宇宙への憧れを抱く者は少なくない。しかし、そんな純真無垢な夢を打ち砕く最大の難関は、宇宙へ至る移動方法である
。 現在、我々人類が地上を離れ、宇宙空間へと旅立つ手段は唯一ロケットだけである。
その現在唯一宇宙へ行ける手段であるロケットだが、ロケットの製造や打ち上げには莫大な費用と大勢の人員が動員されるが、安全や安定性が担保されていないこと、高価であるにも関わらず大半の機器が使い捨てであること、近年では環境に対する負荷の観点からも否定的な意見も出ている…等、数々の弱点がある。
そんな多くの課題を克服してもなお現実的な到達点である国際宇宙ステーション(ISS)でさえ、地上から約400km上空(最低高度278km、最高高度460km)でしかない。それも厳しい選抜試験をクリアし、訓練された極少数の選び抜かれた宇宙飛行士のみが行けるに過ぎない。
(宇宙飛行士でなくとも宇宙へ行った者はいるが、大富豪や実業家のように高額な費用を用意できた人物に限られる。 かかる費用の何十分の一の生涯賃金でしかない筆者のような貧乏人には高嶺の花でしかない)
筆者も含め、人類の大半である凡人は、ただ見上げるしかない遥か天上の世界。
もっと手軽に安価に、せめて今ある海外旅行程度の気軽さで宇宙へ上がる手段は無いのか?
SF小説の世界では、かなり以前から『軌道エレベーター』というアイディアがあった。それを単なる空想で終わらせず、実現させようと研究を続けている科学者も存在する。
(現に、全米宇宙協会などは2031年の開通を目指し(当初の予定では2018年だった)、1メートル幅のカーボンナノチューブで出来たリボンを赤道上の海上プラットフォーム上から10万km上空まで伸ばすプロジェクトが進められている…はず。 米国の政治・経済的実情、新型コロナ、ロシア・ウクライナ紛争、月面到着プロジェクト…etc.、実現までの将来的予算が確保できるか否か? 再び延期するのか?)
正直、彼らの描く良いとこ尽くめの軌道エレベーターのメリットには首を傾げざるを得ない。
まず、エレベーター施設の建造についてだが、地上のプラットフォーム(駅)建設に最適な立地の確保についてである。
軌道となるケーブルの設置場所は、遠心力の観点から赤道上にあることが望ましい。また長く重いケーブルを繋ぐ土台も頑丈かつ安定していることが求められる。
ISSまでとしても約400kmのケーブルは想像を絶するサイズ(重量)である。そんなケーブルが万が一にも破断して落下してきたなら、係留している土台周辺は安全の為にも広大な緩衝地帯としなければならない。
また、エレベーター施設を運営するには、強力な動力を生み出す発電所、ゴンドラをメンテナンスする為の施設も必要。宇宙へ上げる荷物を一時的に保管する倉庫や旅客を捌く窓口や待合室。
宇宙へ行くことばかりに注目して忘れがちだが、長期間、無重量空間で過ごした人間のリハビリ施設も必要である。
(メガフロートを大洋上に建設するという案もあるようだが、数万人くらいが常駐・居住できる人工浮島となると資材や建造費は、いくらかかるんだろう?)
このように地上のプラットフォームだけでも広大な面積を占領するはずである。さらには全人類にとって公益性のある施設なので、立地となる国家においては政治や経済が長期に亘って安定していなければならない。そして、テロや自然災害のリスクが無いことも要求される。
次に、宇宙側のプラットフォーム建造について。
赤道上・高度3万5786kmの静止軌道に設置するのが妥当である。
当然だが、資材・建材のすべては地上からロケットで打ち上げることになる。
地上施設程の強度や規模は必要ないとはいえ、微惑星(流れ星の原因)、スペースデブリ(宇宙ごみ)の衝突に余裕で耐えられる程度の強度は必要である。まして恒久的に運用される施設であるならば、保守の為の資材の保管場所や大勢の建設作業員の長期滞在を可能とする酸素、水や食料、医療、居住施設を打ち上げねばならない。これらが軌道エレベーター実用化最大のネックだと筆者は考えている。
詳述すると、軌道エレベーターの経済性をメリットとする意見に対するアンチテーゼである。
軌道エレベーター建造にかかる費用は、現状のロケット運用を下回るとは考えられず、莫大な資材や建材の調達によって引き起こされるであろう地上の自然破壊(鉱山開発と利権争い)・環境汚染も免れない。
宇宙側のプラットフォーム建設では、施設完成までの作業員らの生命維持や長期滞在に難関が存在する。
こちらは工期の延長など絶対に容認できず、生命維持に必要不可欠な資材搬送ロケットが打ち上げ失敗などしようものなら、宇宙側での作業員にとっては死刑宣告に等しい。逆に、宇宙空間で治療不可能な傷病患者を速やかに地上へ移送する手段は?
