イングランドの王家の史実に基づいた、姉妹の驚くべき秘話……ロングセラー小説「ブーリン家の姉妹」を映画化した作品。

イングランド王ヘンリー8世と言えば、史上最もインテリだった王とも言われるが、幼少期からドーヴァー城の城主、五港長官に任命され、ヨーク公を 授爵し、さらにイングランド紋章院総裁およびアイルランド総督を拝命したりという大変な苦労をしていたり、6人の王妃を迎えた絶倫としても知られる有名な 王。

この物語は、その王をめぐって、第二王妃となったアン・ブーリンと、その妹メアリーとが、王を巡る運命に翻弄されていく華麗でありつつも重たい悲劇。そして、エリザベス1世誕生の秘話を明かした物語でもある。

「時は16世紀イングランド。20年にわたる結婚で王女メアリーしかもうける事ができなかったヘンリー8世(エリック・バナ)は男子の世継ぎを産 むための愛人を探していた。一族の富と権力を高めるため、新興貴族のブーリン卿は自慢の娘アン(ナタリー・ポートマン)を差し出す。しかし、王が見初めた のは清純で心優しい妹のメアリー(スカーレット・ヨハンソン)だった。王の寵愛を射止めるのは2人のどちらなのか……。
断頭台の露と消えた悲劇の王妃アンと知られざる妹メアリー。ブーリン家の2人の姉妹の間で繰り広げられた熾烈で華麗なバトルに隠された愛の真実とは? いま明かされる、エリザベス1世誕生の秘密がここに!」(チラシよりストーリー抜粋)

映画の内容としては、悲劇に属するストーリーではないかと感じる。
幼い頃、無邪気にすくすくと仲良く育った姉弟、姉妹……。
それが、王の愛人を巡る一族の富と権力への執着によって、大きく運命を変えられてしまう。
姉妹は、お互いに深い愛情で結ばれているはずであった。
先に結婚することになった妹に無条件の姉妹愛を注いでいた姉。
そして、弟と姉妹との関係も実に理想的な一家であった。
名門ではなかったが、幸せな家庭がそこにはあったはず。
それが、母の一族……これが名門貴族で、母は名門の名よりも愛を取り、父と結婚していたのだが……が、王に娘を捧げることで富と名声、権力を手に入れようと動き始めたために、一家の運命が大きな渦の中に巻き込まれていくことになる。
王を一家に呼び、姉を愛人として捧げようとする一家。
しかし、勝気な姉は狩りを巡って王と争い、王に怪我をさせてしまう。
その王を健気に看病した妹を王が見初めてしまう。。。
妹の夫も、宮廷に入れると言う富と名声に目を奪われ、妹が王に召されることに。。。
姉は、その時点では大きな嫉妬等にも襲われなかったのだが、自らが秘めたる許されざる愛、とある貴族との秘密の結婚、そしてその初夜を一家にバラされてしまったことで、国外追放されるとともに愛を引き裂かれる羽目になり、妹のことを激しく恨む心が芽生えてしまうのだ。
その後、妹は王の子として男の子をもうけるが、妊娠してしまった後の体調をめぐり王との距離が生じてしまい、それを憂いた一族がフランスに国外追放していた姉を呼び戻す。
ここからが姉妹の壮絶なるバトルの本格化。
男を操る術と知恵を身に付けていた姉は、妹と王との距離を作らない、ということを建前にして王を誘惑し、ついには王と王妃との関係を切り裂こうと画策する。。。
描かれているのは、女性として、姉としての、狂おしき嫉妬心と王を操るという権力意識の怖さなのかもしれない……が、最後までその運命を見届けて感じさせられたのはまた別の側面。

結局、姉は王妃になることに成功するのだが、男の子をもうけることができず、焦りのあまり、通常なら考えも及ばないような行動に出る。。。その実のところは、ストーリーの通りなのかどうかは分からない。
そして、チラシのストーリー抜粋にあるとおり、最終的には断頭台の露と消える悲劇に。
その後の様子は詳しく描かれていないのだが、その後に王妃となった4人の女性を差し置いて、結局はこの姉の子、エリザベスが名女王としてイングランドに君臨することになる皮肉であり運命的である史実。

全体を通じて感じられたのは、結局誰しもが男尊女卑の時代において、そして富と名声と権力とが全ての時代において、その欲望に振り回され、運命を狂わされてしまったのだな、ということ。
権力志向の強い一族の男性陣によって、愛に生きることを許されず、運命を狂わされた女性達の悲劇。
唯一、王との仲を引き裂かれたことが災いを転じて福となす、幸せな人生を送りエリザベスを育て上げた妹メアリー……その強くて美しい姉への愛と、運命を狂わされ目を眩まされながらも保ち続けた清純さと優しさ。
男児を……そこにこだわり続けなければならない王族の哀しき誤解。
まさか、その後統治した女王が名君となることを知る由もなく。
イングランド、ひいてはイギリスの王族という名声の影にある重く厳しい宿命。

様々なものが心に響き、胸を打つ、実に重厚な映画。
この作品を見て、もう一度「エリザベス」「エリザベス ゴールデンエイジ」「QUEEN」といったイギリス王家の映画作品を見てみたい、そう感じた。
華麗で強い、それだけではない何かを改めて感じ取ることができるのではないか、と。

また、日本でも皇族の後継ぎを巡る論争が、今でこそ少し鳴りを潜めているものの、また再燃することも感じられるこの時代。
男児に拘ることが、そんなに重要なことなのか?多くの人々の運命を大きく変えてしまうような、また、生まれたその時から一人の人間としてではなく 重たい宿命を背負った皇族として扱われなければならないものなのか、もっと人権や自由を考え、また、イギリス王家のようにとはいかずともオープンな環境に できないものなのか、そういうことも考えさせられた。

非常に見応えのある、そして心に残る映画であった。