沈まぬ太陽 / 山崎豊子 | [A] Across The Universe

沈まぬ太陽 / 山崎豊子

長らく読みたかったにもかかわらず、なかなか機会がなくやっと読むことができた。
山崎氏の著作は「大地の子」を読んだことがあり、非常に感銘を受け、この「沈まぬ太陽」も傑作に違いないと思いながらも何故今になるまで読まなかったのか。
遅ればせながら読むことができて良かった。
このような本に出会うことができるから、読書は楽しいのだ。

ある男が某国営航空労組の委員長を引き受けたがために、彼の人生を左右させるほどの人事差別を受けていく。
10年にわたる歳月を、アフリカでたらいまわしにさせられながら耐えて行く「アフリカ篇」。
いまだに夏になると思い出す「御巣鷹山篇」。
関西経済から経営建て直しのために就任した会長を支えるための会長室の部長として社内の暗部と格闘する「会長室篇」。

全体を通じて作品の底流を流れる、「人間の尊厳」とは何か、という作者の問いかけに対して読者も考えながらページをめくる。

「御巣鷹山篇」だけは、この作品のなかでも独立している。
文庫であれば3巻目だけを読めばあの悲惨な事故が甦る。
御巣鷹山篇だけは事故の被害に遭われた方が実名で登場する。
改めてあの事故がどれほどの人間の人生を狂わせたかを思い知らされる。

事実を元にして「小説的に」構築した作品であるために、登場する人物は「大体」実名がわかってしまう。
取材対象も「差別された側」からの情報が多かったであろうことは想像に難くなく、その点については批判があることも承知している。
しかしながら、片方の側から見えた「事実」がここにあるのである。

会社と個人の関係について考えると共に、作者の力量に感服した。


山崎 豊子
沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上)