10月12日(土) 国立能楽堂
解説 「鼓が結ぶ親子の縁」 宮本圭造(法政大学能楽研究所長)
狂言 『船渡聟』(和泉流 三宅家)
シテ(船頭)三宅右近 アド(聟)三宅右矩 小アド(船頭の妻)三宅近成
(休憩)
能 『天鼓』・弄鼓之楽 (観世流 梅若会・九皐会)
シテ(王伯 天鼓)梅若紀彰 ワキ(勅使)福王和幸 アイ(勅使の使者)高澤祐介
笛:一噌幸弘 小鼓:森澤勇司 大鼓:柿原弘和 太鼓:林雄一郎
地頭:山崎正道 面:前シテ「小牛尉」 後シテ「童子」
10月の紀彰先生おシテの2回目。高松での雨中薪能、半能『屋島』と仕舞『山姥』の興奮は、まだ覚めないまま、会場で奥様とお会いして、あの素晴らしさを復習する。
解説の法政大学能楽研究所所長は、初めてお話を聞く方。1971年生まれで、まだ若いけど、能楽関係を含む古典芸能の知識は豊富で、30分にわたって、メモを見ながらの「講義」になったが、退屈しなかった。
狂言『船渡聟』。
何だか、今回の三宅家は、力が入っている感じで、存外に面白かった。和泉流でも、お家が違うと内容がやや異なるのでした。
婿入りモノで、舅の失敗を笑うものだけど、舅とその妻との関係も面白かった。実際には妻に頭が上がらないのでした。
能『天鼓』。4回目。
小書き「弄鼓之楽」は初めて。前場が短くなった上に、後場の「楽」の舞が太鼓も入って華やかになる。
前場は、老父シテの語りが続き、やや退屈。揚げ幕の前でゆっくりと語るシーンは、まあ眠くなるでしょう。ワタクシは、紀彰先生から謡『天鼓』を習っていたし、どこをカットするかも事前に知っていたので、まあウトウトした程度。同行者の話によると、ちょっと詞章を誤ったらしいが、気づかず。
前場の終わり、帝から宝を貰って帰るのだが、その際の前シテ語り「あらありがたや候、さらば老人は私宅に帰り候べし」が、どうも全体の雰囲気に合わないと、紀彰先生はお稽古の時に話されていて、今回は、この語りはカット。パンフレットの詞章からも除かれている。
これは小書き「弄鼓之楽」とは関係ないと思うのだけど。
後場の、今度は若い青年後シテ天鼓君の霊が、楽しげに舞う「楽」とキリ舞は、秀逸を越えて、まさしく、天鼓の霊が乗り移っている。
どうしてあのような「楽」が間違えなく舞えるのか。足拍子が多数、鼓を打つシーンも。それが、お囃子ともピタリと合っている。
キリの舞は、仕舞で仲間が習ったモノだけど、全然動きが違う。いや、型は同じだけど、一つひとつの型がピタッと決まって、あの調子良さに溶け込んでいく。
申し訳ないような表現だけど、巧いなあ、と感激。
「楽」舞とキリ舞を続けて拝見し、涙が。舞を観ての涙なんて初めてかな。
弟子の欲目ではなくして、紀彰師は当代随一のシテ方だと思う。
こんな先生にお稽古して頂いて、良いんだろうか。いや、良いんだけど、名を汚さないようにしないと。
紀彩の会のメンバーも殆ど参加。毎回のお稽古で観ているのに、改めて感動してしまう。
今月3回目の紀彰師シテは、梅若定式の『菊慈童』。これも今から楽しみ。