交代勤務で休日が不規則なヒトミは
時々、仕事帰りのビニと中華街で待ち合わせをする。
 今日は給料日直後のヒトミの奢りで
フカヒレを食べに来た。

最近リニューアルしたらしい、綺麗な店だった。
2人は中国酒の飲み比べをして楽しむ。

『ヒトミさん、かなり強いですね。
 多分、僕より』

『うん、弱くはないわよ』

『ヒトミさんを酔わせてどうこうって、できそうにないですね笑』

『うん。その手には乗らない自信しかないわね笑』

『僕の先輩教師なんですけど、すごくお酒が強いんです。
 性格の真面目さも僕の
 かなり上をいくと思います。
 すごく頼りになる先輩で、僕の目標です』

『どんな方?』

『一言で言ったら、イケメンです』

『そうなの?
 一度お会いしたいわ』

ビニは、度数の高い中国酒に
少しむせた。
『ダメです!…あ、でも条件付きならいいですけど』

『条件?』

『はい。自慢の先輩なので会って欲しいんですけどね。。あまりにカッコいいので
 絶対に先輩を好きにならないで下さいってことで。。』

『は?(笑)』

『僕が先に好きになったから、後から来た人に取られたくないですから』

『え?』


『突然ですみません。でも、たぶん最初に会った時から忘れられなくて。
 僕じゃ相手になりませんか?』

『えっと、あの』

『あ、もしかしたら
 付き合ってる人いたりして??』

『いえ、いません。
 でも、忘れられない…
 忘れてはいけない人がいるんです、だから』

『近くにいらっしゃらないんですか?』

『はい。すごく遠いところにいます』

『どんなかたですか?』

『無口だけど、すごく温かい』

『そうですか。
 そんなに素敵な人だったら、
 忘れられませんよね』

『はい』

『でも、僕の存在も無視しないで下さい』

『待っててもらっても無理ですよ』

『待ちます。ヒトミさんにとって
 頼れる存在になりたいです。
 待つのも愛情の一つだと思うから、
 僕はそれでも満足です』

『ありがとう』

ビニの頬にエクボが出来た。


ヒトミはそれを見て
なぜか
また心が温かくなった。