労災保険法は、労働者に適用される法律であり、

代表取締役、家族従事者、その他役員(以下、代表取締役等)は労働者ではないことから、労災保険の適用されない、というのが原則です。

 

しかし、中小企業の代表取締役等は実質的には労働者とほぼ変わらないような通常の業務を行っていることが多く

労働者に準じて保護する必要性があることから、一定の要件を満たした場合には「特別加入者」として、代表取締役等も労働者とみなし労災保険法を適用できます(労災保険法33条等)

 

業務災害については、

業務遂行性・業務起因性の両方を満たすことにより労災認定がなされますが、

特別加入者については、以下の通達のとおり本来の労働者とは別の業務災害認定基準が定められています。

 

【特別加入者の業務上外の認定基準について昭和50年11月14日基発671号)】

第1 業務上外の認定について
 特別加入制度の趣旨はその業務の実情、災害の発生状況等に照らし実質的に労働基準法の適用労働者に準じて保護するにふさわしい者に対し労災保険を適用しようとするものである。
 したがって、特別加入者の被った災害が業務災害として保護される場合の業務の範囲は、あくまでも労働者の行う業務に準じた業務の範囲であり、特別加入者の行う全ての業務に対して保護を与える趣旨のものではない。
一 特別加入者については次の場合に限り業務遂行性を認めるものとする。

(1) 中小事業主等(法第33条第1号及び第2号該当者)

イ 特別加入申請書(告示様式第34号の七)別紙の業務の内容欄に記載された所定労働時間(休憩時間を含むものとする。以下同じ。)内において、特別加入の申請に係る事業のためにする行為(当該行為が事業主の立場において行う事業主本来の業務を除く。)及びこれに直接附帯する行為(生理的行為、反射的行為、準備・後始末行為、必要行為、合理的行為及び緊急業務行為をいう。以下同じ。)を行う場合

 

 (注1) 特別加入者が特別加入申請書に記載した労働者の所定労働時間内において業務行為を行っている場合は、労働者を伴っていたか否かにかかわりなく、業務遂行性を認めるものである。

 

(注2) 中小事業主等の特別加入者が事業主の立場において行う事業主本来の業務、たとえば、法人等の執行機関として出席する株主総会、役員会、事業主団体等の役員、構成員として出席する事業主団体の会議、得意先等の接待等(資金繰り等を目的とする宴会、親会社等のゴルフ接待等)に出席する行為は、労働者が行う業務に準じた業務ということはできないので、業務遂行性は認めないものである。したがって、たとえば、中小事業主が商談、集金等のため外出し、途中で事業主団体等の会議に役員、構成員として出席する場合は、商談、集金等の業務行為が終了した時点で業務遂行性は失われるものである。

 

 (注3) 「直接附帯する行為」の業務遂行性の具体的判断は、労働者の場合に準ずるものとする。

ロ 労働者の時間外労働又は休日労働に応じて就業する場合
(注) 労働者の所定労働時間外における特別加入者の業務行為については、当該事業場の労働者が時間外労働を行っている時間の範囲において業務遂行性を認めるものである。

ハ イ又はロに接続して行われる業務(準備・後始末行為を含む。)を特別加入者のみ行う場合

ニ 上記イ、ロ及びハの就業時間内における事業場施設の利用中及び事業場施設内での行動中の場合
 なお、この場合において日常生活の用に供する施設と事業用の施設とを区分することが困難なものについては、これを包括して事業場施設とみなすものとする。

ホ 当該事業の運営に直接必要な業務(事業主の立場において行う本来の業務を除く。)のために出張する場合
(注) 出張中の個々の行為の業務遂行性については、労働者に準じて判断するものである。たとえば、出張中の恣意的な行為、積極的な私的行為等については、業務遂行性は認められないこととなる。

ヘ 通勤途上であって次に掲げる場合

(イ) 事業主提供に係る労働者の通勤専用交通機関の利用中

(ロ) 突発事故(台風、火災等)等による予定外の緊急の出勤途上
(注) (イ)については、特別加入者が当該事業場の労働者のために提供している通勤専用交通機関に同乗している場合をいい、事業主の送迎車による出退勤、又は事業主所有の自動車等を特別加入者が運転して出退勤する場合は、これに該当しない。

  (ロ)については、特別加入者が、台風、火災等に際し、自宅から就業場所へ建物の保全等のため緊急に赴く場合をいう。

ト 当該事業の運営に直接必要な運動競技会、その他の行事について労働者(業務遂行性が認められる者)を伴って出席する場合

 

 

特別加入の手続については特別加入者申請書を所轄労働局長(所轄労働監督署を経由)に提出しますが、

当該申請書には、①「業務の具体的な内容」②「労働者の始業時間~終業時間」を記載する必要があり、

上記通達においても①と②の記載内容で業務上外認定を行っています。

 

そのため、業務の内容を明確にし、業務の内容を具体的に記載する必要があります。

 

労働基準監督署長の労災認定については、①と②の記載内容から厳格に判断をして業務上外の認定を行っているようです。

 

 

労働保険審査会の裁決事案をご紹介しておきます。

【注意 労働保険審査会と裁判所の判断は、異なることがあります。】

 

 

【就業中に負傷した特別加入者の、当該作業が特別加入届で承認されている業務の範囲の判断 平成26年労第342号】

事業主が特別加入申請書の「業務の具体的な内容」に『家庭用電器機械器具小売、取り付け、修理の業務』と記載していたが、

ソーラーパネル撤去作業中に事故が起き、労働基準監督署長から上記記載の業務には該当せず建設事業であると判断されて保険給付を支給しない決定の取消しを争った事案

 

【商品配達の帰路で負傷した第一種特別加入者の業務遂行性の判断】 平成28年労第144号】

商品配達業中において事業主に事故が起きたが、労働基準監督署長が業務遂行性がないと判断し保険給付をしない決定をしたため、不支給決定の取消を求めた事案。

これについて労働保険審査会は、特別加入の申請書記載の「業務の具体的な内容」いずれにも該当しないこと、従業員が本件配達業務を行う予定及び本件配達業務を行った実績が認められないことからすると、本件配達業務は、「事業主として行うべき業務」として不支給決定は妥当としています。
 
そもそも、労働者の使用が予定されていない・使用実績がないというのは「労働者に準じて保護をする」という特別加入者の趣旨からも外れており、また、特別加入者の業務上外の認定基準においても「事業主として行う業務」は除外されています特別加入者の業務上外の認定基準 青字部分)。
 
判例もご紹介しておきます。
【葬祭料不支給決定処分取消請求事件1997年1月23日最高一小】
土木工事及び重機の賃貸を業として行っていたが、労働者を使用することなく行っていた重機の賃貸業務については、労働者に関して保険関係が成立していないといわざるを得ないため、同法に基づく保険給付を受けることはできないとした事例。
 
 
最高裁は、労働者を使用していないならば、そもそも労災保険法の適用事業になることはできず「保険関係は成立していない」として保険給付は受けることはできない、としています。
労働保険審査会は、労働者の使用が予定されていない・使用実績がないならば、「事業主として行うべき業務」として保険給付は受けることはできない、としています。
 
労働者を使用していない事業ならば保険給付を受けることができない、という結論は同じですが、結論に至る理由は異なっています。