旅の始まり

にて

今回、用があって新潟、長岡と旅してきました。

目的の一つに、長岡市で春にだけ公開される加山又造の

「しだれ桜」の絵を見ること。

学芸員の方が好意的で、誰もいなくなった時に、

展示コーナの明かりを消してくださり、

夜の空間に浮かび上がる夜桜の姿を、体験させてくださいました！

残念ながら、映像撮影は禁止でした。

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仏陀とキリスト、そしてタロット

S 氏の著書『仏陀の悟り』より；

（p.163）

　仏陀の意識は、自己の生存の根源ーー苦ーーを知り、そこから生老病死を見つめ、無常ーー無我を媒介に涅槃（ねはん）、悟りへと向かう。無常、無我意識への集中を妨げるものとして無明を挙げ、我の中にある自我と自己、そしてその自己と法により、四諦八正道（したいはっしょうどう）のなかで、無明から離れ、真理ーー法を体得すると説く。

ーーー著者が理解する仏陀論の真髄である。

以上を、私の中でまとめる；

　ブッダの探求は、自己の生存の根源、すなわち苦を知り、そこから生老病死を見つめ、無常ーー無我を通して涅槃（ねはん）に至る。それが悟りである。

ーーーしかし、無常から無我にどうして至れるのか？　無常を感じるのは自我ではないのか！　探求自体が「無我」に至ると言えるのだろうか？　無我になるまで探求せよと言うのだろうか？　「無我」はどの時点で「無我」と判定、または自覚できるのだろうか？

（長岡の桜：'24/4/12）

また、著者は解く；

　”無我意識に留まり続けるのを妨げるものが無明である。四諦八正道の中で無明を離れ、真理（法）を体得する。”

ーーー「四諦八正道」はどうして知ることができるのか？　それは、それを教える人から教えられるものではないのか？　そうだとすれば、神を教える人から神を教えられ、神を知るのとどこがどう違うのだろうか？

（p.164）

　その（仏陀の）論理構成には一点のごまかしもない。我を自我と自己に分けられればだが。

　人の根源的不安に証明不能の神を置き、救いを説くような誤魔化し？　は、そこにない。

ーーー「生老病死を見つめ、無常ーー無我を介して涅槃、悟りへと向かう」。「悟りへ向かう」となぜわかるのか。それは証明不能な前提、または教えられたことではないのか。

　「無我」はどうして「無我」と分かったのか。「自我」を消滅、または吹き飛ばすほどの明確な出来事はあったのか。あったとすれば、それはどこで起こったのか？

　「我」を自我と自己（または真我）とに区別するのも、「仮定」ではないだろうか？　自己、あるいは真我はいつ発見されたのか？

　自己、または真我を発見したものは誰か？　真我に自我が発見されたのか？　自己が明らかになっても、まだ「苦」は存在するのか？　自己または真我が明確になったので「苦」が消えたと仮定すれば、なぜそこに「無明」はまだ出てくるのか？

　それらが明らかにならねばならないのではないだろうか。

(長岡：縄文土器展示館前の平原）

（p.164）

　法を前に人が淡々と座っている凄みの中に、その凛とした姿勢に全てを包括するその “法” すらからも解放されている人間の尊厳の原点を見るのである。

ーーーまず、「法」とは何か？

　それは真理のことだとすれば、それを知った人から教わらずに、どうして知ることができるのだろうか？　社会の「法律」すら、われわれはそれを制定した人たちか、それを知っている人たちから教わらずには、知ることはできない。

　また、「法」すらからも解放されている人間が、何のために「法を前に淡々と座っている」のだろうか？　それは「法」への憐れみか？　それとも「法」への尊敬か？　「法」への愛か？

　法とは「真理」のことだとすれば、真理から解放された人間は、また転落するのではないのか？　法と自由、真理と自由は別物なのか？　自由でない真理とは何か？

　光から解放されるとは、暗黒に落ちることではないのか？　そもそも、光は縛るのか、法は縛ることを言うのか、縛るところに真理はあるのか？　

　親から完全に自由になった子が、それでも親の前に立つのは、親への愛と感謝である。そして、親は生まれる時に前提されている。「親という前提」なしに存在する子はひとりもいない。

　人間そのものが生まれる前に、人間誕生の前提はないのか。親は、何らかの形で親と教えられずには、子に認識されることはないが（狼に育てられた人間の子は人間を知らず、人間を見ると吠えて襲いかかる）、人間そのものの誕生も、何らかの形で人間に教えられずに創造者を知ることはないのではないのか。

　「苦」に沈んでいるわれわれが、われわれの創造者の前に立てるのは、創造者の恩恵に他ならないのではないだろうか。われわれが完全な自由人であり、われわれに転落を示す何ものもないならば、われわれが創造者の前に立つのは「凄い」ことなのだろうが、われわれが自分の一生に対して完全な責任を背負えるほどの自由人でないならば、創造者の前に立てるのは創造者からの完全な恩恵なのではないだろうか。

