3月20日(水・祝) 国立能楽堂
狂言 『花争』 (大蔵流 山本東次郎)
シテ(太郎冠者)山本東次郎 アド(主)山本則重
(休憩)
能 『鸚鵡小町』・杖三段ノ舞
シテ(小野小町)観世清和 ワキ(新大納言行家)宝生常三
笛:竹市学 小鼓:飯田清一 大鼓:亀井広忠
地頭:岡久広 副地頭:梅若紀彰
面:シテ「姥」
春分の日。晴れたり、荒れたり。風は冷たい。朝の起床時にも朝日が当たると気分は良い。
狂言『花争』初見。
わずか10分の小作品。もともとはシテは山本則俊さんだったけど、亡くなってすぐに、東次郎家では配役の交替を告知。
こういう素早い対応は、見所目線で宜しい。
則俊さんも良かったけど、東次郎さんが代役で、これもまた素晴らしい。
ストーリーは単純で、桜花のことを、「花」と呼ぶか、「桜」呼ぶか、太郎冠者(桜派)と主(花派)の言い争い。古歌や謡で勝負。
桜派が勝つわけはなく、太郎冠者の負け。
出てくる和歌は有名なモノばかり。謡は「小潮」。
能は、観世御宗家の『鸚鵡小町』、これも初見。
これで、小町モノ5曲すべて制覇。予習たっぷりで理解する。プログラムの村上湛さんの解説は、極めて精緻。これにプラスして、「謡曲集」上巻。
物着までの前半は、和歌の手法の「鸚鵡返し」によって、帝の御製歌を返す、100歳の小町の和歌の知識、能力。和歌の道、和歌の徳を、シテが吟詠する。
この吟詠が大変に難しく、なかなか聞き取れない。観世御宗家の声は、もう一つはっきりしないこともあって、眠くなってしまう。舞は訓練で上手にもなろうけど、謡の声は天性に寄るのだろう。
前場でも、地謡が始まると、あれまあびっくり、副地頭の紀彰先生のお声がよく聞こえて、それでお目々ぱっちりとなる。
地頭は梅若楼雪先生と従前は発表されていて、もうぜったい無理と解っていて、もともとの副地頭岡久広先生が地頭に、NO.3だった紀彰先生が副地頭となる順当な配役だけど、実質的には紀彰先生が地頭格。
この交替の発表は、当日。もっと早く解っていたのに。
また、ワキ方の宝生常三さんが、「雲の上は ありし昔に 変わらねど 見し玉だれの 内やゆかしき」と2度謡うのだけど、この謡が素晴らしい。ワキ方が、語りではなくて、謡うのですが、これが最高の声。
この歌の「内やゆかしき」を、小野小町が「内ぞゆかしき」に鸚鵡返しするのです。
物着後の後半、これは眠くならず。
地謡の中で、老女ノ舞のまえ、「大紋の袴の」の箇所、ヨワ吟で、極めて高音。”弱吟の甲(カン)ぐり”というらしいけど、こんな高音の謡は聞いたことが無い。
上音の上の、クリの音の、更に「甲(カン)」の音。勿論紀彰先生、素晴らしいお声で、バッチリ、狂わず。
聴き所でした。
老女ノ舞。ここはシテの観世御宗家、さすがの舞でした。ゆったりとして、長時間にわたる舞。
ワタシは、三段ノ意味が良く解らないが、勿論間違えるということなどなく、キチンと舞う。この舞と共に謡う謡の声は、前半の独吟と違って、心地よく聞こえた。
御宗家のプレッシャーは凄いのだろうね。見本を舞わねばならない。
下掛かり宝生流の華宝会の『鸚鵡小町』のポスターもあった。シテは観世喜正さん。やはり御宗家が口火を切って、段々と拡がっていくのかしら。
地頭が観世銕之丞先生なので、拝見すべき舞台かも知れない。6月9日(日)。国立能楽堂にて。
ワキ方の主催公演で、やはりあのワキ方の歌謡が目星なのでしょうか。