3月19日(水) 国立能楽堂
狂言『名取川』・カケリ入り(和泉流 野村万作の会)
シテ(旅僧)野村萬斎 アド(名取ノ何某)野村太一郎
囃子:能と同じ
地謡:地頭深田博治
(休憩)
能『景清』(金春流)
シテ(景清)本田光洋 ツレ(人丸)本田芳樹 ワキ(里人)福王和幸
ワキヅレ(人丸の従者)村瀬慧
笛:杉市和 小鼓:久田舜一郎 大鼓:佃良勝 地頭:辻井八郎
面:シテ「景清」(宝春作) ツレ「小面」(出目若満作)
あまりに寒い。最大限の防寒着でも、しんしんと冷えて、悲しくなる。
ワキ方下掛かり宝生流の殿田謙吉氏の訃報に驚く。
能楽を拝見しだしてから、最初にお名前とお声、お姿を記憶した少ない能楽師の一人だった。
65歳。膵臓ガン。そういえば、しばらくお姿を見せない期間があって、復活するとだいぶ痩せていたから、この辺りで発見されたのだろうか。告知も受けたのだろうか。
ワタクシの最終拝見は、今年の1月7日、国立能楽堂定例公演で、『海士』のワキ「房前の従者」役だった。
ワタクシは71歳。自分より若かったんだ。いつ死ぬかわからんのう。
オヤジが死ぬ前、とにかく寒い寒いと言っていたことを思い出す。それから1ヶ月も経たないで逝った。
狂言『名取川』。萬斎師のは初めてかな。さすがの言葉遣い、と所作。
稚児に附けて貰った「希代坊」と「不肖坊」という名。世にも稀なこと、と、不運・不孝なこと。
名取川は、仙台辺りの河。比叡山で受戒してからはるばる来たのに、名前を忘れて、それを書いた袖が川の水で流れてしまって、わからなくなる。
場所も考えると一層面白いかな。
カケリ入りの小書きで、カケリの動きが加わって、囃子や地謡もあって、能仕掛け。
ちょっとウトウトしたが、これは、こちらの疲れと寒さ。
能『景清』、5回目。今までは観世流ばかりで、金春流は初めて。金春の謡は苦手なんだよね、と構えて拝見したが、そんなに気にならなかった。
『景清』は、思い入れがたっぷりの曲で、野村四郎師のモノが良かった。
今回は、全体にサラッとしていたかな。それでも、ストーリーは前回までより良くわかったかな。前半の、ワキとシテとの語りあいなど。
景清は、「眼こそ暗けれども、人の思いは、一言のうちに知る」のです。
それでも、最後の錣引きを語る場面。居ぐせと、ちょっと立ち上がっての所作、良かったです。『実盛』に似るけど、盲目だからね。
ツレとワキヅレは、鎌倉の亀が江谷戸から、日向(宮﨑)まで、ホントにはるばる来る。詞章だとわずか数行の道行だけど、実際には数ヶ月かかったんじゃなかろうか。
勿論、景清が日向にいて、鎌倉の娘が訪ねてくるなんて話は、創作だけど。
それが、再び別れ別れ。これも場所を考えると良い。
シテの本田光洋さんと、その子の芳樹さんがツレ人丸。背の大きさがあまりに違うので、ちょっとビックリだ。それでお別れの、肩押し。人丸は、女子なのにね。自分より小さい子を、押し返す方がピッタリくるのに。
悪七兵衛時代と、メクラの現在とのギャップが、もっとわかると良いかな。
一人だけ、早く拍手して悦に入っている客。嫌だな。余韻の曲でしょう。
夜の会で、帰りが遅くなってしまって、疲れる。昔はこんなことなかったのに。もう夜の会は無理かな。