JR博多駅の駅前広場に建つ銅像「黒田武士像」と「博多節舞姿」の2体を紹介しましょう。
この二つの銅像は、数年前まで、観光客はじめ、帰省する人や転勤する人など、駅構内で多くの物語を演出したシンボル、ランドマークでした。
「黒田武士像」
彫刻家米治一製作。1970(昭和45)年設置。 福岡博多ライオンズクラブ寄贈。
写真撮影日:2014年8月24日
福岡藩主黒田長政公・家臣で大酒豪の母里もり太兵衛。秀吉伝来の名槍「日本号」を抱え、右手に一尺の大杯を持つ、堂々とした立ち姿です。(2014年の大河ドラマ「軍師官兵衛」では、母里太兵衛役を、速水もこみちが演じています。)
写真右後方には、新博多郵便局と、そごうの大型店舗新築工事のクレーンが写っています。現代の名槍ですか。像にとって、今が一番、背後の見晴らしが良い期間でしょう。
民謡「黒田節」
酒は飲め飲め 飲むならば 日本一の この槍を 飲みとる程に 飲むならば これぞまことの黒田武士
峯の嵐か 松風か 訪ぬる人の 箏の音か 駒ひきとめて 立ち寄れば 爪音高き 想夫恋 (歌詩引用:日本コロムビアレコードより)
1942(昭和17)年、コロムビアレコードの人気芸者歌手、赤坂小梅が、レコード吹き込みした頃は、題名が「黒田武士」と表記されていました。 真珠湾攻撃から半年過ぎての発売で、歌詞も戦時下での戦意高揚に一役買いました。 この年、社名を日蓄工業に変更。商標も「コロムビア」から「ニッチク」になります。 敵国用語が使えない時代のエピソードです。
戦後1946(昭和21)年、社名を「日本コロムビア」、商標を再び「コロムビア」にします。そして1948年、歌詞を一部変更して「黒田節」の題名で再発売。当時は、占領下の日本でしたので、占領軍(進駐軍)の圧力か、自主規制だったと思われます。
「博多節舞姿」
彫刻家 安永良徳製作。 1968(昭和43)年設置。 博多織「松居」寄贈。
写真撮影日:2014年8月24日
1883(明治16)年創業の博多人形・博多織老舗 「松居まつい」が、85周年を記念して福岡市に寄贈したもの。 島田結いの芸妓が、黒紋の留め袖着物に博多帯を締めています。花柳界の座敷唄のひとつ、三味線をとって歌う正調「博多節」の舞いポーズです。
博多帯締め 筑前絞り 歩む姿が柳腰
操たて縞 命も献上 固く結んだ博多帯
博多へ来る時ゃ 一人で来たが 帰りゃ人形と 二 人連れ
操たて縞 命も献上 固く結んだ博多帯
博多へ来る時ゃ 一人で来たが 帰りゃ人形と 二 人連れ
献上博多織「博多帯」・・・
江戸時代、黒田公が博多織製造業者12戸を保護し、男帯と博多正絹を幕府将軍家への献上品として作らせました。
帯の色は、徳の紫、礼の茜、信の黄、仁の紺、智の藍の5色に限定。品良い博多帯は、織りが密で、締め易く、緩まない事が特長です。
(写真転載不可 Jun‐ichi Kinoshita )
銅像のモデルは、当時人気の名博多芸妓(芸者)“松香”。彫刻家 安永良徳氏のアトリエ(福岡市地行)でポーズをとりました。
写真は、安永氏の遺品を数点譲って頂いた中の、製作アルバムからのものです。
※なお、このアルバムには、美術学校時代の友人、舟越保武氏の福岡滞在中の家族写真や、「長崎二十四聖人像」を長崎に送る途中、福岡のアトリエで一時保管していた写真もあります。
『或る馬賊芸者・伝』
「小野ツル女」聞き書きより
角田嘉久著 創思社1980年
戦前の博多芸妓を、近松門左衛門の世話物浄瑠璃―-博多小女郎波枕から「博多小女郎」と呼びました。
また「博多馬賊芸者」の異名もありました。
写真の本
戦前の最盛期、千人を超えたという博多の芸者衆。
現在は20名余と聞きます。
私は、東京湯島で一度、芸妓の宴席に招かれたことがありますが、以来一度も縁のない世界です。
博多芸妓像は、現在の新駅に改装される以前の旧駅ビル時代、陸の玄関口のシンボルとして、また、待ち合わせ場所として広く親しまれていました。
改装工事後は、広場内の目立たない所に移築されて、渋谷駅のシンボル、ハチ公のようというわけにいかなくなりました。
銅像の前で待ち合わせのドラマが誕生しなくなったのは、壁側隅に追いやられた格好の設置場所が悪いのです。
寄贈に至った話のプレートも植栽に埋まって半分が読めません。
博多芸妓の後ろ姿を見たいと思っても、植栽が塞がり、立ち入り禁止の状態です。
襟元から肩、そして腰に流れる線、それから着こなしなど、作者の意図や工夫を全く考えていません。肝心の博多帯を、後ろから楽しめないのです。
上から3枚目の写真に写っている期間限定・バルーン製のポケモンは、駅前広場の、ひのき舞台にあります。 博多芸妓は・・・ 日陰の身ですね。
時々、銅製の髪飾りが盗まれます。サザエさん親子の銅像、波平像の頭頂部に立つ“毛”の紛失と同じ悪戯です。犯人は金属フェチか。「どうってことない」のでしょうね。
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