「投稿小説図書館 ことのは」および「小説家になろう」に連載中の「坂東の風」のダイジェスト版です。
第一話 襲撃
平安時代とはどんな時代だったのか? この説明から物語は始まります。
遷都、対蝦夷戦争、飢饉などの影響で財政危機が続き、政府は、軍備や宮廷費の削減などの政策を実行してそれを乗り切ろうとした。
軍備削減は、農民を中心とした徴兵制の軍団を廃止し、郡司の子弟などによる少数精鋭の
一方で平安時代は、財政難も影響して、律令制の実質的な崩壊が始まった時代でもある。権威の象徴である位階や格式は残ったが、徴税、民政、治安のための機構が崩壊した。
貴族から官吏まで、為政者の側に立つ者たちが私利私欲に走るようになり、軍備削減の影響もあって、治安は乱れに乱れて行った。
中でも坂東は、群盗が横行し、官吏と盗賊の区別さえ付かないような状態に陥っていた。
真夏のある日、相模の山中で、千方、夜叉丸、秋天丸の3人は京に向かう荷駄隊を襲うため待ち構えていた15人の男達を逆に襲撃し、皆殺しにしてしまう。
自家の荷を守るための行動だったが、男達の背後には武蔵権守である源満仲とその弟満季の影があった。満仲は、知る人ぞ知る、源氏の隆盛の基となる財政的基盤を築き上げた人物であるが、財を成すためには何でもやった男であり、悪名も高い。
やがて、この満仲、満季兄弟が、千方の所属する秀郷流藤原氏の将来に暗雲を呼ぶことになる。
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第二話 隠れ郷
話は千方の少年時代に飛ぶ。藤原秀郷の落とし子である千方は、武蔵国の
13才になったある春の日、兄千常が突然迎えに来た。最初は嫌がっていた千方だったが、母の毅然とした言葉に負け、千常に同行し下野に向かう。
千常の館で2日過ごすが、3日目の朝千常と郎等の朝鳥の3人で向かった先は、秀郷の館ではなかった。
山深い盆地の郷。そこは異様な雰囲気を持った郷だった。歓迎を受け、姫王丸(夜叉丸)が、馬上から走っている兎を見事に射止めるのを見せられる。千方は見事さに驚くとともに、残酷さを感じる。
千常は突然、千方と朝鳥にこの郷に残るよう申し渡す。父との対面を期待していた千方だったが、3年もの間この郷で過ごすことを命じられたのだ。
千方も驚いたが、朝鳥も驚いた。そして、納得できないと千常に詰め寄るが、千常の言葉に感銘し、承服する。
実は朝鳥は、将門軍との戦いの折、たったひとり残った男子である三郎是光を亡くしていた。その後の朝鳥の暴走を千常は案じていたのだ。「千寿丸(千方)を三郎と思って、もう一度育ててみてはくれぬか」千常はそう言った。
千方をどう育てるか聞く朝鳥に千常は「麿の懐刀、武蔵に打ち込む楔」と答える。
要件が済むと、郷の男達に守られて、千常はさっさと引き上げて行った。
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第三話 潮流
この郷は蝦夷の郷であった。
秀郷が上野や信濃への進出を考えていることを朝鳥は知っていた。その秀郷の意を受けて、千常は着々と準備を進めているのだ。武蔵には敵対する者が多くあり、下野のようにうまく行ってはいない。そこで、千方を育てて懐刀として武蔵に送り返す算段なのだ。
しかし、やっていることは、かつての将門とそう変わらない。土豪達の紛争に介入しては影響力を拡大して行っているのだ。千常にも将門の二の舞となる危険性が付き纏う。
ここからは承平・天慶の乱の概観が述べられ、乱以前の秀郷についても語られる。
決して、朝廷側の土豪である秀郷が反乱を起こした将門を討ったという単純な図式ではない。将門と秀郷はむしろ同類であり、秀郷は将門以上に朝廷に警戒されている存在だった。
その秀郷が押領使として平貞盛とともに将門を討つまでには、それぞれの立場と思惑があり、また朝廷側にも、警戒している秀郷に頼らざるを得ない事情があった。
11月の除目を前に、3月に開かれた考課定めの席に於いて、反藤原摂関家グループのホープとして新参議となった源高明が、秀郷の勢力拡大を恐れて恩賞を渋ろうとする公卿達に、恩賞を渋って、もし秀郷が不満を持って反乱を起こしたら大変なことになると警告を発する。
それもそうだとしぶしぶ了承した摂関家の公卿達だが、過分な恩賞を名目だけのものとし、骨抜きにして、実質的に秀郷の力を抑え込むための方策を考えはじめる。
