クラッシュ・ランディング
ウッドストックでのショットを思わせるジャケットは、シンプルながら印象的です。
ジミの音源の権利がアラン・ダグラスの手に渡った頃、彼のプロデュースのもと、エンジニアのトニー・ボンジョヴィがエンジニアを務めたアルバムです。ちなみにトニーは、かのジョン・ボンジョヴィの従兄弟だとか。
収録曲は以下のとおりです。
1. Message To Love
2. Somewhere Over The Rainbow
3. Crash Landing
4. Come Down Hard on Me
5. Peace In Mississippi
6. With The Power
7. Stone Free Again
8. Captain Coconut
全8曲で、トータルわずか30分しかないこのアルバムですが、なんと全米5位にまで輝いているんですね。それにもかかわらず、現在再販されていないのは、やはり決定的な理由のせいか...
そう、決定的な問題とは、「ジミの歌とギターだけを残し、生前のジミとは何の交流も無かったセッション・プレイヤーたちの演奏をオーバーダビングして、完成曲として仕上げたアルバム」という点なのです。
よく見るとレコード盤の方のライナーに、こんな記載がありました。
「・・・このアルバムはレコーディング・デイトが明記されていないが、メンバーから察するに、かなり末期のレコーディングであろうと思われる。ビリー・コックス、バディ・マイルスのほかに、ジミー・モウレン、ジェフ・ミロノフ、ボブ・バビット、アラン・シュワルツバーグといっためずらしい顔ぶれであるが、録音状態も良好で、ジミの硬質のストラトの音が、ガッチリとよくとれている。・・・」
情報の少ない時代だったのか、販売側が公表していなかったのか?...今みれば、めずらしい顔ぶれというのも上述の理由から当たり前のことですがね。
バディ・マイルスとビリー・コックスによるバンド・オブ・ジプシーズ時代のセッションが主体になっていますが、それもジミのパートだけ使用されているのがほとんどになります。「Message To Love」はこの中で1番ジプシーズの純正オリジナルと言えるくらいですが、ライヴで聴かれる前半のBメロが無く、ちょっと物足りない感じです。
1975年というと、ジミの死後、マネージャーであったマイケル・ジェフリー(1973年に他界)の管理下で既に数枚のスタジオ・アルバムをリリースした後で、もう残っているのはデモや曲のスケッチくらいのものでしかなかったため、この状況からダグラスは、リズムパート等を新しく録り直すという決断に至ったのであろうと推測されます。
まあ、今年リリースされたアルバム「ヴァレーズ・オブ・ネプチューン」に関しては、エディ・クレイマーの相当な努力と現在の技術の向上により発売が果たされたものと思いますが、それでも、エクスペリアンスのスタジオ・リハーサルテイクを一緒に収録したのは、クオリティを保とうとしてそうなったんでしょうし、もうリリースに耐える未発表曲なんてのは皆無に近いんでしょうね。実際のところ...
そして気になるのはオーバーダブに関して、何故ゆえにジミ存命中のメンバー(上記のバディとビリー、それからミッチ・ミッチェル、ノエル・レディングなど)が起用されなかったのか?というのが当然の疑問となります。
ボンジョヴィが説明するところでは「ミュージシャンたちは楽譜を読み込み、正確なオーバーダビングという芸をこなせないといけない。昔のジミのメンバーもトライできたであろうが、15小節目の2番目の音をパンチ・インする、なんてことになったら、彼らには時間も忍耐力もなかったと思う」というようなコメントをしており、ダグラスの方も「ジミは常にリズム・セクションに問題を抱えていた」なんて事を言っています。
確かにこの完成されたアルバムを聴く限り、安定したリズム、時には女性コーラスまでも入れられており、楽曲的には素晴らしい出来といえるかも知れません。
しかしその一方で、ジミのバンドメンバーを否定することは、すなわちメンバーを選んだジミ自身をも否定することに繋がるという見方もあるわけです。バンドを続けていくためには、演奏技術以外の面も重要なのです。例えばビリー・コックスが弾き出したフレーズをジミがよく取り入れて新しい曲に発展させていった、なんて話があるくらいですから、彼らがジミの助けになっていたことは明確だと私は思います。
今となっては「こんなアルバムもあった」というくらいの、資料的価値の側面が強い気がしますが、エンジニアのボンジョヴィが苦労して(テープの切り貼りや、パートの採譜までして)作り上げただけあって、予備知識無しなら音楽的にしっかりと聴ける仕上がり。特に挿入されたコーラスやパーカションの影響か、ソウル色も垣間見える良作...という皮肉な側面もある、そんな1枚です。
手持ちのCD盤とLPでは、裏ジャケが違ってました。CDはちょっと手抜き感が。

