今や、ハリウッドでも活躍する工藤夕貴の日本での実に17年ぶりの主演作となる「春よこい」の凱旋披露試写会に出かけてきた。
なぜ、凱旋なのか、と言うと、東京での試写会を前に、撮影の舞台となった佐賀で、先行一般公開されていたから。
しかし、「凱旋疲労試写会」の名に恥じない、豪華な試写会。
主演の工藤夕貴はもちろん、主要キャストの時任三郎、宇崎竜童、高橋ひとみ、犬塚弘、子役の小清水一揮、監督の三枝健起が顔を揃え、さらに佐賀からも応援部隊が駆けつける試写会。
招待客の中には、国会議員も見られる。
そして、今までになく丁寧この上ない舞台挨拶。
キンメダイをイメージしたという赤いドレスの工藤夕貴の語りぶり、熱意から、この映画にこめられた彼女の強い情熱を感じ取ることができた。
悲しい事件が世間を賑わす今日ではあるからこそ、古きよき日本の家族の絆、人々の温かさを感じられる映画である、と。
そして、キャストそれぞれが、時にユーモアを交え、映画への想いを熱く語ってくれる。
これだけ、多くのキャストが、監督が、しっかりと時間をかけて、作品に掛けた想いを語ってくれたのは初めてのことであり、映画を見る前から、こっちもその熱意に押されて感動してしまっていた。
個人的には、工藤夕貴を間近で見られたのももちろん嬉しかったけど、名曲の数々を作っている宇崎竜童を間近で味わえたことに喜びを感じた。
子役の小清水くんは、名優の雰囲気をしっかり持ち合わせていながら、ネタバレしちゃうあたりに可愛らしさも見せてくれ、好感が持てたな。

さて、作品の内容。
「昭和晩年秋、海辺の町、唐津市呼子。家族の暮らしを守るために、誤って人を死なせて逃亡した父・修治。9歳の息子・ツヨシは、4年たった今で も、大好きな父の帰りを待ち続けている。その切ない心を優しく包みながら、母・芳枝は、気丈に母子の暮らしを支えていた。父恋しさのあまり、ツヨシは、交 番前の掲示板に手を伸ばし、写真の父にそっと触れる・・。それは、毎年この時期に張り出される指名手配犯の写真だった。その姿は、新聞記者・岡本に目撃さ れ、「父ちゃん、今年もまた会えたね」という"感動の記事"になる。記事は、事件の心ない噂を蒸し返すと同時に、意外な人々による暖かな反応も呼び起こ す。果たして、この家族に春は来るのだろうか・・。」(パンフレットより)

この作品は、「父ちゃん今年もまた写真が出るね」という一言、逃亡犯を父に持つ男の子が指名手配犯が張り出される時期を知って言った言葉がヒントになって誕生した作品だという。

例え、罪を犯したとはしても、父はかけがえのない存在。
息子にとって、父への愛は変わらない。。。
その純粋な家族愛が心を打つ。
いじめにあい、心ない噂の種にされても、家族の絆を深く太く強く持って生きる母と子。
母が一人雨の中で想いを吐き出すシーンもあるが、現実に立ち向かう強さを強烈に感じさせる、「弱者」ではなく、強き母、深い愛情を携えた妻としての姿。
胸を打つシーンである。
そして、執念を持って逃亡犯を追う刑事……しかし、その本性は人情に厚い老兵。
逃げている父も、新聞記事を読み、家族への愛を止められなくなる。
それをそっと支える人々の温かさ。
ひたむきな家族愛と、今日忘れられかけているような人情に溢れた社会……結末へ向かうほど涙をこらえきれなくなる作品。
また、この作品は風と風車をひとつのキーワードにしているのだが、映画の撮影舞台裏を監督が明かしたところによると、風が吹いてほしいときに吹いてくれ、止んでほしいときにはぴたりと止んで……それは奇跡的とも言える撮影タイミングを生んでくれたのだとか。
これも、我々が忘れかけていて、今思い出さなければならない、深い家族の絆や、人情味溢れる世の中を描こうとした、映画スタッフ達の思いのなせる業かと思う。

ふと周りを見れば、荒みつつあるように思えて仕方ない今日の日本。
しかし、先日の秋葉原の事件でも、必死に他人を救おうとする人々が大勢いたことも記憶に新しい。
都会と田舎とが二分され、過疎化の進む地域に、隣近所に関心の薄い都会といった寂しい世の中になりつつあるのも事実だが、我々の中に、まだまだ温かい血は流れている。
それを思い出して、誰もが支えあって生きる、人情味に溢れた世の中を取り戻したいものだ。
他人を思いやり、家族を愛し、何気ない毎日を大切にする、そんな暮らしを続けたい。