話は郷に戻り、この郷についての疑問を投げかける朝鳥を祖真紀は「吾等は亡霊のようなものでございますよ」という言葉で煙に巻く。
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第四話 それぞれの夕暮れ
林を切り開いた高台にある舘は、竪穴式住居ばかりのこの郷に於いては、特別な建物である。そこで、千方と朝鳥の生活が始まる。食事は女達が運んで来る。その日の
夜叉丸が射た兎を旨そうに食べてやらなければならない理由を、朝鳥は長々と説明するのだが、千方に取ってそれはわずらわしいだけだった。言いたいことは分かっているのだが、その長口舌にうんざりした千方は朝鳥に反抗する。
ふてくされて、横になり寝た振りをしている千方だったが、甘やかされて育って来たせいで、かまってもらうことを期待している。だが、朝鳥は何の反応も示さない。
そのうち、本当に眠ってしまった千方が、祖真紀の声で目を覚ました時にも、朝鳥は何事も無かったかのように振る舞っていた。
祖真紀が女達を引き連れて夕餉を運んで来たのだ。千方は旨そうに食べ、挑発する朝鳥に挑むかのように、兎の肉も口の中に放り込んだ。
褒められて育った千方だから、兎の肉を食べたことについての褒め言葉をつい期待してしまう。しかし、千方は、祖父久稔の戒めの言葉を思い出した。褒められてすぐいい気になる者はうつけという。うつけはだまされやすいから長生き出来ぬと祖父は言っていた。そして、ほめられたら、相手がなぜほめるかをまず考えよとつけ加えた。千方の甘さを心配しての言葉だったのだろう。
朝鳥には、千方の反発を楽しんでいるようなところがあった。
「村長のところへ行って、猿酒の残りを出させて、大人の話でもしてまいろうと思います」
「大人の話? 」
「どこぞに若い後家でもおらぬかと思い、さぐりを入れてみようと思いましてな」
この男何を考えているのかと、千方はまた腹が立ってきた。
さらに朝鳥は、出掛けに急に振り向いて、
「こういうところでは、梁に
などと言う。千方は
ふてくされる千方を舘に残し、朝鳥は外に出た。ひとりの男が朝鳥を村長祖真紀の住まいまで案内する。祖真紀と、千方のことなどについて語り、猿酒を馳走になって夕刻、朝鳥は舘に戻る道を歩んだ。
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第五話 将門を殺した男
それは、将門を討った北山の戦いでのことだった。秀郷に付いていた若者。あれは確かに古能代だった。だが、その時古能代は蝦夷の装束ではなく、郎等の衣装を着ていた。そのため朝鳥は、新規お召し抱えの者だろうと思っただけであった。
将門の先方を破った秀郷、貞盛、維幾の連合軍は、将門の本拠地
将門が北山に陣取ったという報せを受けて、連合軍は北山を包囲するが、強い吹き降ろしの南風が吹いている。風が変わることを期待して、秀郷は時間稼ぎの策を打つが、しびれを切らした将門軍の攻撃が始まる。
将門軍の矢は風に乗って勢い良く飛んで来るが、連合軍の矢は吹き戻されて届かない。混戦となり、諏訪三郎兼家が将門の兜を打って一撃を与えるが、落馬させるまでには至らなかった。しかし、兜の向きがずれたのか、或いは緒が切れたのか、将門は兜を脱ぎ棄てる。再び猛攻に移った将門軍の前に、遂に連合軍は崩壊し、秀郷らは逃走を始める。
その時、突然風が変わった。冷たい北風を頬に感じて、秀郷は馬を止め反撃に移る。一旦矢合戦を中断し、双方ののしり合った後、貞盛が将門目掛けて矢を放つ。それを払いのけたかに見えた将門の姿が突然馬上から消えた。
敵と正対していたにもかかわらず、将門は左のこめかみに矢を受けて死んでいた。真っ先に駆け寄った秀郷が、何故か、ただちに矢を抜き、それを散らばっている矢の中に放り込んだ。そして、首を打ち落とし、貞盛が射落とし自分が首を討ったことを宣言する。
戦勝に湧きかえる中、ひっそりと戦場を離れて行く、古能代達5人の若者の姿に気を留めた者は朝鳥も含めて誰も居ない。
古能代が北山の戦いに参加していたのではないか? との朝鳥の問いに、何故か祖真紀は聞こえない振りをする。
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