こわれかけた心をもてあましながら

きみはチョコレートで 小さなピアノをつくる

 

その鍵盤の並びは 微妙な箇所まで繊細で

 

表現上手なきみを また好きになる

 

 

ピアノが紡ぐ指先に合わせて

 

きみは 「My Funny Valentine」 を口ずさむ

 

スコールのようなウィルスの雨のなか

 

譜面をたたんだ歌うたいには明日が見えない

 

 

人見知りなくせに いつも人恋しくて

 

歌だけが心の支えだった

 

感動の日々はよみがえるのだろうか

 

 

耳を病んだ歌うたいは 

 

思い悩む癖を払うように ため息をとかしている

 

 

そんなきみに 何もしてやれないぼくは

 

きみの髪にふれ 知り合ったあのころのように 

 

肩をよせ 腕をからめた

 

 

拭いきれない不安と焦り

 

あの頃のように歌うことができるのだろうか

 

 

苦しく辛かった日々を思い

 

きみの涙のひとつぶが ピアノのなかに落ちた

涙は「シの♭」の弦をやさしく濡らして

チョコレートの弦を しずかにとかす

 

 

たとえきみが 長いトンネルに迷ったとしても

 

ぼくはきみの歌を愛していく

 

きみが歌うことを 何よりも好きなように

 

ぼくはきみの歌う姿が 誰よりも好きだから

 

 

 

冬枯れの街を後にするきみを


銀色の猫が追いかけ

 

強くなろうねと きみを励ます

きみは唐突にふりむいて 精一杯にほほえんだ

 

「明日から 前を向いて歩いていくわ

 

 私にしかできないものが きっとあるはずだから」

 

 

スコールのような ウィルスの雨が和らげば

 

きみは穏やかさを取り戻し

 

新しい歌い方を覚えるだろう

 

きみの身体を戻せるのは 歌うことでしかないのだ

 

ぼくはそれを信じている

 

きっと きっと

 

 

扉をあけはじめたライブハウスのむこうで 
 

壊すことも 食べることもできない ピアノのチョコレートは

「シの♭」を鳴らせないまま 

 

復活するきみを待っている。

 

 

 

 

きみに捧げる詩 endures with EKKA  My Fanny Valentine  Eartha Kitt