ルソーの「告白録」(18世紀フランス思想界を代表するルソーが晩年に執筆した、近代自伝文学の・・)
ジャン=ジャック・ルソーの『告白(告白録)』(原題: Les Confessions)は、18世紀フランス思想界を代表するルソーが晩年に執筆した、近代自伝文学の金字塔とされる自叙伝です。概要 著者: ジャン=ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau, 1712–1778) 執筆時期: 1765年頃〜1770年(ルソーの死後、1782年と1789年に2部に分けて刊行) 構成: 全12巻(第1部:第1巻〜第6巻/第2部:第7巻〜第12巻)本作は、神に対して自らの生涯を包み隠さず告白するという形式をとりながら、当時の社会や敵対者に対する自己弁護と、自己の探求を行った作品です。あらすじ全体は大きく2つの時期に分かれています。第1部(第1巻〜第6巻):幼少期から青年期(幸福と彷徨の時代) 幼年期と失意: ジュネーヴで生まれ、生母を分娩時に失います。愛読家だった父親から愛情を受けつつも、父の失踪や徒弟奉公先での虐待を経験し、16歳で故郷を出奔します。 ヴァランス夫人との出会い: 旅の途中でアヌシーのヴァランス夫人(ルソーが「ママ」と呼んだ年上の女性)に出会います。彼女の庇護のもとで、音楽や哲学、科学などを独学で学びながら青年期を過ごします。この時期は、ルソーの生涯の中でも最も安らぎに満ちた「黄金時代」として描かれます。第2部(第7巻〜第12巻):パリでの成功、孤立、追われての晩年(狂気と執筆の時代) パリ進出と『社会契約論』などの開花: パリに出て文壇や思想界に入り、ディドロら哲学者(百科全書派)と交流を持ちます。また、無学な給仕女テレーズ・ルヴァスールと出会い、生涯の伴侶とします(二人の間に生まれた5人の子どもはすべて孤児院に預けられました)。 栄光と決裂: 『学問芸術論』で一躍有名になり、『人間不平等起源論』『新エロイーズ』『社会契約論』『エミール』などの傑作を次々と発表します。しかし、思想的な対立や人間関係のこじれから、ディドロやヴォルテールら旧友たちと激しく対立するようになります。 迫害と逃亡: 『エミール』や『社会契約論』が教会や政府から危険視され、逮捕状が出されます。ルソーはフランスやスイスを追われ、イギリス(ヒュームの庇護)などを転々とする逃亡生活を余儀なくされます。晩年は被害妄想にも似た心理状態に陥りながらも、自身の正当性を訴えるために『告白』の執筆を続けました。解説と見どころ1. 「近代自伝文学の誕生」:恥部も含めた徹底した誠実さそれまでの自伝(例:アウグスティヌスの『告白』など)は、主に神への感謝や宗教的悔改めを描くものでした。しかしルソーは、「人間ひとりの真実の姿をありのままに描く」ことを宣言しました。ルソーは自らの功績や善行だけでなく、以下のような人には隠したい恥部や過ちも露骨に描いています。 幼少期の被虐嗜好(性的な目覚め)や軽犯罪(リボンを盗み、それを少女になすりつけたこと) ヴァランス夫人との複雑な男女関係(三角関係) 5人の実子を孤児院に引き渡したことに対する苦悩と自己正当化このように「人間の優しさも醜さもすべて含めて私である」とさらけ出した姿勢は、近代的な「個(アイデンティティ)の確立」を示す記念碑的な作品と評価されています。2. 「自然の善」と「社会による歪み」という思想の証明ルソーの思想の核心は「人間は生まれつき善であるが、社会や文明によって悪くなる」というものです。『告白』は、彼自身の人生を通じてこの思想を証明しようとした記録でもあります。ルソー自身は純粋で自然な感情を持って生まれたにもかかわらず、不平等な社会や他人の陰謀、都市の悪徳によってどのように自分が傷つけられ、追い詰められていったかを叙情的に描写しています。3. 主観性と被害意識第2部(晩年)になると、自分を陥れようとする「普遍的な陰謀(文人たちや政府による合謀)」に対する語りが強くなります。そのため、客観的な事実関係においてはルソーの思い込みや妄想が含まれている部分もありますが、それがかえってルソーという人間の複雑な内面心理や孤独感を鮮明に浮き彫りにしています。まとめルソーの『告白』は、単なる一人の男の回想録にとどまらず、「人はどう生き、どう感じ、自分という人間をどう定義するのか」という深い問いを投げかける作品です。