不愉快なことには理由がある | 自由への凡走  Are you gonna go your way?

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本とか映画とか思うこと。

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橘 玲  著

「不愉快なことには理由がある」

本屋で喪黒福造の表紙が周囲から浮きまくっていたので買いました。



最新の”進化論”の知見をベースにしたスリリングな社会批評集!

重要なことは、INTRODUCTIONとPROLOGUE、そしてEPILOGUEに書かれています。

Part 1からPart 4は、それに基づく個別の事象の解説です。



目次

INTRODUCTION たったひとつの正しい主張ではなく、たくさんの風変わりな意見を

PROLOGUE 世界の秘密はすべて解けてしまった

Part 1 政治
 1 不思議なデモクラシー
 2 有権者はバカでもいいのか?
 3 カリスマとハシズム
 4 不愉快な問題

Part 2 経済
 5 グローバル市場と国民国家
 6 日本経済の「不都合な真実」
 7 愚者の楽園

Part 3 社会
 8 特別な日本、普通な日本
 9 日本人の「混乱」
 10 いじめの進化論

Part 4 人生
 11 彼と彼女の微妙な問題
 12 日常に溢れる「魔法」
 13 知りたくなかった?人生の真実

EPILOGUE 進化論的リバタリアニズムのために



(INTRODUCTIONより)
 本書では、政治や経済、社会的事件など、私たちのまわりで起きるさまざまな出来事について日々考えたことを綴っていますが、正しい主張が書かれているわけではありません。
 いきなりの暴論で驚かれたかもしれませんが、その理由は3つあります。

 ひとつは、私が、それぞれの問題についてはただの素人だということ。日本には、政治学や経済学、社会学などの優れた専門家がたくさんいます。彼らと同じ学問的レベルで“正しい”論述をするのは、そもそも素人には不可能です。

 ふたつめは、多くの社会問題でなにが正しいのかわからないこと。これは、私たちの世界が不確実で、未来を予想できないからです。複雑で緊密な小さな世界(スモールワールド)の話は次章でしますが、難しい説明がなくても、3・11の前は専門家の大半が原発の絶対安全を信じていたことを思い起こせばじゅうぶんでしょう。専門家が間違っているのなら、専門レベルの正しさを妄信することは破滅への道です。

 3つめは、問題には必ず解があるわけではないこと。あるいは、解があってもそれが実現不可能な場合があること。尖閣や竹島は日中・日韓の「問題」ですが、主権国家の集合体である近代世界は領土問題を解決する方法を持っていません。

・・・

 「中央銀行がマネーを大量に供給すれば不況はたちまち終わる」とか、「国家がすべてのひとに生活最低保障すれば貧困問題は解決する」とか、「太陽光発電や風力発電で原発をゼロにできる」とか、さまざまな“一発逆転”のアイデアが出されています。その一方でこれを真っ向から否定する専門家も多く、学問的な論争は見苦しい罵り合いと化しています。
 政策的に重要で、専門家のあいだで合意が成立しない問題は、民主制(デモクラシー)社会では最後は素人が選択するしかありません。
 幸いなことに、いまでは素人の集合知が少数の専門家の判断よりも正しいことがわかっています。

・・・

 いずれの場合でも、集合知を有効に活かすためには、バイアス(歪み)のない多様な意見が重要です。その一方で、独裁者が理想を追い求めたり、大衆が感情に流されて“最終解決”に飛びつくと、戦争や内乱、虐殺のようなとてつもなくヒドいことが起きることを20世紀の歴史は教えてくれます。だとすれば真に必要なのは、たったひとつの正しい主張ではなく、たくさんの風変わりな意見なのです。

・・・

 しかしだからといって、いい加減な思いつきを並べても読者は混乱するばかりでしょう。そこで本書では、日本社会や日本人を論じる際にひとつの基準(というか視点)を採用しています。それが進化論です。
 なぜ社会批評に進化論が出てくるか、不思議に思うかもしれません。そんなひとのためにプロローグで、現代の進化論(進化心理学や進化生物学)が脳科学や遺伝学の研究成果によって急速に発展し、ゲーム理論や行動経済学などの社会科学と融合して、人間と社会の謎を解明する統一的な理論を構築するという、巨大な知のパラダイム転換が起きていることを概観します。本書のアイデアは、こうした知見を政治や経済、社会の出来事に適用して、マスメディア(ワイドショー)とは異なる視点を提供しようというものです。

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 近代文明は驚くほどの進歩を遂げたので、解決できる問題のあらかたは解決されてしまいました。だとすればいま残っているのは、問題の解決が新たな問題を生むようなやっかいなものばかりでしょう。不愉快なことには、すべて理由があるのです。
(ここまでINTRODUCTIONより)



(EPILOGUEより)
進化論が社会問題や私たちの悩みについて述べていることは、次の一行に要約できます。

 ひとは幸福になるために生まれてきたけれど、幸福になるように設計されているわけではない。

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社会をすこしでも住み良くするためのいくつかのアイデア

(1)市場を利用する (2)進化論的に制度を最適化する (3)価値観を多様化する

・・・

 これまでの政治思想では、すべてを市場の「見えざる手」にまかせ、国家の介入を最小限にとどめる自由主義(リバタリアニズム)と、国家が市場を管理・運営するべきだと考える官僚主義(パターナリズム)が対立してきました。しかしいま、ゲーム理論や行動経済学を活用し、進化によって生じたさまざまな認知上のバイアスを利用することで、ひとびとの行動をより良い方向に誘導(ナッジ)していく新しい政治思想が生まれています。これは「リバタリアン・パターナリズム(おせっかいな自由主義)」と呼ばれていますが、いわば「進化論的リバタリアニズム」の立場です。

 進化の産物である私たちは、進化によって与えられた制約の外側に理想社会を築くことはできません。だとすれば、現代の進化論の不愉快な知見をすべて受け入れたうえで、人生を設計し、社会を作っていくしかないのです。
(ここまでEPILOGUEより)



目前に迫った衆議院議員選挙では、経済政策、消費税増税、原発、TPPなどたくさんの争点があり、政党も乱立しています。

政策的に重要で、専門家のあいだで合意が成立しない問題は、民主制(デモクラシー)社会では最後は素人が選択するしかない」のです。

「幸いなことに、素人の集合知が少数の専門家の判断よりも正しい」のです。

選挙なんかしないで、裁判員のように「国民からランダムで国会議員を選ぶ」というのもいいのかもしれませんが、現実的にはなるべくたくさんの多様な素人が選挙に行くことが、より良い方向に日本を導くことになりそうです。

というわけで選挙には必ず行きましょうね!

不愉快なことには理由がある/集英社
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