浮世絵から学ぶ風俗 

この浮世絵の女の着物の衿の黒い襟について。

 


これは、時代劇でもおなじみの黒い衿スタイルだ。
では、現代の着物にはまず見る事の無い、黒い布の正体とは?

あの黒い衿のようなものは「掛け衿」といい、衿周りの汚れ(主に鬢付け油汚れ)を防ぐ為に付けられていた。
現在の着物にも、共生地で『掛け衿』がかかっているが、それと同じだ。当時、裕福でない庶民の女性達の工夫で生まれたと言っていいだろう。
手持ちの着物の枚数もしれているので、当然同じ着物を着回すことになるが、最も汚れやすい衿周りの汚れが流石に気になる。
今もそうだが、当時も着物は洗うとなればそううとうの手間隙がかかった。それを軽減させる為、衿に汚れの目立たない黒衿を掛け、更にそれでも汚れた場合は衿だけを取り外して洗った。何度も洗っているとぼろぼろになる。そこで新しい黒い布に付け替えた。これが着物と共布の掛け衿だと限界があるので、こうはいかない。着物の色柄を選ばない黒い布の秘密はそこにある。着物が着られるうちは何度でも付け替えられるというわけだ。今も残る掛け襟とは本来この役目の為にある。
汚れたらそこだけ外せるものなのだが、案外知らない人も多い。今でも着物専門の洗濯屋さんは、汚れの酷い掛け襟だけ外して洗ったりすることもある。
因に、黒い掛け襟は昭和初期頃迄一部女性の間に残っていた。

浮世絵は 豊原国周筆

 

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