ミステリ、映画、ときどきドラマ(主に海外)

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海外ミステリ、海外ミステリドラマ、そして洋画が大好き
ミステリ偏愛歴は約半世紀、おもしろい、薦めたいと思ったものを共有していきたいです

                                                    20年ぶりに帰ってきた『プラダを着た悪魔2』を鑑賞しました。

冒頭の歯磨きシーンでは、かつての手動歯ブラシが電動にチェンジし、通りの露店にはブルーのベルトが並ぶ。前作へのオマージュに、一気に期待値が跳ね上がりました。

 

 

物語は、ミランダアンディ、二人の危機から始まります。

ミランダは、劣悪な労働環境問題を隠していたブランドを支持したとして批判を浴び、雑誌『ランウェイ』も存続の危機に陥ります。

一方のアンディは、新聞社閉鎖によりメール一本で即日解雇されてしまいます。

そんな中、『ランウェイ』再建の切り札として、アンディがエディターとして降臨!

出社した彼女にミランダが放った「誰?」の一言には、思わず吹き出しました。

20年経っても、この二人の距離感は変わりません。

 

そして、何より胸が熱くなったのは、ディオールの幹部となったエミリーの再登場です。

私もですが、私の友人たちもみんなエミリーが大好きです。自分の感情に素直で真っすぐ、アンディを(おそらく)嫌っているけれど、決して陥れたりしない。なぜならエミリーは、「自分サイコー」と本気で思っている人だから、アンディが同じ土俵に立っているとは思っていないのです。

そんなエミリーを演じるエミリー・ブラントは、この20年で大スターになっています。「エミリー、立派になって……」と感慨ひとしおでした。

 

 

本作で描かれるのは、単なる“20年後の同窓会”ではありません。
デジタル化によって雑誌業界そのものが飲み込まれていく時代です。

新社長による予算削減、人員削減が迫る中、紙媒体は生き残りを懸けた戦いの真っただ中にあります。
20年の時間の経過は、さまざまな変化をミランダにももたらしています。かつての絶対君主が自分でコートをかけ、コンプライアンスを意識してNGワードを自粛する姿には時の流れを感じました。同時に、時代にしがみつきながらも前へ進もうとするミランダの強さも感じました。

 

ラストの大逆転劇については、少し「ズルい」と感じる部分もありました。 『ランウェイ』を救うのは、ある富豪の気まぐれのような出資です。結局は富豪の資本力に救われる形であり、命運を握るのは、そのオーナー。「悪いオーナーが良いオーナーに代わっただけ」という本質は変わっていません。

「置かれた場所で咲き誇れ」ということでしょうか。

この辺りは、エミリーの事故によって「パリ行き対決」を回避した展開にも少し似ています。うまく着地させているけれど、予定調和な感は否めません。

 

とはいえ、目もくらむようなゴージャスなファッションの数々に気分は上がります。

妄想の世界で、着てみたいのはアンディのスタイル。大人かわいい、でもしっかりエディターとしての軸があり、彼女らしい着こなしです。一方のエミリーは、ディオール幹部としてロゴ入りを多用、デザインもかなりエッジが効いたかわいさで、これはエミリーにしか着こなせないと感じました。

ただ、アンディがハンプトンの食事会に選んだリゾート風ドレスは、場に合わないと思ったのですが、自分はエディターであって他の人とは違う、という自己表現だったのかもしれません。

 

 

少し残念だったのは、アンディの新恋人。なぜこんなに普通の人? 前作のネイトのように彼女のキャリアを否定するタイプではないものの、全然似合わない二人と思ってしまいました。

それを言ったらエミリーの恋人のベンジーも……なのですが、この辺にしておきます。

 

本作を観ながら、「これは映画業界そのものの話でもある」と感じました。デジタル化とAI化の波に、出版も映画も飲み込まれつつあります。
そもそも“映画館で映画を観る文化“も終息に向かっているのかもしれません。映画館でしか味わえない光と影は、配信専用コンテンツではより明るく単一になっていると感じています。本作の映像についても、少し明るいというか平板な印象を受けました。

