★★★★★

 

感情が揺さぶられ続けた。

「殺人事件の加害者家族と被害者遺族、一つ選べと言われたら、あなたはどちらになりたいですか?」

この問いから、両者の苦悩を描いた物語だと思い読み始めた。

しかし本作は、それだけに留まらない。

加害者の息子が企てた被害者遺族の誘拐と爆破計画。
歪んだ感情が生んだ復讐劇かと思いきや、物語は二転三転する。

執拗なマスコミ、隠蔽体質の警察、SNSでのバッシング。
行き場のない怒りが押し寄せ、胸が苦しくなった。

そして辿り着いた真相は想像をはるかに超えていた。


社会が抱える歪みを鋭く抉り出す社会派ミステリー。

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

412頁に渡る長編は悪意が充満していて、胸やけしそうだった。

Z世代に人気の BeReal を思わせる「リアリズム」アプリが物語の鍵を握る。

気に食わない相手の死を願うと、死神を意味する“タナトス”がその願いを叶えてしまう。

恨みや憎しみを抱えた人々が次々と登場し、中には依頼者本人こそ悪人というケースもあり、イヤミス のような空気が漂う。

SNSが普及し、便利さの裏で悪意が際限なく増幅していく現実を突きつけられた。

“タナトス”の正体を知りたい一心で頁を捲り続け、エピローグで明かされる特定班の存在に思わず息を呑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★

 

『人間みたいに生きている』で心を掴まれた佐原ひかりさん。

『鳥と港』『スターゲイザー』『ネバーランドの向こう側』と、どの作品でも瑞々しい感性に魅了されてきた。

新作もその延長線上にあり、より深い“人間の揺らぎ”を描いた一冊だ。

主人公は倉田むつみ。
婚約者の上野春臣は通り魔から妊婦をかばって<英雄>として命を落とす。

衝撃的な幕開けだが、読み進めるほどに春臣の別の顔が立ち上がり、物語は再び揺れる。

称賛された<英雄>も、決して聖人ではない。

善と悪、利己と利他、その両方を抱えながら生きるのが人間なのだと痛感させられる。