55、「佐野周二の”セクハラ対談”」(続) | 「日韓次世代映画祭」「下川正晴研究室」「大分まちなかTV」ブログ

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下川正晴(大分県立芸術文化短大教授、shimokawa502@gmail.com 携帯電話090-9796-1720、元毎日新聞論説委員、ソウル支局長)。日韓次世代映画祭は2008年開始。「大分まちなかTV」は、学生と商店街のコラボ放送局です。

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前回は、日本の俳優・佐野周二が朝鮮女優・金信哉に対して、セクハラまがいの対談を行ったとして、「文芸峰と金信哉」の著者パク・ヒョンヒさんから批判されている部分の紹介でした。いま、僕の手元には、その対談を記録した文章がないので、彼女の記述のみを紹介しておきます。

<佐野周二は朝鮮の印象、朝鮮女性の印象、徴兵制の必要性などを力説していたが、やおら金信哉に18歳かい?と聞いた。金信哉は顔を赤くして首を振り、佐野は金信哉の顔を見ていた。そして彼は、金信哉の袖をひっぱり、これは麻かと聞いた。金信哉は絹だと答え、また顔を赤くした。>

<この時、傍にいた第3者が、朝鮮の女性をどう思うかと聞くと、佐野は「美しいですね。服装もよく、本当にあんたらは運がいい。金信哉のような人は、花のようにテーブルに飾り鑑賞しつつ、酒でも飲みたいほどですよ」と答えた。金信哉が「内地で一番素顔がきれいな女優さんはだれですか」と聞くと、「それは僕の口からは言えないなあ。顔が美しいのは、内地社会では必要ないでしょ。もちろん、可愛くなければいけないが、顔よりも性格を土台にした美しさでなければいけません」と語った。>

このような対談内容を前提にして、パク・ヒョンヒさんは次のように論じるのです。

<性的対象としての植民地女性に対する、帝国男性のファンタジーを垣間見せてくれる。佐野周二の金信哉に対する視線は、きわめて暴力的なものであり、性愛化されたものである。植民地の女優は「花」だが、日本の女優は「顔より性格だ」と述べる。娼婦になる危機にひんしていた植民地女性の位置が明白に存在するのだ。>

佐野周二は以下のようにも述べたといいいます。「半島人が今日のように安全に生活することが出来るのは、全部、日本人の強力かつ大きな支援の中にいるからだ」と。これに対して金信哉はこれといった反応をみせず、次のように答えます。「戦場から帰ってこられた後の佐野さんは、戦地に行かれて以前の佐野さんとはだいぶ違いますわ。思想も性格も・・・」と返答するばかりであったといいます。このあたりのやりとりは、金信哉がむしろ、「大人」である、と僕には思えます。

次のやり取りも秀逸です。対談の最後になって、金信哉は佐野周二に趣味は何ですか?と尋ねます。佐野が「囲碁と釣りです」と答えると、金信哉は「全部私が嫌いなものばかりですわ」と返したのです。佐野が「そういうのは嫌いですか」と重ねて聞くと、金信哉は「はい」と答えて、この対談は終了します。結局、ここで金信哉は「佐野さんは大嫌いです」と言ったようなものですね。

僕(下川)は、このあたりが金信哉という女性の真骨頂ではないかと思うんです。佐野にセクハラまがいの質問をされても軽く受け流し、最後になって「嫌いだわ」と言い放つ。とても18歳にしか見えない「永遠の少女」の演じられる男性操縦術ではない。しかし、浮気者の夫を持つチェ・インギュ夫人の金信哉としては、この程度の話術は朝飯前だったのかもしれません。

1941年、金信哉は映画「豊年歌」の撮影のため、地方に行っている間に長女を事故で失い、年末には長男を出産するという忙しい一年を過ごしました。7月には「君と僕」の撮影が始まりました。この年を起点して、金信哉は文芸峰に劣らず、朝鮮映画界を代表する女優になってゆくのです。