ミステリ、映画、ときどきドラマ(主に海外)

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海外ミステリ、海外ミステリドラマ、そして洋画が大好き
ミステリ偏愛歴は約半世紀、おもしろい、薦めたいと思ったものを共有していきたいです

「2時22分 ゴーストストーリー」をシアタークリエで鑑賞してまいりました。

2021年にロンドンで初演され、世界中で話題を呼んだ本作。待望の日本初上演となる今回は、加藤シゲアキさんをはじめとする4人の実力派キャストが、濃密な密室劇を繰り広げます。

とにかく「ネタバレ厳禁」の箝口令が敷かれている作品ですので、物語の核心には触れず、その魅力を綴ってみたいと思います。

 

 

舞台はロンドン郊外。サム(加藤シゲアキ)ジェニー(葵わかな)の夫婦は最近古い家を購入し、自分たちで増改築をしながら1歳の娘フィービーと暮らしています。

ある夜、友人ローレン(南沢奈央)とその恋人ベン(松尾諭)が新居を訪れると、ジェニーは「この家には幽霊が出る」と言い出します。幽霊は決まって2時22分に現れ、子供部屋でベビーベッドの周りを歩き回るのだとおばけくんおばけくんおばけくん

物理学者として合理的に否定するサム。対照的に、目に見えない恐怖に怯えるジェニー。ジェニーは2時22分まで残って、何が起きるか確かめてほしいとローレンたちに頼みます。

2時22分が近づくにつれ4人の空気は張りつめていきます。果たして2時22分に何が起きるのか……

 

客席から見える位置にデジタル時計が設置され、観客は舞台上の登場人物と一分一秒を共有することになります。

舞台のほとんどは見通しの良いキッチンとリビング、下手に2回の子供部屋と寝室につながる階段。階段は少しだけ見える構造で、その先で何が起きているのか、観客は不安をかきたてられます。

そして、時折響く野生のキツネの鋭い鳴き声。ロンドンならではの演出が、心臓を直接掴んでくるような不気味さを演出していました。

 

4人が飲みながら幽霊について議論するうちに、それぞれの生い立ち、死生観、宗教感、愛情などがあらわになります。

2時22分が近づくにつれ、緊張が極限まで高められていき、そして訪れる思いがけない結末。

ある登場人物が、「人間の中でいちばん大きい感情は恐怖である」と言います。

しかし、終わってみるとこれは「恐怖」ではなく「愛」の物語だったと気づかされます。

ミステリ好きとして「結末を当ててやる!」と意気込んで臨んだ私ですが、推理は完全に空振り。それほどまでに、伏線の回収が見事でした。

主演の加藤シゲアキさんの、理屈で論破する「嫌味」な役作り。実はその演技こそが結末を際立たせる仕掛けとなる最大の効果でした。

終演後、友人と、あそこが伏線だった、そういえばあれも、これも、と気付きを語るのも楽しい時間でした。

また、「ねずみとり」と同様に、ミステリ劇のお約束、終演のご挨拶での「ネタバレ厳禁」の注意まで、楽しかったです。

結末を知ったうえでもう一回見たくなる作品でした。

 

P.S. ちなみに…

本作はロンドンでも繰り返し上演されていますが、サム役には映画『ハリー・ポッター』のドラコ・マルフォイ役で知られるトム・フェルトンも名を連ねていました。

 

作品データ

舞台「2時22分 ゴーストストーリー」

作:ダニー・ロビンズ

演出:森新太郎

出演:加藤シゲアキ、葵わかな、南沢奈央、松尾諭

本作は英国の新人作家シャーロット・ヴァッセルによる、「カイウス・ボーシャン警部」シリーズの第2作。

2025年のエドガー賞(最優秀長編賞)を受賞した話題作です。

なお、装丁が誤解を招きそうですが、現代のお話です。

 

 

舞台はロンドンの高級住宅地リッチモンド。華やかな婚約パーティの裏で、テムズ川から一人の女性の遺体が発見されます。事故死と思われましたが、捜査を進めるカイウス・ボーシャン警部の前に英国政府の権力者ハンプトン下院議員が現れます。水死した女性、リン・ロジャースは30年前の年金基金横領事件の関係者であり、これは他殺だと告げ、事件捜査を命じます。

ボーシャン警部は交換条件に、15年前に起きた女子学生失踪事件の捜査の権限を得ます。捜査を進めるうち、ふたつの事件はボーシャン警部が予想もしない形でつながりを見せることに……。

 

そもそもなぜカイウス・ボーシャン警部が女子学生失踪事件の捜査をすることになったかと言うと、カイウスがマッチングアプリでつながった女性と劇場デートを計画したことが発端です。相手の女性からドタキャンされたカイウスは代わりにキャリーと言う魅力的な女性と知り合います。ところが、近くの席の男性が上演中に不審死を遂げ、調べたところ男が失踪事件を調査していたことが判明するのです。

 

物語の軸は重い未解決事件なのですが、読後感は意外なほど軽やかです。
その理由のひとつが、カイウスという主人公のキャラクターです。

彼は「捜査に没頭して私生活がボロボロ」という従来の刑事像とは真逆。休みはしっかり取り、健康にも気を遣うワークライフバランス重視派です。また、捜査チームの多様性も現代的です。

  • カイウス: ジャマイカとアイルランドのミックスルーツ。
  • マット: 中国系。
  • エイミー: 白人女性でレズビアン。

英国におけるマイノリティという共通点を持つ3人は、上司・部下というよりもっとフラットな関係です。カイウスが手作りの野菜ジュースやパンを二人に強引にお裾分けし、彼らが内心「ちょっと迷惑……」と思っている様子には思わず笑ってしまいました。マットとエイミーが、カイウスのロマンスを応援しつつ首を突っ込むやり取りも絶妙です。