将来のことはわかりませんが、今はまだ、「少しの間生き延びられている雑誌や映画の世界」を楽しもうと思います。

それこそが、ミランダとアンディが私たちに示してくれた答えなのかもしれません。

 

映画データ
タイトル 『プラダを着た悪魔2』(英題The Devil Wears Prada 2)

監督 デビッド・フランケル

出演 メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、エミリー・ブラント、スタンリー・トゥッチ

2026年製作/119分/G/アメリカ

劇場公開日:2026年5月1日 鑑賞日:2026年    5月5日

 

「ベテラン刑事とAI刑事」がコンビを組むバディものです。

正直に言えば、読む前は「流行りに乗ったイロモノでは?」、しかも「デビュー作」ということで少し構えていたのですが、良い意味で予想を裏切ってくれました。

 

 

主人公のキャット・フランク警視正は、夫の看病とその死による2年間の休職を経て、警察組織に復帰します。

キャットに与えられた職務は最新の「人工知能捜査体(AIDE)」というAIを活用した捜査プロジェクトのリーダーでした。AIDEはリストバンド型デバイスから、黒人男性のホログラム映像「ロック」として具象化されます。

キャットは、キャリア志向のハッサン、自信なげな若手デビー、開発者のオドネル教授らと共に、未解決の行方不明事件の再捜査に乗り出します。

 

チームは対象となる行方不明事件を2件選び出しますが、やがてこの2件にかすかなつながりが見つかり、さらにキャット自身をも巻き込んでいく展開となります。

長年の経験から直感を信じるキャットに対し、データしか証拠として認めないロック。人工知能はあるが感情知能を持たないロックは、人間から見ると驚くほど無神経です(そもそも神経はありませんが)。息子が失踪した母親に、「二日以上行方不明になっている人の60%は死亡しており、そのうち89%は水中から発見されているので心の準備をした方が良い」と言い放ち、母親を絶望させます。

不正防止プログラムによって「嘘」を禁じられているので、偽りの希望を示すこともできません。今どき無料版AIでも寄り添ったり励ましてくれるのに、とツッコミたくなりますが、「開発途中のパイロット版」という設定のおかげで、未熟さゆえの面白さとして成立しています。未来の完璧に機能しているAIではなく、現代の、学習途中のAIであるという設定が上手いと感じました。

 

物語が進むにつれ、反発し合っていた「直感」と「データ」は、やがてお互いに補完し合う共闘関係へ進化していきます。主体はあくまでも人間であるキャット。ロックはキャットをバックアップし、時に導く最強のツールです。

 

数千枚の画像を数秒で解析し、SNSの投稿をすべてチェックするロックのデータ処理能力は、現代の監視社会の危うさを予感させもしますが、エンタメとしての爽快感は抜群です。

 

作者のジョー・キャラハンは、28年間連れ添った夫を肺がんで亡くした後、空隙を埋めるため本作を執筆したそうです。その喪失の体験が、主人公キャットの造形に深い説得力を与えています。

脇を固めるチームメンバーもそれぞれに課題を抱えており、シリーズを通して彼らがどう深掘りされていくのかも大きな楽しみです。

 

本作はAIという最先端の技術を扱いながら、本質は正統派警察小説であるというところが私の好みでした。ただ、「もっと尖ったAI SFミステリ」を期待した人には少し物足りないかもしれません。

デビュー作とは思えない完成度ですが、伏線の仕込み方など少し雑な感じもありました。ただ、犯人像については驚きの展開で、そこを荒唐無稽と感じさせない筆力があったと思います。

シリーズは4作で完結するとのこと、メンバーのその後の展開も含め、物語が発展していくのが楽しみです。

 

