大伴家持(おおとものやかもち)

振り放(さ)けて三日月見れば一目見し人の眉引(まよびき)思ほゆるかも
(万葉集・巻六・九九四)

【意味】遠く空を振り仰いで三日月を見ると、ほ
んの一目だけ見た人の引き眉が思われること
だ。

【解説】天平五年(七三三)の作。当時家持は十
六歳。家持の最初期の作。直前の叔母大伴坂上
郎女の歌と同様、初月(みかづき)を詠んだ題詠である。こ
の歌も叔母の指導を得て詠まれたらしい。「振
り放けて」の「放く」は対象との距離をつくる
意。振り仰いだ月に恋人を思うのは恋歌の常
套。「眉引」は、眉を抜き、黛で描いた引き眉
のこと。三日月のように細く描くのが唐風の最
新モードだった。

出典:『三省堂 名歌名句辞典』、三省堂、H16