ミステリ、映画、ときどきドラマ(主に海外)

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海外ミステリ、海外ミステリドラマ、そして洋画が大好き
ミステリ偏愛歴は約半世紀、おもしろい、薦めたいと思ったものを共有していきたいです

大人気「自由研究シリーズ」の著者、ホリー・ジャクソン初の大人向けミステリーです。

 

 

27歳のジェットはハロウィンの夜、何者かに殴打され意識を失います。2日後に目覚めた彼女が告げられたのは、殴打によって脳内に動脈瘤が形成され「余命はあと1週間」という残酷な宣告でした。手術しても成功率は10%。ジェットは10%の賭けには乗らず、「自分を殺した犯人を自分で見つける」と決意し、幼なじみのビリーと共に事件を調べ始めます。

 

冒頭のハロウィンパーティでの登場人物紹介から、帰宅直後の殴打事件、そして余命宣告へ。展開はとてもスピーディです。

実は予備知識なしで読み始めたので、余命一週間ということはベッドの上で推理する「安楽椅子探偵」もの?などと考えていたのですが、全然違っていました。いつ破裂するかわからない動脈瘤を抱えたまま、ジェットは無理やり退院し、街を歩き回り、不法侵入し、関係者を脅して回るのです。「私、あと〇日で死ぬんですよ」という最強ワードをふりかざしながら。

前作『夜明けまでに誰かが』もタイムリミットサスペンスでしたが、今回は「自分の死が決定づけられている」というさらに特殊な極限のタイムリミット。

「自分だったらどうするか」とおそらく誰もが考えると思いますが、私なら10%の確率に賭けて手術を選びます。仮に失敗したとしても、何も感じないまま旅立てるわけですから。

 

ヒロインのジェットは27歳という設定ですが、それにしては少し子供っぽいと感じる部分もありました。「自由研究シリーズ」のピップや、『夜明けまでに誰かが』のレッドといった、著者が描いてきたティーンの主人公たちとキャラクター造形が重なります。

私自身は、このジェットの傍若無人なキャラクターに少しイラっとなりましたが、彼女の置かれた極限状況を考えれば、読者としては受け入れるしかないでしょう。対して幼なじみのビリーはまさに天使のような存在で、純粋過ぎてとても20代後半とは思えませんが、彼がラストで見せる「強さ」に、はっとしました。最初から誰よりも強い人だったのだと気づかされます。

 

ジェットが迎える結末は、当初彼女が目標としていた形とは違いましたが、それ以上のものを彼女にもたらしてくれます。この結末は予想外で、ジェットが感じた「救済」は、読者である私にとっても大きな「救済」となりました。

 

ただ、作者の持ち味である“ダークな部分”は本作でも遺憾なく発揮されています。

『自由研究』で見せたピップの闇落ちや、『夜明けまでに誰かが』のバイオレンスな展開。今回の事件の真相もかなりの「胸糞」案件です。絶対的な善であるジェットとビリーに対して、周囲のサイコパス濃度が高すぎる……。ラストの真相究明の救いのなさにも驚きました。光が強いほど影が濃くなるということでしょうか。

今後もホリー・ジャクソンならではの光と影の強烈なコントラストで、読者を惑わせてほしいと思います。

 

【作品データ】

タイトル: 『余命一週間の探偵として』

著者 :ホリー・ジャクソン

訳者 :服部 京子

レーベル ‏ 創元推理文庫(2026/7/9)

 

 

毎年6月30日に感じる「ああ! 今年ももう半分終わってしまった!」という謎の焦燥感。早いですね。

そんなに読めてはいませんが、上半期のマイベスト5を発表します!

個人の好みが色濃く反映された、要するに好きなものだけ集めたベストとなっております。詳細はリンクをご参照ください。

※対象作品:刊行年月日2026年1月1日~2026年6月30日

 

1位『スズメバチ』マルク・ラーベ

トム・バビロンシリーズ3作目です。主人公たちを深掘りしていく楽しさと共に、画期的なのが単なる脇役キャラと思われた人が、次の巻で重要人物に昇格する意外性。

例えるならポアロ物でミス・レモンが実はサイコパスだった、とか、ミス・マープルの家の女中グラディスが実はミス・マープルの隠し子だった、とか。

現在が過去をどう清算するのか、すべての謎が明かされるシリーズ最終話の第4作が待ちきれません。

 

 

2位『怪物を捕らえる者は』ネレ・ノイハウス

「刑事オリヴァー&ピア」シリーズの11作目にして、シリーズ中屈指の衝撃展開。

雪の朝発見された少女の遺体、一見小さな事件が次々と発展して、ドイツ全体を揺るがす大事件へ。物語の中盤で起きる超弩級の事件には呆然としました。大部ですが、冗長な場面は全くありません。シリーズ11作でも全く守りに入らないネレ・ノイハウスの圧巻の筆力にひれ伏しました。

なお、マルク・ラーベもネレ・ノイハウスも、訳者は酒寄進一先生。お体に気を付けて訳し続けていてだきたいです。

 

 

3位『水面の弔花』アン・クリーヴス

本国の刊行から19年の時を経てやっと名キャラクター、名刑事ヴェラに会えたことへの最大限の感謝として。

緻密なプロット、対寧な筋運び、繊細な心理描写。すべてが期待通り、いえ期待以上でした。

小説のヴェラがドラマ版以上にキャラが立っていたのも要チェックです。

 

 

