ターミナルを目前に

膀胱癌により毎日血尿が出て

定期的な輸血をしながら

生活をしている男性がいました。

心臓にもペースメーカーが入っており

少しの動作でも息が上がってしまう。

それでも最後の最後まで自分の足で

トイレに行く事を続けた方。


熱心な娘さんが

かなり頻回に面会に来てくださいました。

病院付き添いの時も

スタッフが、大変だろうと

いつも付き添ってくれました。


いよいよ、病院付き添いも、

この男性の体力的な問題で

難しくなってきていました。


娘さん一人での付き添いでは

不安になり、スタッフも付き添う

事にしました。


娘さん

「もう、最期も近いし

心臓に負担のかかる

カリウムの高いもの

禁止されてましたけど

解禁してあげたいんです。

果物も大好きで

美味しいもの食べて

最期を迎えて欲しいんです」と。


私たちスタッフも同感でした。

早速

通院していた総合病院に行き

その思いを医師に伝えました。


医師

「バカ言うんじゃないですよ。

あなたは

警察に、赤信号渡って良いですかなんて

質問することありますか?

命を短くするとわかってる事に

医師である私が

首を縦に振ると思いましたか?ダメです」

わたしたちの質問に覆い被せるように

即答した医師。


ルールはルール

娘さんもダメというなら仕方ないと

諦め、先生の指示に従いました。


いよいよ

男性は通院も難しい体力となり

今までお世話になった総合病院の先生から

情報提供をいただき

往診をしてくださる

他のクリニックの医師に

引き継がれました。


ダメ元だと思いつつも

今までの経緯を説明して

新たな担当医師に

「最期くらい好きなものを食べさせたい」と伝えました。


先生はあっさりと

「そうね、そうしましょう。

好きなもの、たくさん食べて

悔いなくね」と答えてくれました。


娘さんは

医師のその答えに

涙ぐんでいたように思います。


大好きな果物を

娘さんは持ってきては

お父さんに食べさせてくれました。

ホームの献立でも制限なく

メニューを提供できるようになりました。


それから数ヶ月、食べる意欲も低下し

最後の老衰を迎え

亡くなる直前でも、

聞こえてくる演歌「兄弟船」に

あわせて歌を口ずさみました。


男性は亡くなりましたが

やりきった気持ちで娘さんは

スタッフみんなに感謝の気持ちを

伝えてくれました。


命を縮めるとしても

最期の最期で

叶えてあげるべき事

二人の医師の判断のどちらが

正義で、どちらが悪なんて

言ってはダメなのかな?


とはいえ私は確信しますが、

最後に看取ってくれた医師の

判断にこそ、心から救われた。


最初の総合病院の医師に

最期までお願いしていたら

娘さんのあの清々しい

看取った後の表情は

見られなかったでしょう。


命を縮めるとしても、選択すべき

その人らしい生き方を守るための

お手伝い。

介護の仕事の大事な側面です。