ミステリ一辺倒ではなく、「この人たちにまた会いたい」と思わせてくれる物語だと感じます。

 

一方、肝心の事件パートはかなり手堅い作りです。
関係者を一人ひとり訪ね、証言を積み重ねていく地道な捜査の中に大量の伏線が張られていて、推理好きにはたまりません。
私はいろいろ予想しながら読みましたが、真相は完全に裏をかかれました。

ただ、不審死の中に「結局事件ではなかった死」がやや多く、少し肩透かしに感じる部分もありました。

 

舞台となるのはロンドンの富裕層社会です。
物語の端々には、英国の特権階級が持つ差別意識や選民思想が描かれています。 カイウスのお相手となる帽子職人のキャリーは、自立した女性でありながら富裕層の友人も多く、物語の「橋渡し役」として重要な立ち位置を占めています。 カイウスが捜査を通して上流社会の歪みに触れる描写は、社会派ミステリとしての深みを与えています。

一つだけ残念なのは、恋のライバル、ルパートとの因縁が描かれた第1作が未翻訳であることです。エドガー賞受賞という追い風を受けて、ぜひ第1作、そして続く第3作の邦訳も切望します。


【作品データ】

タイトル: 『果てしない残響』

著者 :シャーロット・ヴァッセル

出版社 ‏ ハヤカワポケットミステリ(2026/1/7)

 

 

 

先日アップした『科捜研の女ファイナル』感想ブログの続きです。日本の2大長寿刑事ドラマである『相棒』『科捜研の女』。どちらも長く愛されてきた名作ですが、改めてこの二つの世界を振り返ってみたいと思います。

 

前回のブログはこちら。

 

 

 

一見テイストが全く違う二つのドラマですが、どちらも専門性の高い「変人」が主人公である点が共通しています。

アプローチは違えども、事件解決に向けて一切の忖度なしに突き進みます。

面白いことに、二人とも結婚して間もなく離婚している点も一緒です。やはり、天才(変人)の伴侶を務めるのは並大抵のことではないのでしょう。

 

しかし、事件への向き合い方は対照的です。

杉下右京が、警察組織から切り離された特命係の立場から、「個人の頭脳」で事件を解決するのに対し、榊マリコの捜査はあくまで「チーム科捜研」が主体。

マリコの指揮の下、科捜研というスペシャリスト集団が一つ一つパズルをはめていく、マリコはその中心にいる「ハブ」のような存在です。

 

杉下右京が傑出した個の存在であるため、対峙する犯人にもそれなりの存在感が要求されます。

『相棒』で心に残る犯人を聞かれたら、「密愛」の岸恵子さん「ミス・グリーンの秘密」の草笛光子さん「最後の淑女」の岩下志麻さん、犯人ではないけど「晩夏」の三田佳子さん、次々と浮かんできます。

対して『科捜研の女』には、そこまで印象に残る犯人は登場しません……主役はあくまでも「科学捜査」であり、犯人は極論すれば「鑑定結果という正解を導き出すための記号」に過ぎないからです。

右京さんが相手にするのは「人間」、しかしマリコが相手にするのは「物質」や「数値」や「映像」です。マリコが犯人と話すことがあっても、それは目撃者や関係者としてであり、そこに予断は一切ありません。

マリコが信じるのは、嘘をつかない「モノ」だけです。

『相棒』が目指すのは「人間の解明」、『科捜研の女』が目指すのは「現象の解明」と言えるかもしれません。

右京さんが犯人を裁く厳しい正義、時おり見せる深い同情は、人間と向き合うことによって、罪の深淵にも深く目を向けることになった結果であると感じます。

右京さんが最後に「あなたがすべきだったのは、〇〇することだったのではないですか(怒)」と説教(あるいは救済)をするまでがワンセットです。

 

一方、マリコの情熱は「犯人を捕まえること」以上に「不明な事象を明らかにすること」に注がれています。そのドライで清潔な視線こそが、科捜研の魅力といえるでしょう。

『科捜研』には印象的な犯人は不在ですが、その代わりマリコと肩を並べる「好敵手」たる女性たちが実に素敵です。

かつて敵対した科警研の橘つかさ(檀れい)監察官として時にマリコを厳しく追及する芝美紀江(戸田菜穂)AIを否定する昭和の刑事・篠宮小菊(松下由樹)とにかく強引な組織犯罪対策課の落合佐妃子(池上季実子)……最初はマリコと対立するものの、やがてお互いの正義を認め合い、尊敬する仲になります。

普通なら今度ごはんでも、となりそうですが、マリコは決して彼女たちと「お友達」にはなりません。馴れ合わず、孤高を守り、あくまでもプロフェッショナルな女同士として連帯する、そのあり方がマリコらしくて素敵です。

 

前ブログでは『木曜殺人クラブ』を妄想しましたが、現役としての『相棒』と『科捜研の女』のクロスオーバーも見てみたいものです。

きっと右京さんとマリコは最後まで噛み合わないのでしょうが、それでいい。現場に侵入する右京さんにマリコが激怒する、そんなシーンが目に浮かびます。

そして事件解決後、洛北医大の風丘早月先生(若村麻由美)が持ってきた絶品スイーツを、右京さんが淹れた完璧な紅茶とともにいただく……。そんなシーンがあれば、ファンとしてこれ以上の幸せはありません。 舞台はぜひ京都で。右京さんには存分に京都の蘊蓄(小ネタ)を語っていただきたいと思います。

 

 

『相棒』お正月スペシャル 感想はこちらです。