4位『アンドレアを呼んで』ノエル・W・イーリ

同じ男に殺され、ゴーストとなってこの世にとどまり続ける3人の女性たち。現実世界に何の影響も与えられない無力感に苛まれながら、3人は次の事件を阻止しようと奮闘します。抑制された筆致からの後半のサスペンス展開は一気読み必至です。終盤のタイトル回収もお見事。

 

 

5位『特殊清掃人グレイス・マクギルと孤独な死者たち』C.S.ロバートソン

遺体が長時間放置された部屋を清掃・消毒・脱臭する「特殊清掃」を生業とする女性を主人公に、50年以上前の事件の真相を追う……そんな王道ミステリと見せて、急に世界を反転させ、読者を呆然とさせる。意味が分からず読者は右往左往します。

孤独とは「病」なのかもしれません。本格ミステリの枠組み(犯人当てやロジック)を超えて、読者を驚愕させる傑作です。

 

 

 

【注意】

実は、ジョン・マクマホン『猟犬の誇り』をまだ読んでいません。近いうちに読む予定なので、読了後は順位が変わるかもしれません。あしからず。

 

下半期も期待の新作がいっぱいで、楽しみです。皆さんの期待作は何でしょうか。

2026年下半期刊行予定

ホリー・ジャクソン『余命一週間の探偵として』

ケイト・モートン『時計職人の娘』

アンソニー・ホロヴィッツ『A Deadly Episode』〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉最新刊

M・W・クレイヴン『The Final Vow』〈ワシントン・ポー〉シリーズ最新刊

タナ・フレンチ『The Hunter』(『捜索者』の続篇)

アン・クリーヴス『The Raging Storm』〈刑事マシュー・ヴェン〉シリーズ最新刊

今回はNetflixで配信中の注目作『彼の真実、彼女の嘘』をご紹介します。

 

 

本作はアリス・フィーニーのミステリー小説『彼と彼女の衝撃の瞬間』を映像化したリミテッドシリーズです。アリス・フィーニーは、新作が出たら必ず読む作家のひとりです。本作の後刊行された『彼は彼女の顔が見えない』、『グッド・バッド・ガール』により、「どんでん返しの女王」という称号が奉られております。

よく「記憶を消してもう一度読みたい」という表現が使われますが、還暦を過ぎると、普通に記憶が消えて犯人を忘れてしまっていることは良くあります(笑)。極端なときは、読んだことすら忘れていることも……。

実は『彼と彼女の衝撃の瞬間』も、犯人を全く覚えていませんでしたガーン。(「誰が犯人ではなかったか」だけは覚えていたのですが)。

そこで、これ幸いと記憶のないままドラマ版を視聴したところ……またしても見事に驚かされてしまいました!

以下、絶対にネタバレしないよう、近くにもいかないように感想を書きます。

 

アトランタ郊外の森で、ある白人女性の遺体が発見されます。無断で1年間姿を消したためにキャスターの座を降ろされたアナは、そのニュースを聞いて現場の町へリポーターとして向かいます。実はその町はアナが高校生までを過ごした、いわくつきの場所だったのです。

一方、事件を担当するジャック・ハーパー刑事には、誰にも知られてはならない「被害者との深い関わり」がありました。

捜査の先々に現れるアナ。やがて第二の殺人が起こります。

 

……と、ざっくりしたあらすじはここまで。これ以上は、1行でも書きすぎになってしまうほど、仕掛けに満ちた作品です。

原作の小説には、推理小説には必ずある「登場人物一覧」がありません。読者は人物同志の関係性がわからないまま物語の中に放り込まれ、少しずつ全体像をつかんでいくことになります。この時点で、すでに作者に主導権を握られているのです。

ドラマ版も、この感覚をうまく受け継いでいます。そして、第1話ラストで明かされる"ある衝撃の事実"。原作未読の方なら、きっと「えっ!?」となるはずです。

そこからは、一気に物語が加速し、怒涛の泥沼展開へ。捜査より隠蔽に暴走するジャック。過去のトラウマに苦しめられるアナ。登場人物それぞれが秘密を抱え、疑いが疑いを呼び、先の読めない展開が続きます。

全6話という長すぎない構成も絶妙で、一度ハマると「あと1話だけ」のつもりが、そのまま最後まで一気見してしまうテンポの良さでした。

 

原作は、交互に彼視点、彼女視点、そして時々殺人犯視点で描かれます。もちろん彼らは「信頼できない語り手」です。殺人犯の独白を挟み込む手法は、ミステリーではよくありますが、本作は読み終えたあと、そこにかなり大胆に犯人の正体を明かす伏線が張られていたことに気づかされる構造になっています。

映像ではこの手法は使えないので、ドラマ版では小説とは異なる伏線を入れていましたが、そのアレンジがとても効いていて、「そういうことだったのか!」という快感はドラマ版でもしっかり味わえました。

また、Netflix版ならではの要素として、アナとジャックの関係がよりエモーショナルに描かれていたのも、個人的には好印象でした。

小説もドラマもどちらもおすすめですが、もし両方とも未読・未視聴なら、まずドラマ版を観て、そのあと小説で伏線を味わい直すルートをおすすめします。

映像ならではの演出も相まって、意外な犯人、からのさらに意外な展開、そして華麗なるどんでん返しがよりダイレクトに体感できると思うからです。

夏休みの一気見作品を探している方、極上のミステリーに騙されたい方は、ぜひチェックしてみてください。

 

作品データ
タイトル:「彼の真実、彼女の嘘」(原題「His & Hers」)

出演:テッサ・トンプソン、ジョン・バーンサル

配信開始日:2026年1月8日

話数:全6話(リミテッドシリーズ)