最後に。

AIに古今東西すべてのミステリを学習させたら、いまだ読んだことのない「究極の密室」や「完璧なトリック」を駆使した最強のミステリが誕生するのか? ぜひ読んでみたいものです。

 

 

 

 

【作品データ】

タイトル: 『瞬きすら許さない』

著者 : ジョー・キャラハン

レーベル : 創元推理文庫(2026/3/13)

私は根っからの「警察小説」好きです。組織としての捜査、地道な聞き込み、そして何より刑事たちの人間臭いドラマ……。そんな警察ミステリの醍醐味をこれでもかと詰め込んだのが、ネレ・ノイハウスの「刑事オリヴァー&ピア」シリーズです。

待望の11作目となる本作は、前作から2年。700ページ近い分量、3ページにわたる登場人物一覧。普通なら圧倒される数字ですが、警察小説好きにとっては、これこそが「どっぷり浸れる」安心感の証。むしろ「もっと長くてもいい、もっと人が多くてもいい」とさえ思わせてくれるのが、ネレ・ノイハウスです。

 

 

物語は、雪の朝16歳の少女リッシーの遺体が発見されるところから始まります。遺体に遺されたDNAから、移民の青年の関与が疑われますが、事情聴取の前に彼は失踪してしまいます。捜査が停滞するなか、別の場所で拷問の痕跡がある男の事故死が発生します。 一見無関係に見える「少女の死」と「監禁されていた男」。捜査が進むにつれ、物語は遺族、被疑者、さらには捜査関係者までも飲み込み、驚愕の展開へと加速していきます。

 

オリヴァー&ピアのシリーズが扱う事件は、過去の負の歴史や社会問題など、毎回スケールが壮大ですが、本作はその中でも超弩級の衝撃展開です。

特に中盤で起こるある壮絶な事件には、「まだ半分もいっていないのに……」と呆然としました。ネレ・ノイハウスのミステリは、いつも読者の予想を軽々と裏切ってきます。「そこまでやる?」と。その容赦のなさが最大の魅力です。

 

また、事件そのものと同じくらい目が離せないのが、お馴染みのレギュラー陣が織りなす人間模様です。シリーズを通して描かれるオリヴァーやピアの複雑な人間関係、家族関係も大きな魅力です。

バリキャリで魅力的なオリヴァーの妻コージマ、完璧なカップルだと思っていたら、シリーズの途中で、えええー!となる展開、これも作者の容赦なさかもしれません。

元カノ、元カレ、元夫が入り乱れる警察周辺の人間関係。「狭い世界で気まずくないのか?」と思いますが、彼らが意外にもプロフェッショナルに協力し合う姿は、長年のファンにとってたまらない見どころです。

特に印象的だったのは、ピアの元夫・ヘニングの変化です。 法医学研究所所長でありながら、これまでの事件を題材にしたミステリを書くベストセラー作家というメタ的な設定。その成功ゆえの心の余裕か、多忙なピアを労わる彼の「いい人化」には、思わずヘニングを見直しました。

 

監禁事件が警察内部の闇を暴き、未曽有の大事件へと変貌する一方で、行き詰るリッシーの事件では、娘を失った母アンネの悲しみと復讐心が丁寧に、そして痛烈に描かれます。

これほどの大部でありながら冗長な部分は一切なく、最後まで高い集中力で没頭させてくれました。もう一度今度は丁寧に読み返したくなりました。

 

なお、日本での出版順は本国の順序と少し異なりますが、いつか改めて本国の時系列で再読してみたいものです。本作のラストで、ピアは1年間のサバティカル休暇(長期休暇)を決意します。本国ドイツでは今夏、次作が出版予定とのこと。リフレッシュした彼女に再会できる日を待ちながら、それまでに全シリーズを読み直そうと計画しています。

 

【作品データ】

タイトル: 『怪物を捕らえる者は』

著者 : ネレ・ノイハウス

レーベル : 創元推理文庫(2026/2/27)