このところ連日、雨である。
梅雨時だからと言ってしまえば、それまでの話だが、最近始めた派遣のバイトで平日の日中は拘束されているので、自由に動ける休業日は貴重だ。
週末の今日も、未明から山へ入る。雨雲で覆われた空は、朝が遅い。明るくはなっても鉛色の陰影だけが支配する寒々とした光景が続く。
日向で広げ始めた蕗の葉をを叩く雨音。春の山菜で有名どころの蕨や独活の新芽も終わりが近い。
俺は、万年金欠病だが、道具と装備には金を惜しまない。去年のゴールデンウィークに緊急入院して手術やら検査、入院費用と想定外の出費を余儀なくされた後、新調したゴアテックスのレイン・ウェアは今年も活躍してくれている。
以前使っていた安物のポリプロピレンの合羽より薄くて、しなやかなのだが、丈夫だ。高い金を払っただけの価値はある。
ニセアカシヤ等の棘のある植物の薮を潜っても、生地の痛みは少ない。何より、通気性に優れている。雨に濡れるより、汗で濡れるといった従来のレイン・ウェアの感覚がまるで無い。
バイトの慣れない作業で筋肉痛になってたが、やはり山歩きの慣れた体の動きは、雨降りの日でも心地良い。
今日の山行きの目的は、昨夜の地震である。震度は1と小さいが、直下型の短期の縦揺れである。週末の晩のそれは地鳴りまで伴っていた。
雨を吸った山の斜面の表層が、広範囲にズレを生じたかのかどうかを確かめに行くのだ。こればかりは現地へ行かなければ分からない。増してや、以前と以後の違いを判別できるのは定期的に観察を続けている者のみである。
泥濘みで滑りそうになりながらも慎重に足を運び、湿った朝の空気を呼吸する。
このところ、硫黄臭がすると言う話を聞きている。10数年ぐらい前だったか、ピナツボ火山の噴火の時も、こんな臭いが漂ったものである。
長野県にも活火山はあるし、温泉として湧き出るのも硫黄泉が多いのだから、どこかで断層が口を開けた可能性はある。
松本市の東側、扉・和田峠は静かであった。
だが、日頃、見慣れたシカの姿が見えない。雨を嫌うのは日本人の特性だが、野生動物は雨など気にもしない。
草食動物にしてみれば、雨のお陰で草と一緒に水も飲めるし、低い窪地に出来た水溜りの泥が塩分をたっぷり含んだ調味料と化すし、ついでに泥に塗れて体表についたノミやダニを洗い落とせるから、願ったり叶ったりであろう。
一足早い豊富な餌を求めて、南に移動した可能性もあるが、先週訪れた時より明らかに遭遇率が低い。
仕事が休みであろうが、なかろうが、深夜や早朝の散歩は俺の日課である。日々の変化は、観察の積み上げが物を言う。公共事業等で、環境アセスの検証に呼び出される東京辺りの余所者学者の言い弁なぞ、地元に食らい付いてる乞食にも劣る。
続いて、中山。
ここが牛伏寺・中山断層の中心地である。断層を分断するように造営された弘法山古墳公園は、古代人が作った人工の小山である。そもそも、鉢伏、鉢盛と名が付いた尖頭を切り落とした円錐形の小山は、みな古墳である。古墳の役割は、単なる墓ではない。単なる墓なら、他にも適当な立地はあるはずだ。有名・有力な豪族であれば、死後もその地を治めてくれるだろう、というオマケの意味を込めて治山・治水のシンボルとして祀られたに過ぎない。と俺は、そう考えている。
さて、中山地区には地震計が設置されている。ここの観測データは、インターネットで閲覧できる。

防災科研 Hi-net 【高感度地震観測網】
埴原(はいばら)神社、牛伏寺と巡って、午前が過ぎた。さすがに、着心地快適なレイン・ウェアでも脱いだり着たりにも飽きが来た。
移動に使ってるクルマのガソリン代も馬鹿にならないので、こんな1円にもならない、寧ろ自腹切ってやってる趣味の山歩きは、程々で切り上げる事にする。
依然、雨は降りしきっている・・・
(7)了