作家・伊集院 静氏が亡くなられました。
私が氏を知ったのは、おそらく小説家としてデビューはされていたんでしょうがまだ“世に出た”とまではいかない頃だったのではありますまいか?
アサヒ芸能というお父さん向け雑誌の公営ギャンブルのページで競輪のコラムを連載されていた頃であります。
他にもボートレースや競馬などコラムの書き手はおられましたが、氏の競輪のコラムだけは妙に文学的で、しかもギャンブル漬けの生活をしている事を自らに鞭打つような辛辣さで自虐されていたように記憶しております。
お母様から「ちゃんとして下さい」と、電話でだったか一行だけの手紙でだったかで言われた、という話は妙に心に残っております。
小説が有名になり始めても暫くは『無頼派作家』のレッテルを貼られ、まだまだギャンブル漬けからも抜けきれずにいた頃、夏目雅子さんとの結婚で世間を驚かせています。
CMモデルから女優に転身し、様々な人や作品と出会って遂には“当代一の実力派女優”にまで駆け上がった夏目さんと無頼派作家の結婚は、またその前段として某ベテラン有名女優さんと夏目さんが“奪い合い”の末であった事も併せてスキャンダラスに報じられたものであります。
ただ、結婚生活に入ってからインタビューに応じた夏目さんの笑顔は美しさと愛らしさが同居した、陳腐な表現で申し訳ないが【この世の者とは思えない】まさに【絶世】でありました。
女性は付き合ったり、生活を共にする男で、こうまで変わるのか、と。
まぁ、これは逆もまた真で、夏目さんという伴侶を得た伊集院さんもまた無頼派特有の“険”みたいなものが容貌から消えたように見えたものであります。
後に単行本化もされた週刊文春誌での 連載エッセイで、夏目さんとの出会いから生活、そして『美人薄命』を体現したかのような別れ、そして生涯のパートナーとなった篠ひろ子さんとの事まで、率直な表現で、しかし過剰な情緒は持たせず務めて淡々とした文体で書かれておりました。
一方で、氏の根っ子にある“無頼”が時折顔を見せたかのような出来事も引き起こしてはおられましたがね。
無頼派作家兼ギャンブルライター的な暮らしをしていた頃から、自責と自虐を常に抱え込んで、それが文章にまで滲み出ていたのを見て、
「この人は長生きできんだろうな」
とは感じていたんです。
……そもそも無頼派の方で天寿を全うした人なんて聞いた事もありませんが。
でも73歳で、というはチと早過ぎるんじゃありませんかね?