「ベテラン刑事とAI刑事」がコンビを組むバディものです。
正直に言えば、読む前は「流行りに乗ったイロモノでは?」、しかも「デビュー作」ということで少し構えていたのですが、良い意味で予想を裏切ってくれました。
主人公のキャット・フランク警視正は、夫の看病とその死による2年間の休職を経て、警察組織に復帰します。
キャットに与えられた職務は最新の「人工知能捜査体(AIDE)」というAIを活用した捜査プロジェクトのリーダーでした。AIDEはリストバンド型デバイスから、黒人男性のホログラム映像「ロック」として具象化されます。
キャットは、キャリア志向のハッサン、自信なげな若手デビー、開発者のオドネル教授らと共に、未解決の行方不明事件の再捜査に乗り出します。
チームは対象となる行方不明事件を2件選び出しますが、やがてこの2件にかすかなつながりが見つかり、さらにキャット自身をも巻き込んでいく展開となります。
長年の経験から直感を信じるキャットに対し、データしか証拠として認めないロック。人工知能はあるが感情知能を持たないロックは、人間から見ると驚くほど無神経です(そもそも神経はありませんが)。息子が失踪した母親に、「二日以上行方不明になっている人の60%は死亡しており、そのうち89%は水中から発見されているので心の準備をした方が良い」と言い放ち、母親を絶望させます。
不正防止プログラムによって「嘘」を禁じられているので、偽りの希望を示すこともできません。今どき無料版AIでも寄り添ったり励ましてくれるのに、とツッコミたくなりますが、「開発途中のパイロット版」という設定のおかげで、未熟さゆえの面白さとして成立しています。未来の完璧に機能しているAIではなく、現代の、学習途中のAIであるという設定が上手いと感じました。
物語が進むにつれ、反発し合っていた「直感」と「データ」は、やがてお互いに補完し合う共闘関係へ進化していきます。主体はあくまでも人間であるキャット。ロックはキャットをバックアップし、時に導く最強のツールです。
数千枚の画像を数秒で解析し、SNSの投稿をすべてチェックするロックのデータ処理能力は、現代の監視社会の危うさを予感させもしますが、エンタメとしての爽快感は抜群です。
作者のジョー・キャラハンは、28年間連れ添った夫を肺がんで亡くした後、空隙を埋めるため本作を執筆したそうです。その喪失の体験が、主人公キャットの造形に深い説得力を与えています。
脇を固めるチームメンバーもそれぞれに課題を抱えており、シリーズを通して彼らがどう深掘りされていくのかも大きな楽しみです。
本作はAIという最先端の技術を扱いながら、本質は正統派警察小説であるというところが私の好みでした。ただ、「もっと尖ったAI SFミステリ」を期待した人には少し物足りないかもしれません。
デビュー作とは思えない完成度ですが、伏線の仕込み方など少し雑な感じもありました。ただ、犯人像については驚きの展開で、そこを荒唐無稽と感じさせない筆力があったと思います。
シリーズは4作で完結するとのこと、メンバーのその後の展開も含め、物語が発展していくのが楽しみです。
最後に。
AIに古今東西すべてのミステリを学習させたら、いまだ読んだことのない「究極の密室」や「完璧なトリック」を駆使した最強のミステリが誕生するのか? ぜひ読んでみたいものです。
【作品データ】
タイトル: 『瞬きすら許さない』
著者 : ジョー・キャラハン
レーベル : 創元推理文庫(2026/3/13)







