2019年4月第1刷 朝日新聞出版発行 朝日文庫

 

何気なく、国立能楽堂で出張販売していた檜書店で購入。

著者の梅原猛氏も、お名前だけは知っているかなと言う程度であったが、「梅原猛の授業 能を観る」という題に惹かれただけ。

 

ところが、読んでみると、これは素晴らしい本だ。著者の梅原猛さんの博識ぶりに驚く。

1925年生まれ、京都大学文学部哲学科卒。仏教哲学者なのか。その人が、能を解説する。

 

2009年1月から2010年3月開催の、大槻能楽堂の能公演(観世流)に先立ってなされた、講演に加筆したモノ。

2012年4月に刊行された単行本を、上記の2019年に文庫化した。

 

全15回の公演の講演。15ヶ月かな。各公演の配役も記されている。

15回講義で取り上げられる能の曲は、次の15曲。

 

第1 『自然居士』ー観音の救済劇 作者:観阿弥

第2 『卒塔婆小町』ー恋の乗り移り 作者:観阿弥

第3 『高砂』ー仲の良き老夫婦  作者:世阿弥

第4 『清経』ー戦線離脱者の恋 作者:世阿弥

第5 『井筒』ー「待つ」ということ 作者:世阿弥

第6 『恋重荷』ーそも恋は・・・ 作者:世阿弥

第7 『蝉丸』ー捨てられた皇子 作者:不肖(筆者は世阿弥作と)

第8 『善知鳥』ー最果ての物語 作者:不肖

第9 『山姥』ー山また山に、山廻り 作者:不肖

第10 『弱法師』ー父と子の哀話 作者:観世元雅

第11 『杜若』ー歌舞の菩薩 作者:金春禅竹

第12 『定家』ー死とエロス 作者:金春禅竹

第13 『邯鄲』ー夢の夢の夢の世 作者:不肖

第14 『安宅』ー室町の弁慶物語 作者:観世信光

第15 『道成寺』ー乱拍子の変身 作者:不肖・『鐘巻』変えて復曲

 

各論は、読んで頂くのが一番だけど、大凡作成年代ごとに編集されている。

だから、観阿弥、世阿弥、元雅、善竹、信光のそれぞれの作風が解り、変化も知れるところとなる。

 

能を『観る』という表題だけど、実際の演能の評論ではなく、能の各曲の深~い研究・解説となっている。

小論文の集合体。

実に深い理解と知識が底にある。

本書を読むと、各曲を拝見する際の最高の解説にもなる。

これを聞いた上での演能は、大変だったのではないだろうか。

 

今後、挙げられた曲を拝見する場合、事前に読み込むべき書である。