2月12日(月・祝) 川崎アルテリッカ映像館
監督:ウィン ヴェンダーズ
出演:ひらやま(トイレ掃除人) 役所広司
たかし(同僚) 柄本時生
にこ(ひらやまの姪) 中野有紗
あや(たかしと付き合う) ヤマダアオイ
けいこ(ひらやまの妹) 麻生祐未
まま 石川さゆり
友山(ままの前夫) 三浦友和
ホームレス 田中泯 その他
一言で。絶賛!素晴らしい!必見!
なので、ネタバレにならないように書く。
後記する、婆と孫とのトラブルが突発した後で、気持ちが治まらず、動揺しながら会場に向かう。
ここは、予約が出来なくて、指定席でもなく、その日の午前9時からチケットを販売して、そのチケットに番号が振ってあり、その番号順に入場する。
定員は113名だったかな、滅多に満員になることはないような、小規模名画館。
この日は、ゲットできたチケットが既に70番台後半。11時過ぎの時点。食事して戻ってみると、はや完売、満員。
本映画は連日満員が続いているようだった。
極めて、珍しい。
現時点で
第76回カンヌ国際映画祭主演男優賞、エキュメニカル審査員賞受賞
第96回米国アカデミー賞国際長編映画賞 日本代表
第36回東京国際映画祭 オープニング作品
というわけで、今後一般商業館でも上映されると予想するけど。
いくつかの感動ポイント。
なんといっても主役平山を演じる役所広司の名演。
トイレ掃除を仕事としていて、毎日、まったく同じ手順で起床して、顔を洗い、盆栽のような小さな木に霧吹きで水をかける。ぼろアパートを出て、玄関から外を見上げる。缶コーヒーを買って、通勤の軽自動車に乗り込み、現場に向かう、その途上で昔ながらのカセットテープをかける。朝日の空を見上げる。このときの実に楽しそうな、充実した顔。
毎日同じことを、同じ手順で繰り返し、しかも手を抜かず、トイレ掃除に全力を傾ける。
まるで、修行僧。禅僧が掃除を日課としているかのような爽やかさ。
お昼になると、決まった公園で簡単な食事。空を見上げると、木漏れ陽があって、それをポケットから出した旧式のカメラで撮影する。
その公園で会うホームレスが奇妙な踊りをしている。目が合うと会釈する。田中泯のダンス。
午後のトイレ掃除で、その日の日課をこなすと、開場仕立ての浴場に入る。いつものように、いつもの場所で身体を洗い、いつものように、鼻付近まで湯に浸かる。
その後、あの浅草の銀座線のオープンな飲み屋に向かう。飲むのもつまみも同じ。何も言わずに、いつもの通り。お疲れ様。
アパートに戻ると、中古で買ってきた文庫本を読みながら、寝る。
完全に仕合わせに満ちた一日。パーフェクトな日。
日々是好日。日日夜夜この時間。今しかない。今こそ、だ。
休日には、コインランドリーで洗濯。夕方から行きつけのカウンターバー。ママがいる。好きなんだけど、そんな無粋な恋だの愛だのは無関係。
そのママが、石川さゆりなのだけど、着物姿で「朝日の当たる家」を客のギター演奏で歌う。もうここまで来ると、70爺は泣きそうになる。羨ましくて。
ちょっとネタバレになっちゃったかな。まあ、このくらいは一般の宣伝でもあるし。
映画の中で流れる音楽が、これまた素晴らしい。70年代。
平山は教養人だ。読む本。聴く音楽。
そんな日常も、若干乱れることがある。
同僚のタカシの恋と失恋。
姪が家出してくる。妹に密かに連絡すると、ぼろアパートの前に運転手付きの高級車が止まっていて、妹が自分の子を迎えに来る。妹とは絶縁状態だけど、一体何があったんだろうか。姪を車に乗せた後、しっとりと兄妹で抱き合う。
ママの元夫が店に来ていて、密かに抱き合うのを目撃してしまう。缶ビールを買って、河原で飲む。元夫はガンで余命が少ないらしい。事情が分かって、影踏み遊びを、大の大人が2人でやる。
今度は今度、今は今。一期一会。草木国土悉皆成仏。
お能に通じる。禅に通じる。
絶賛します。必見です。高齢者になった今、どう生きるか。残日録。
話題変わって、朝の出来事。
映画に向かおうと家から道路に出たところ、どこからともなく婆の車が寄ってきて、孫に車に乗れという。話があるという。
時間が決まっているからと抵抗するも空しく、助手席に乗せられて、説教がダラダラと、とりとめも無く続いたようだ。孫からすれば理不尽な説教だったと。その状況を証拠写真に撮ろうと思ったら、孫を乗せたまま走り去る。
確か、駅まで連れて行くからといった言葉を信じ、爺は駅に向かうと、ひっそりと孫が後ろにいる。解放されたらしい。泣きそうな顔。
これで、娘も孫も、婆と絶縁だ。もう我が家には来ないだろう。こんな恐怖体験では大変。PTSD。トラウマ。
前夜に泊まった日は、婆は、夜にならないと帰ってこないので、油断していた。そこを襲われた。
物陰で、家を出るのを監視していたのだろうか。狙いすませていたのだろうか。