床屋話1 | [A] Across The Universe

床屋話1

5年前から通い続けている理容室がある。
私の働くオフィスが移転したので、遠くなったにもかかわらず、また立地条件が良いため料金は割高にもかかわらず通い続けているのは、若いマスターの腕が良く、従業員がみんな礼儀正しく気持ち良いから。

同じ北海道出身のマスターとは話が合う。
お互い無口な方なので話が弾むわけではない。
今回は、マスターが北海道へ従業員のリクルートに向かった話を聞く。
理容業界は人手不足で、その理容学校でも道外への就職希望者20人を100社で争奪している状況なのだとか。

「なかなか地元から出ようと思わないですよ、私もそうでしたから」

マスターも卒業後は当然札幌で就職を考えていた。
10年以上前も理容師は就職率100%。
学校での成績も良かったマスターは、地元の理容室に面接に向かい、就職を確信しているところに後日不合格を知らされる。
成績も良く、就職に失敗する奴なんか当然周囲にはいない。

うちひしがれ、半ばヤケクソで東京、銀座から来た理容室オーナーの話を聞いてみたところ、オーナーの人柄の良さと、働き易そうな職場の雰囲気に北海道を出て就職することを決める。

その後はめきめきと頭角を現し(おそらく)、なんと30歳前にして独立し、都内のそれも中心地に店を構えることになる。
最初の頃は客がつかず、応援の意味を込めて私も頻繁に通ったが、隣に巨大なビルが建った直後から状況は一変。
女性、海外の方を含めて土日もフル回転の忙しさとなった。
昨年末には近隣に2号店を開店。

「あのとき、あの店に不合格にされていなければ、今の私はないんですよ。
心の中であの店をずっと恨んでました。
でも最近になって、やっとあの不合格が必然だったとつくづく思います。
その時は悪く思えても、後から振り返ると神様の思し召しとしか思えませんね。」

この状況が続けば3号店も考えているという。


まさに人間、万事塞翁が馬
禍福はあざなえる縄のごとし

勇気が出る良い話を聞かせてもらったので、備忘録として。