文春文庫・上下 2009年1月15日 第13刷

 単行本:平成9年(1997年)5月 文藝春秋刊

 

何のテレビ番組だったか、島原辺りが和蝋燭の産地で、その原料である櫨(はぜ)がよく取れるという。

そこで、どういう発想の流れか、藤沢周平の著作に、困窮した上杉藩の立て直しのために、和蝋燭を製造販売しようというのがあったなあ、と思い出して、書棚から取り出したのが、本書。

その本は、漆の木を大量に植えて、殖産するというモノであったが、読み出したときには、漆と櫨の違いがわかっていない。

その程度の記憶だった。

 

今から10数年前に読んだ本であるが、それほど、いい加減に読んでいたのでした。

 

上杉鷹山。彼が、養子となって上杉家を引き継ぎ、藩を建て直すために、同志の部下と計らって施策を遂行していこうとする。

それを阻む、抵抗勢力は、旧態依然の家格などを重んじる一派。

成功するやいなや、という小説。

田沼意次の時代。各藩は、一部を除いて貧窮に苦しむ。取り分けて、上杉のような歴史のあるお家。藩。

 

先代の藩主は、能楽を楽しみ、隠居御殿に能舞台を拵え、大金を投じて能興行をしたり、自分で習ったり、舞ったり。

歳を経てからは、囃子方を交えず、仕舞で楽しむ。

こんな部分は、まったく記憶から抜けていた。

能楽を趣味とし出したから、理解出来る様である。

 

琵琶湖の周辺、彦根城。井伊直弼の出身地。何故あのような地が、大老が出るような名家であったかは地政学上の要害地であったからであるが、彦根城には、江戸期の能舞台が残されていて、そこで、お能を拝見したことがある。

2018年9月17日。『景清』。シテは故野村四郎師。

素晴らしい能舞台で、素晴らしい役者であった。

このブログを始めた初期に記事が残っている。

お能に嵌まった端緒であった。

 

この本の下巻、「みなそれぞれに努めたのであった」という部分に、ここだけに、下線が引かれている。

 

1992年、藤沢周平64歳で本書が書き始められた。

1997年、69歳で没。

 

本書の内容は、ご存じだろうと思うし、解説など出来ないが、名著であることは明らか。

その本書を今時に読み直しての、雑感。

雑感を書かざるを得ないような、心境です。