(長岡：縄文時代の家）

（p.164）

　救われるということは神に逢うことではない、自らの在りようの根源を知り、見極め、離することである。私は法をも離したのである、と、仏陀が宣したかのように思えるのだ。

　これが私の仏陀観である。とはいえ、この見方で私の “あんしん” が満たされることにはならない。　ーーーと著者は解く。

ーーー「救われることは神に逢うことではない」、という。彼は「神に逢った」のだろうか？　神に逢ったら、何が起こったのだろうか？　それとも何も起こらなかったのだろうか？

　相対的な「わたし」が絶対者に会って、何も起こらないとすれば、わたしも絶対者に違いない。「救いを必要とする相対的なわたし」が、絶対者に出会えるだろうか？

　もちろん、そんなことがあり得るはずがない。相対的なわたしが、わたしの探求によって絶対者に出会えたとするなら、それは相対者のレベルに変えてしまった絶対者に過ぎない。それは確かに救いにはならないだろう。

　しかし、絶対者の方からわたしに現れてきて、わたしがそれに心の目を開かされたとするなら、わたしは絶対者の方から備えられた道によって別の世界、別の次元に存在したのである。そして、自らの在りようの根源を総体的に、完全に知らしめられたのである。

　これが、わたしの絶対者観である。

（縄文の家の中での、縄文土器の配置）

（p.165）

　仏陀は、ただ真実を、人間存在が “苦” であることを明らかにし、見切ることによって“苦”を捨てることができた。そしてその事実を生涯、人々に説き続けた。

ーーーもしそれが本当に事実だとすれば、仏陀は天才である。彼は相対者と絶対者の中間に生まれた人であって、まるまる相対者であるわれわれの救済者にはなれない。完全な相対者に過ぎない一般的な人間は、仏陀の救済には到達できない。そして事実仏陀は、「その真理を人々が理解することが極めて困難であることを理解していた」と言われる。しかし、これがブッダの道なら、それを理解し、それに達することは相対的な人間には不可能である。

　そして事実仏教は、小乗から大乗へと変遷し、さらには夥（おびただ）しい教派に分かれていく。その教えにどんな深さや豊かさ、また価値があろうとも、ブッダの本当の教えが上記のようなものであるなら、それらのどれもがブッダの教えでも到達したものでもない。それらは仏教という宗教である。

　キリスト教という宗教が、別にキリストの救いやキリストの道とは関係ないように、仏教もまた仏陀が到達したものとも、仏陀が生きた道とも関係がない。もし関係があるのなら、おそらく仏教が説いて教えているものとは異なる道を示してくれているはずである。

（発掘された場所で縄文土器の現物群を見るのも、

今回の旅の目的のひとつでした。）

ーーーータロットの場合は、０番の「愚者」から始まる。

　さまざまなタロットカードを目にしてきたが、本当のタロットの出発点に立っていると感じさせられるものは、ほとんど見当たりませんでした。よくもこんなタロットで、本当に人生を生きていけるものだと、われながらタロットカード群には感心させられてしまった。

　タロットの出発点は「愚者」である。自らの存在が、観察によっても体験を通しても、過去現在未来にわたってどこからも、宇宙の果てでは「愚者」以外の何者でもないことを、すべて知ってしまった；ところから始まる。

　この「果て」には、神もなければ仏もない。慈悲もない、友達もなければ親もない。ただ三千世界が燃えているだけである。

　仏もなく、神もなく、神の国もなければ仏国土もない。死んでゆくこともできなければ、生きてゆくこともできない。ただ炎の真ん中に、ひとりで投げ出されている。どこにも行き場のないこの身体は、寒風に吹かれてただブルブルと震えるだけである。罪の重荷を背負って、寒風の真ん中に立っているだけだ。みんなからは打ち棄てられ、どこにも頼るものはない。ただひとりで泣いてゆく、ただひとりで苦しんでゆく。「愚者」の世界を知ったのだ。

（新潟：日航ホテルから市の古町と海を望む）

　三千世界の苦しみを自分一人で背負ってゆく。イエスも、「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか！」と叫ぶ以外にはない。

　ここに、想像もしなかったものが開けてくる。いや、知識や言葉では聞かされていたが、まったく知らなかったものだ。タロットが本当にやってくる。実際に生きたタロットが現れてくるのだ。ちょうど、絶海の孤島にひとり置き去りにされて震えていたアリアドネに、突如ディオニュソスが現われ、アリアドネの人生が一変してしまったように。あの神話をつくった人たちは、本当にタロットを知っていた人々だったのだ。

　人はタロットを知ってはいる。カードも見てはいる。しかし、それは、生きて本当に存在するのである。それを神と言ったらいいのか、仏と言ったらいいのか、大宇宙と言ったらいいのか、はたまた「タロットの霊」と言ったらいいのか。そんなことはどうでもいいのである。それが、探求者の中に開けてくる。光が輝き、道が生まれてくる。

　ここに、愚者、凡夫の寿命が消え、人間の寿命が消えて、タロットの無量の生命が生まれてくるのである。この世の人生に付け足す助けや愛などではなく、生まれ変わるのである。タロットが探求者の魂にやってくる。そして光り出す。それはタロットの生命であり、絶対の生命である。

タロットのSpiritが心から輝き出す「秘儀参入者」。

彼の足には翼が生え、異なる世界へと上昇していく。

仏陀、キリスト、そしてタロットーーー絶対の生命へ