【指揮】 ヘルベルト・ブロムシュテット
【演奏】 サンフランシスコ交響楽団
【録音】 1988年
これも随分前に、セルのものを挙げていた様な気がします。R・シュトラウス本人から、「彼の様な若者がいれば思い残すことはない」的な事を言われたとの事で、それだけに好きな解釈でした。ただ、ステレオの最初期の1957年に真っ先に録音されていて、ギリギリ、ステレオに聴こえるみたいな感じです。そこが難点でした。
ショルティも完璧なシュトラウス指揮者と言えますし、シカゴの鳴らしっぷりは、もはや恐ろしさすら感じますが、70年代の録音で、何だか周りでガチャガチャとノイズが入っているのが玉に瑕。テンポなど解釈は一番好みでした。
マゼールとVPOのも解釈は悪くないけど、例によって彼らの60年代のは音が悪い。ハイティンクのは音がはっきりと左右に分離され過ぎ、ヴァイオリンが左からしか聴こえてこない。
後のは、カラヤンも含め、みんなテンポが遅い。これもまたなかなか決定盤を見つけられずにいました。そこで、このブロムシュテット氏のもの。氏にとってもシュトラウスは十八番なのでしょう、これ以前に音楽監督をしていたドレスデンとも録音しています。事あるごとにドレスデンの大人しい音があまり好きでない、と書いていますが、その録音では冒頭のティンパニのダダダダン!の音なんて、風呂の中でこいた屁の様です(失礼)。
このサンフランシスコ響との録音ではティンパニは明瞭に強打しているので安心。ブロムシュテット氏も、サンフランシスコ響ひいてはライプツィッヒ管とドンドン良くなっていきましたよね。以前、サンフランシスコ響とのマーラーの交響曲第2番「復活」を挙げていました。スマートで聴きやすい盤です。ただ、特に最終楽章の盛り上がりの音のレンジを捉え切れておらず、鉄板のカランカランという魅力的な音も小さかったですね。「復活」のベストはベルティーニ、ショルティのも良いし、シャイー氏とライプツィッヒ管のBlu-rayも決定盤。比べるとどうしても劣るので外した次第でした。
で、ここで再度、サンフランシスコ響とのコンビでご登場願ったわけですが、うん、これはテンポ感もいいし、録音の瑕疵も少ないし良い演奏ですね。演奏時間も17分台に収めていて、実際に聴くともっと短く感じます。
サンフランシスコ響の音はなんだか掴みどころがないです。マズアによってマズくなったライプツィッヒ管をブロムシュテット氏が復活させましたが(ご自身の伝記で相当酷い状態だったと書かれています)、素晴らしくなるライプツィッヒ管の前段階にあるような音です。この楽団の音をベストとは言えませんが、悪くはないです、少なくとも氏のドレスデンの録音よりは。
正直、嫌いなR・シュトラウスものなので、そこまでこだわりもありません。自分の好みのテンポで演奏してくれたら、というところです。前から書いていますが、未だにR・シュトラウスの音楽が理解出来ません。なんか音が流れているけれど、分かりづらいなあ、と。「ティル」とかも全く好きになれません。そんな中、数年前にシャイー氏がルツェルン管と来日した際は、プログラムがR・シュトラウス一色でガッカリし、悩みましたが聴きに行きました。「ツァラトゥストラ」と「死と変容」が、生で聴くととても素晴らしかったですね。ライブなら良いと思えるんだな、と驚きました。
そんな中、この「ドンファン」だけは昔から特別に気に入っていました。R・シュトラウスは、交響詩というジャンルは、実は青年期で書き終えているのですが、その最初の曲がこれです。なので、変に凝ったところがなく素直なのが良いのかもです。巷では、「ティル」とか「英雄の生涯」の方が、下手すると「アルプス交響曲」の方が評価が高いのは残念です。このCDのカップリングがその「アルプス交響曲」で、念のため聴いてみましたが、やはり訳わからず途中で聴くのを止めました…
さて、気を取り直して、ドンファンもまた、オープニングの1分30秒ほどのテーマで、解釈の好き嫌いがはっきり分かります。セルやショルティ、アバドにマゼール、ハイティンク、そしてこのブロムシュテット氏のはどれも快速テンポでほぼ似通っています。なので、冒頭のティンパニの元気の良さと、録音の状態から選盤したという感じです。ただ、ルビジウム・クロック・カッティングと表記されていますが、イコール=リマスターしてません、なので音量はかなり小さめです。
ドンファンのテーマの後に、ドンファンが関わってきた女性のテーマが流れますが、この辺りは、ブロムシュテット氏より他のCDの方が感傷的な様に思います。後半もう一度盛り上がるところは、やはり氏の解釈はよろしいですね、楽しめます。
さて、ブロムシュテット氏、昨年の秋のN響は来日されずキャンセルになりました。払い戻しがなかった事には憤りました。コロナ禍になる前のライプツィッヒ管との来日を観ておけば良かったなと、とても後悔しています。数年前に転ばれてから、椅子での指揮にもなってしまいました。Blu-rayで観たベートーヴェンの交響曲が最高に素晴らしかったので(CDも)、哀しい気持ちです。やはり椅子での指揮には魅力が感じられません。そこまでいけばもう裏方に回られた方が良いのではと。
ライプツィッヒ管を降りてもCDは活発に出ていました。ただ、バイエルン放送響とのモーツァルトの40番のライブ録音は良かったのですが、古巣とのブラームスの交響曲、シューベルトなどは、どれも信じられないくらいテンポが遅くて、ベートーヴェンでの快活さは完全に消えてしまいました。ああ、遂に「上がり」だな、と思ったものです。昨年のドタキャンからもう来日はないかと思っていたら、2024年の10月もN響とやるみたい。正直、怖くてチケット買えません。座っての指揮でしょうし。もちろん、もう無理はして頂きたくないですね。Blu-rayでの良い時のお姿を観て楽しむ事にします。
ショルティは、年齢は82歳と少し若かったですが、凄かったですね。最後の来日時に、小走りで走ってきて、指揮台に飛び乗って、喝采を浴びていましたから。ビール腹にならないように節制しているとも言っていました。バーンスタインみたいになったらいけませんもんね。人間いつか死に、活動を終えますが、ああいう世界に知られる様な芸能人さんが、最高の状態で、こんな日本人の記憶に残っているなんて、素敵だな、と思います。やっぱり終わり方が大事ですね。まさにドンファンの様に、女好きとも批判されたショルティですが、女好きで何が悪い!男として当然でしょう(笑)。