3月1日(土) 国立能楽堂
能『自然居士』・古式(観世流 観世会)
シテ(自然居士)坂口貴信 子方(女児)安藤継之助 ワキ(人商人)宝生欣哉
ワキツレ(人商人)宝生尚也 アイ(雲居寺門前ノ者)山本則重
笛:竹市学 小鼓:飯田清一 大鼓:亀井広忠 地頭:観世清和
狂言『口真似』(大藏流 茂山家と山本家)
シテ(太郎冠者)茂山逸平 アド(主)山本則重 小アド(何某)山本則秀
(休憩)
能『砧』(観世流 銕仙会など)
シテ(蘆屋某の北方 北方の霊)谷本健吾 ツレ(夕霧)板真太郎
ワキ(蘆屋某)宝生欣哉 ワキツレ(従者)則久英志 アイ(下人)茂山逸平
笛:杉信太朗 小鼓:鵜澤洋太郎 大鼓:亀井広忠 太鼓:小寺真佐人
地頭:観世銕之丞
(休憩)
仕舞 『老松』梅若紀彰
『雲林院』大槻文藏
『夕顔』観世清和
『天鼓』観世銕之丞
能『松山天狗』(観世流 梅若会など)
シテ(老翁 崇徳上皇ノ霊)川口晃平 ツレ(相模坊)観世喜正
ツレ(相模坊の眷属)谷本健吾・坂口貴信
ワキ(西行法師)宝生常三 アイ(白峰の木葉の天狗)山本則秀
笛:松田弘之 小鼓:観世新九郎 大鼓:亀井洋佑 太鼓:林雄一郎
地頭:梅若紀彰
※ 3月2日の投稿から、3月4日に少々訂正しました。謹んでお詫びします。
更に、3月5日に(注)を付けました。『松山天狗』です。
「三人の会」は2回目かな。観世流の、ちょうど同じ世代(現在50歳か)の三人の能楽師は、観世会(宗家)、銕仙会、梅若会に所属しているが、お家の垣根を払って研鑽しようと、会を作った。
今回は、その10周年で、各お家に、九皐会も参加して、観世流全体で演能する。
12時開演で、18時まで長丁場の能三番。ベットから動けない梅若楼雪師以外、それぞれ事実上の引率者が地頭。
ワタクシは、なんと言っても、紀彰師が地頭を務めるし、仕舞も舞うので、参加。
それだけではなくて、川口さんは、様々な発表会で地謡など担当して頂いていて、親近感があるのです。
国立能楽堂の門を入ると、NHKの中継車がいる。4月27日(日)のEテレ「古典芸能への招待」で放映されるらしい。
能『自然居士』、3回目。
小書き「古式」により、前場で、まずシテ自然居士が説法する場面で、常の詞章よりかなり長い。持ち込んだ詞章本にはないが、わかりやすい。
子方女児が来て、小袖を寄進するが、「葵上」のように広げて舞台の真ん中に置かれる。
後半の芸尽くしは、中ノ舞、クセ舞、羯鼓舞、簓舞と続いて、楽しい。
シテ坂口貴信さんが、若いと思ってしまった。50歳くらいで、舞の動きは確りしていて、見ていて不安を感じない。こういう年代の能楽師のシテは、そういう「花」があって、宜しいと思う。
70過ぎのシテ方の場合も、「花」がある方もいらっしゃるが、拝見していて、絶句しちゃうんじゃないか、間違えるんじゃないか、ふらつきはしないかと不安になることもあって、そういう不安から解放されて拝見出来るのも、うれしい。
若手なのか、中堅なのか。
我が年齢を考え、それなりの「花」を出せねばならぬ。
ワキツレの宝生尚也さん。若すぎるのか、経験不足か、ちょっとビックリする。体調悪かったのかな。初見。
地頭は、観世清和さん。声はよく聞こえなかった。
狂言『口真似』。
同じ大藏流の、お豆腐狂言の茂山家と、かっちり系の山本家の共演で、どうなるんだろうかと興味津々であったが、案外普通に出来上がっていた。
あれだけの名人クラスの狂言師は、一日の申し合わせで、ああしましょう、こうしましょうと打ち合わせしてすり寄せれば、立派な舞台になるんですね。
ちょと端折ったかも知れない。
能『砧』5回目。
ストーリーも知っているし、ぼうっと、気持ちよく鑑賞していました。
