東芝(S&S社)の半導体事業では、前工程と後行程の標準原価計を用いて原価計算を行っていた。
標準原価については、予算の工場操業度、労務費、材料費等に基づいて工程別に決定されていた。
標準原価と実際原価との差額については、従来から前工程と次工程で発生した差額を合算して、
「前工程期末在庫」、「売上原価」、「次工程期末在庫」に一括して配賦している(合算配賦法)。
合算配賦法では、次工程で発生した差額についても前工程へ配賦されることなり適切な計算方法ではないが、
著しい原価の変動がなければ簡便な方法として認めらている。(原価差額がわずかときなど)
期中において半導体の需要(受注量、販売量等)が大幅に低下し、操業度もそれにより大幅に低下した。
操業度が低下したことにより、標準原価の単価も期中に改定して増加させた。(154%増)
標準原価改定について、S&S社は前工程のみ増額改定したが(154%増)、次工程の標準原価は改定しなかった。
本来は、前工程と次工程の標準原価に連続性を保つべく次工程の標準原価も改定しなければならいところS&S社は次工程の標準原価は改定しなかった。それにより、次工程において多額の原価差額が発生した。
次工程で発生した多額の原価差額は、標準原価に基づいて配賦されているため、標準原価増額改定を行った前工程期末在庫には原価差額は多く配賦されて、標準原価の改定を行わなかった次工程においては売上原価と期末在庫に過少に配賦されたため、結果として利益の押上となり適切な帳簿価額を反映しなかった。
次工程の標準原価を改定しないならば、前工程で生じた原価差額は前工程で配賦されるべきであり、
次工程で生じた原価差額は次工程で配賦する。
よって、S&S社が適切に会計処理を行うには
①前工程、次工程の標準原価を改定する
②次工程の標準原価を改定しないならば、工程別配賦法により原価差額を計算する
の2択しかなかった。
しかし、S&S社では標準原価の改定は前工程のみでしか行わず、
次工程において多額に生じた原価差額は合算配賦法により計算した。
過大となった前工程期末在庫が来期以降の売上原価の増加をもたらすことになるにしても、
当時の東芝では利益改善のノルマが課せられていた様子です。