仕事の後でTAKAが事務所の社員2人と別れて駐車場に向かおうとしていた。
春の夕方の道をぼんやりと街灯が照らしていた。
薄明るく光るコンクリートの上にTAKAはどこかで見た人が立っているのを見た。
「TAKAさん、TAKAさん。俺の事覚えてますか?」
TAKAがじっと30歳ぐらいのその男を見た。
「B・Bでローディしていた高宮慎太郎です。しんちゃんって呼ばれていた・・。」
「ああ・・。しんちゃんか・・。」
急に10年くらいワープしたようにTAKAがきょとんとした顔で言った。
「不思議だ・・。しんちゃん。今日、真帆としんちゃんの話をしてたんだよ。朝方ね・・。」
「へぇ?今でも俺の話なんかするんですか?」
しんちゃんがちょっと嬉しそうに言った。
「俺は昔お世話になった人は忘れないよ。懐かしいよ。」
TAKAが言った。
「真帆さんは元気ですか?」
「元気って女ではないよ。昔からね・・。知ってるだろ、しんちゃん?」
しんちゃんは真帆の過去を思い出した。
TAKAが寂しそうに笑った。
「ポン中なったり拒食症になったり・・まぁ、あいつはアレだよ。でもまあずっと一緒だ。」
TAKAがそう言った後、しんちゃんが苦笑した。
真帆さん・・・ずっとTAKAさんが首にしたバンドメンバーのKENちゃんと浮気してましたよ・・とは口が裂けても言えなかった。
「しんちゃん、いきなりこんな話もなんだけど・・俺、実は金がないんだ。昔のマネージャーの田畑さんとたまたま会った時、しんちゃんがライブハウスLのオーナーだって話を聞いたんだ・・1年位前かな?それで・・もしよかったら俺もビジネスに入れてくれないかな?」
「え・・オーナーなんてとんでもない。友達と3人で経営していて・・トントンですよ。」
「俺を入れて4人で・・っていうのはどうだ?」
「ええっ?TAKAさんが経営陣に入ったらすごい宣伝効果ですよ?でも、いいいんですか?本当にこじんまりとしたもんですよ。」
「俺も金なくてこじんまりとしてるよ。マメに顔だしてDJのチケット代とか上げてやるから。」
「うわぁ。主婦のアイドルのTAKAさんだから主婦の追っかけが来そうだなぁ。」
しんちゃんが笑った。
しんちゃんはTAKAが母親の負債で苦しんでいる噂をすでに知っていた。
「昔売れない時もしんちゃんにスタジオ代とか借りたね・・。」
TAKAが昔のような口調で言ったのでしんちゃんは少しびっくりした。
「いや、もうネームバリューだけでもありがたいです。今度他の経営の友達2人もつれてくるから会いましょう。」
「顧問弁護士を連れてこようか?」
「本当にそんな店じゃないですよ。TAKAさん。」
しんちゃんがびっくりしたように言った。