寒くなってきたので、秋に因んだ色っぽいお話です。
平安時代の貴族は、ご存知のように
「通い婚」が一般的で、男女は一緒に暮らしてはいませんでした。
男性は女性のもとを訪れては、共に一夜を過ごし、翌朝のまだ暗いころに帰路に着きます。
平安時代、実はまだ布団はなく、貴族の寝具はなんと畳(重ね畳)でした。
その上に夜は互いの衣(きぬ)を重ねて敷き、そこで逢瀬を重ねていたのです。
しかしすぐに別れの朝はやってきます。
共に過ごした時間を惜しみつつ、二人は互いの重ねていた衣を着て離れます。
帰宅した男性は女性の衣に焚き込められた香の移り香から、昨夜の逢瀬を思い出します。
一晩重なり合っていた二人の衣が離れ離れになる様を「衣衣の別れ」と言い、いつしかこの翌朝のつらい別れのことを「後朝の別れ」(きぬぎぬのわかれ)と書くようになったそうです。
成願義夫