(次回に打ち上げ予定のロケット発射を前倒しするとしても何日かかるやら。それを見越して複数のロケットを予備として連続して打ち上げられる体制にするのか。数か月、数年分の予備を備蓄しておくのか? その予算は、どこから出る?)
このように軌道エレベーターを一基建設するだけでも、得られるメリットよりデメリットを考えれば、決してバラ色の未来絵図だと両手を挙げて歓迎することはできない。
さらにエレベーターが一基のみの存在で収まるはずがない。エレベーターを所有する国家が優位的立場にあり他国に対し覇権的態度を取らないとは確信できず、核開発の最悪シナリオにもある核ドミノのように軌道エレベーター・ドミノが生じるだろう。ましてエレベーターの保有や自力建設が不可能な国家や所属国家体制に不満を抱く極左・極右勢力がエレベーターの占拠や破壊行動(テロ)に出ないとも断言できない。
自然災害やテロルや国家間紛争のような人災のみならず、エレベーター自体の不測の事態による故障や破損によって、宇宙に取り残された人員を救助・回収する体制も常時維持しなければならない。
一刻の猶予もない救助の為のロケットを、いつでも発射可能な状態で維持するとなれば、現状のロケットより安上がりとは決して言えない。
(複数の軌道エレベーターがあれば補間できるじゃないかって? 複数のエレベーターが完成する前に自然破壊か資源・資金の枯渇によって人類は滅んでるさ)
無から有は生じない。メリットとデメリットはコインの裏表である。
宇宙へ上がるのに必要なエネルギーの総量は、ロケットであろうと軌道エレベーターであろうと同じ。メリットと同じだけのデメリットを抱えているのである。
結論として、このように軌道エレベーターは、建造・建設段階でさえ否定要素が山積しているのに、「○○があったらこうなるだろう」と虫の良い結果だけを夢想したり喧伝するのはフィクションの世界だけに留めておいた方が無難であろう。
蛇足:

(copyright ”yama_D-pro/2022”)
広大な土漠、雲ひとつない紺碧の空を背景に地平線の彼方から覗く山脈。稜線の頂きから天に伸びるカーボンナノファイバー製のケーブル。
見上げれば、灰黒色の耐熱セラミックで覆われたドーナツ状のゴンドラがゆっくりとケーブルを昇っていく。ゴンドラの周囲や底面の認識灯の明滅。空の彼方に溶けていくケーブル。
プラットフォームは、山体を刳り抜いた山脈内部に作られ、乾いた平原と山脈とが交差する山麓には数十万枚にも及ぶ太陽光発電パネルが広がっている。トンネルを潜って内部に入れば巨大なバッテリータンクや整備工場、宇宙へ上げる荷物の倉庫や積み上げたコンテナがビルの群れのように立ち並ぶ…
ゴンドラの与圧されたキャビン内では、宇宙旅行の初心者は期待と興奮に胸を弾ませ、旅慣れたビジネス・マンはタブレットで電子版経済ニュースに目を走らせたり、衛星経由のインターネットでオフィスとメールを交わす。
そんなエコノミー、ビジネス・クラスとは一線を画するファースト・クラスのキャビンで寛ぐ資産階級は、広々した特別キャビンで高級レザ―張りのリクライニング・シートに身を委ね、同室のセレブ達と談笑を交えた手の内・腹の探り合いを繰り広げる…。地上を出発した軌道エレベーターは、2万7000km彼方の宇宙ステーション目指して平均時速200kmで約5日間をかけ、蒼穹の空を駆け上がって行くのであった。
今回の記事を書いた発端は、官民どちらも「エネルギー保存の法則」すら理解していないのか?と、余りの無知ぶりに呆れたからである。これが戦後、国民の教育を牛耳った左翼どもの無能化政策の成果である。
燃料、電気代の値上がり著しい昨今。以前にも書いたように、今は「戦時下である」そう思って腹を括ってしまえば、常時物不足の生活状況も苦になるまい。無い物ねだりと始終不平不満を吐き散らす己の醜態を恥じる心性を取り戻せるかもしれない。
この辺りも参考にしてくれれば、俺の長ったらしい下手くそな文章を読むより、ためになるだろう。次いでに、俺の「左翼アレルギー」の理由も…
SF小説は大好きなんだが、想像(イマジネーション)と妄想(デルージョン)は別物である。