟子入りして最初にいわれた言葉が「道具を見せてみい」。
そして、小川の道具を見てポイと捨てる。
そして「納屋を掃除しておき」。
これは、納屋には自分の道具が置いてあるから、それを良く見ておけ、ということだった。
そんな、直伝の技を吸収しつつ、徐々に一人前になっていった小川は、薬師寺にかかりきりの西岡の代わりに、中断していた法輪寺三重塔の棟梁を26歳で任される。
2年後に塔は完成した。
塔の回りの素屋根をはずしていく。
一番上がはずされ、相輪が見えた。
三重の屋根が現れたとき、小川は真っ青になる。
屋根が大きく傾いて空に向かって反り返っていた。
これは腹を切ってお詫びしなければならないと小川は思った。
しかし、二重、初重が現れたとき、反り返っているように見えたのが錯覚だったとわかる。
この始めての仕事は、今でも反り返っている屋根の夢を見ると言う。
その後小川は西岡に弟子入りしたまま、宮大工を「食える」職業にすべく、鵤(いかるが)工舎を作る。
日本全国、請われれば出向いて自社を作る宮大工養成所である。
弟子を持つようになり、自分と同じように同じ釜の飯を食いながら育てる小川はこう言う。
「個性なんてものがなければ、誰にでも同じ方法で教えてやれるけど、人は木と同じでそれぞれ癖があるんだ。それを無視したらだめになってしまう。癖を生かすように、それを伸ばしてやるのが教える側の勤めや。」
「いまの時代は何でも早くやりたがり、究極の目的を儲けることに置いているから、このように時間をかけてものを教えたり、教わったりすることはなかなかできにくいわ。人間はみな不揃いなんだ。そのことを忘れているから教育が問題になるんやないか。」

西岡 常一, 小川 三夫, 塩野 米松
木のいのち木のこころ―天・地・人 (新潮文庫)