ワキが、当日発表で殿田謙吉さんから、宝生欣哉さんへ交替。二番続けてワキ出演で大変でしたが、違和感なく。
前場の前シテは綺麗な緑色系の装束。前ツレ夕霧は朱系のこれも美しい装束。
後シテは、幽霊になるので、白のこれまた素敵な装束。オペラグラスで覗いてみると、織りも綺麗で細かそう。
前ツレ夕霧の演者は、確か、九皐会の坂真太郎さん。高めの声で、良い声。
笛の杉信、格好いい。小鼓の鵜澤洋太郎さん、素晴らしい。
地頭の銕之丞先生。さすが。曲種が大人しいので、迫力が出せないのは仕方ない。
2度目の休憩を挟んで、仕舞4曲。
紀彰先生の『老松』は、ほれぼれ。毎度毎度、お稽古で拝見させている幸せを、再度かみしめる。
当たり前だけど、ご指導頂いているそのままの所作、型。
『雲林院』と『夕顔』は、ワタクシがお稽古で舞った曲。ちょっと型が違うのは、そうでしょう。
大槻文藏先生の『雲林院』は、人間国宝の名人が舞うと、こういうふうになるんだと感心。
銕之丞先生の『天鼓』。これも今仲間が習っている仕舞で、若干、型や位置が違うが、良いのでしょう。
それぞれのお家の代表選手が、ちょとでもお稽古している素人たちには良く解っている仕舞を舞うのは、どうしても比較評価されちゃうから、大変だろうなあ、と。
私的にはメインの能『松山天狗』。2回目。
追放された崇徳院の墓所がある、讃岐の松山を訪れるワキ西行法師。荒れ果てた墓所。弔うワキ西行法師。
これまで訪れたのは、天狗ばかりであった。
西行の弔いに感謝して、現れて、夜遊の舞楽を舞う後シテ。しかし、段々と都での扱いを思い出して、逆鱗に触れて、天下を掻き乱さんと叫ぶ。呼応して登場するツレ相模坊ら天狗たち。
共に、天空へと飛び去っていく。
成仏はしないのです。更に、天狗と共に、天下を掻き乱す決意。
三大怨霊。菅原道真、平将門、そして崇徳上皇。一番怨霊が強そうなのが、崇徳院。有名な和歌もあるが。
この点、前回拝見したときのブログではわからなかった。2023年7月。横浜能楽堂の「この人この1曲」シリーズで、シテは大槻文藏先生でした。地頭は銕之丞先生。
この曲は、観世流としては復曲で、節付けは梅若六郎(当時)ではなかったか。現行曲としている金剛流とは、別物。
前のブログと読み比べてください。
観世流、乃至梅若会で、謡本を出版して欲しいと思います。
今回は、紀彰先生が地頭で、本当に感動。
前場で、地謡の時、まず地頭の紀彰先生だけが謡いだして1句。続いて同吟となるが、そのお一人での謡い出しに驚き、その美声にビクッとして、それだけで、つい涙ぐむ。(注)
お能で、涙ぐむのは、久しぶり。
後場でも、荒々しいシーンでの、肩をふるわすような謡い方。感動的。
それでやるぞ、と思っていたら案の定附祝言で「千秋楽」。
ここでもウルッとしてしまう。このまえも、ご一緒に千秋楽で締めた会があったが、その時より、テンポが速い。宴会の時は、先生が地頭ではなく、素人が地頭するからかな。
涙が出てしまうお能。しばらく、感想を述べようとしても、グッときてしまって、言葉にならない。
今でも感動を呼び起こさせる。長~いブログになってしまった。
能が三番もあったけど、全然疲れず。実に楽しめた。
特に『松山天狗』。地頭の紀彰先生。
NHKの放映は、どこを取り上げるのだろうか。『松山天狗』だけでも95分だから。でも、これをメインに放送して欲しい、記録に残して欲しいと、心から願う。
(注)ところがこれは、偶然の産物であったらしい。偶然と錯誤の産物だったのかも知れませんが、謡本がなくて詞章がわからない一般客(ワタクシだけではなく)には、上記のように感動を生むモノであったことは事実です。