駅で
きょうこと別れた雅樹は、
自宅の近所のバーに一人で入った。
明け方まで開けているバーだ。

入れ替わりに出てきた女性と
目が合う。

『あ、雅くん。
 こんな時間から?』

『ああ、久しぶり。
 うん、軽く飲んで帰ろうかと。
 いま上がり?』


『うん。
 帰って寝るつもりだったけど、 
 せっかく会えたし、
 一杯だけ付き合ってもらおかな?』

『ああ、いいよ』





雅樹と
この店で働く可奈子は
ならんでカウンター席に座った。


可奈子『ほんと久しぶりだね。
    相変わらず、そこそこ
    カッコイイわね』

雅樹 『そこそこ、ってなんだよ』

雅樹と可奈子は
2年ほど前まで付き合っていた。
あるとき、
可奈子の浮気が発覚する。
雅樹と可奈子は話し合い、
修復を試みたが、
一旦できた溝は埋まらず
別れることになった。

雅樹 『可奈子は
    あのときの男とうまくいってんのか?』

可奈子『よく喧嘩するけど
    うまくいってるほうだと思うよ』

雅樹 『なら、良かった。  
    そう言えば
    俺達、喧嘩とかしたこと
    なかったもんな』

可奈子『そうだね。
    私が浮気したときも、
    雅くん、怒らなかったもんね』

雅樹 『怒ってなかったわけじゃないけどね。
    そうなったものは仕方がないって
    諦めの
    気持ちの方が強かった』

可奈子『わたしは怒って欲しかったんだけどな』

雅樹 『正直あの頃、仕事も忙しくて
    気持ちに余裕がなかった。
    それが、
    可奈子の目が他に向いていった
    原因なんだろうけど・・
    
    二人のことをマイナスから0に戻して
    またプラスにしていく努力を怠った。 
    改めて可奈子には悪いことしたな、
    と思うよ』

可奈子『もう終わったことだし。
    ね。もう一杯飲もう。
    ところで、雅くんの恋愛事情は?』

雅樹 『無い無い』

可奈子『無いわけないでしょ、
    そこそこイイ男なんだから』

雅樹 『うっさい(笑)
    言える話があったら、
    とっくに話してるよ』

可奈子『言えない話なら、あるんだ?』

可奈子の目がキラっと光った。


雅樹 『いや、、どうにもならないことさ』