11月1日(土) 国立能楽堂
能『江口』・千之掛
シテ(里の女 江口の君の霊)味方玄 ツレ(遊女)武田祥照・武田崇史
ワキ(旅僧)宝生欣哉 アイ(所ノ者)野村萬斎
笛:杉市和 小鼓:成田達志 大鼓:亀井広忠 地頭:片山九郎右衛門
面:シテ「増」(出目是閑 作)
(休憩)
狂言『吹取』(和泉流 野村万作の会)
シテ(某)野村萬斎 アド(男)内藤連 アド(女)月崎晴夫
仕舞『道明寺』 観世喜正
『阿漕』 片山九郎右衛門
地頭:山崎正道
能『土蜘蛛』
シテ(怪僧 土蜘蛛)味方玄 ツレ(源頼光)観世淳夫 ツレ(胡蝶)味方梓
トモ(太刀持)小早川康充 ワキ(独武者)宝生欣哉
アイ(ササ蟹)野村裕基・中村修一
笛:杉信太朗 小鼓:大倉伶士郎 大鼓:亀井洋佑 太鼓:観世結子
地頭:観世喜正
面:前シテ「直面」 後シテは不明
先日の佳名会で、味方玄師の働きぶりに感動し、これはシテ役のモノを見ねばならぬとして、購入。
テアトル能というのは、味方玄師が主催する能の会で、年に、東京と関西で、1回ずつ公演をしているらしい。
味方玄師の高名は、紀彰先生からも伺っていた。
しかし、朝から、脳細胞が不活性で、眠く、ふと意識喪失してしまうので、不安のママ会場へ。向かう電車の中でも寝てしまい、気が付くと新宿駅に着いているという有様。折り返しのお客ももう乗り込んでいる。みっともない。
能『江口』、4回目で、前回は2025年7月の梅若会定式能で、シテは角当行雄師。なかなか好評価をブログにしているが、今回の事前詞章読みでも、意味が良くわからず、難解な曲だという印象。舞は良かったと。
今回も、観世流ながら梅若の謡本を持参して見ながら拝見していたが、やはり、前場は、西行法師と江口の君との遣り取りを思い出すのだけど、やっと謡本で覚醒させつつも、意識が遠くなりそう。難しい、聴き取れない。
後場も、深遠な仏教哲学が語られる。仏教用語がわからない。クリ・サシ・クセの前迄は、謡本を見ていても意味が取りきれずに、眠気が勝ってしまう。隣の若い女性も、完全に頭が下がってしまっている。
難しいのだ。
それでも、クリ・サシに入ると、調子が良くなってきて、気持ちが入ってくる。
クセ舞、序ノ舞、キリ舞は素晴らしい。味方玄師の舞は、的確でブレない。形もきっちりと。極めてゆっくりと舞う。
キリの舞は、仲間がお仕舞いのお稽古していて、謡には馴染みがあるし、形や動きもわかるけど、能は仕舞と違って、数段ゆっくりとしていて、難しそう。
声も素晴らしい。詞章に不安を感じたことはない。絶句や躊躇いなど無縁。
120分の大曲だけど、下に居からのゆっくりとした立ち上がりも、す~と立ち上がり、体幹最高。身体能力も高い。
まだ若いという事かも知れないが、それだけではない花がある。
名優というべし。
紀彰師に続いて、追っかけになってしまうかな。
『江口』は、難曲、大曲で、今回も敗退した感じ。
こういう能の極みのような曲を、楽しめるようになりたいモノだ。
12月に、喜多流だけど、国立能楽堂で『江口』がかかる。次はどうなるか。
狂言『吹取』。清水観音菩薩のお告げで、五条の橋で笛を吹くと、妻を得られると。
アド男は笛を吹けないので、シテ某に笛吹きを依頼する。雇うのだ。
が、現れたアド女は、実際に笛を吹くシテ某の方になびいてしまう。被りモノを取ると、あらまあ乙でした、というセクハラ、身勝手狂言。
萬斎師が、能『江口』のアイに続いて、この狂言のシテ。
萬斎師は、実際に舞台で笛を吹いた。笛方を従える演出もあるのだけど、やはり、シテが自身で笛を吹くとストーリーに沿っていて宜しい。
笛が吹けるという事で、萬斎師のシテとなったのでしょう。上手でした。多才ですね。
狂言師が自ら笛を吹く演出は、2回目の記憶。
仕舞2曲。
いずれも大家ののシテで、見応え十分。地謡に梅若会の二人。
能『土蜘蛛』。記録上6回目だけど、調度、今度の御稽古会で素謡を披露する予定で、お稽古で謡っているので、詞章は、ほぼ暗記状態。梅若の詞章だけど、観世とは変わらないと思う。
舞台上の役者の語りや謡も、ほぼ口パクで謡える。
ワタシの役は、ツレ頼光の予定なので、観世淳夫師の謡い方、語り方を学ぶ。
ツレ胡蝶は、土蜘族の一員だよね。薬を持ってきたという事で、トモ太刀持ちを遠ざける。
胡蝶が下がって、代わりに前シテが登場するが、橋掛かりですれ違うときに、目で合図などしていた。今、一人でいるぜい、ということ。
ササ蟹のアイは、2回目だと思う。
千筋の糸は、前場で3箇、中入で、前シテが引き下がるときに、独武者とすれ違うが、その時に1箇、後場の戦闘シーンで12箇、ここでは左右一度に投げたりして、合計16箇。
大きめの千筋の糸だったので、多分五間五尺のモノ、1個あたりが幾らだから総額幾らだなあ、なんて勘定したりして。
前場で1箇失敗して不発だったけど、後は、大きく投げられていた。結構難しいのだそう。そんなに練習できないし。
『土蜘蛛』は、劇みたいなモノで、舞もないし、味方玄師の魅力を出すには、不向きな面もあるが、最後、討たれたときに、一畳台から前に転げて一回転。さながら歌舞伎のトンボみたいで、運動能力、神経はさすが。
楽しめる演目。
だけど、諸役の重鎮の方々も、手抜きなどされずに、きちんと謡、所作しておられて、さすがにプロと思う。
『土蜘蛛』(梅若は『土蜘』だけど)は、素人でも能でできそうな感じで、今度トライしてみようかな、なんて。
塚の作り物や、千筋の糸の用意で下準備は大変ですが・・
最終的には、楽しい能会になり、帰りにいつも行く、馴染みの、回転しない回転寿司屋で、つい・・