1月6日(土) 梅若能楽学院会館
能 『翁』・弓矢立会
翁:梅若長左衛門 梅若紀彰 角当行雄
千歳:山中迓晶 三番叟:野村万之丞 面箱:野村拳之介
笛:一噌隆之 小鼓:(頭取)曽和正博、(脇)住駒充彦、曽和伊喜夫
大鼓:柿原弘和 地頭:松山隆雄
(休憩)
狂言 『佐渡狐』(和泉流 野村萬家)
シテ(奏者)野村萬 アド(越後の百姓)河野佑紀 アド(佐渡の百姓)野村万蔵
仕舞
『老松』 小田切康陽
『東北』クセ 松山隆之
『高砂』キリ 角当直隆
『岩船』 川口晃平 地頭:山崎正道
連吟
『笠ノ段』 松山隆雄、他
『羽衣』 富田雅子 他女流
(休憩)
半能 『石橋』
シテ(獅子)梅若景英(英寿改め) ワキ(寂昭法師)殿田謙吉 アイ(清涼山の精)野村万蔵
笛:一噌隆晴 小鼓:大倉礼士郎 大鼓:亀井広忠 太鼓:金春惣右衛門
地頭:梅若紀彰
2024年新春の能楽事始め。初回。会場に到着すると、すでにゾクゾクと入場者。
本日は、満員売り切れだと。
入口には、一門の奥様方が並びご挨拶。
また、梅若景英(カゲフサと読む)お祝いの花スタンドがあちこちに。梅若楼雪師の孫である英寿君が、今日から影英と名乗り、奥伝の『石橋』で獅子を舞い、お披露目、お披きのお祝いなのだ。
安部洋子と安部昭恵の花スタンドもある。あの、悪夢のような安倍政権であったが、母上や妻なので、まあ無関係なのだ。
『翁』12回目くらいかな。が、「弓矢立会」という小書きは初見。翁が3人出てくるのだ。拝礼も3人揃って。
その3人の翁が、並んで、直面のママ相舞する。3人並ぶと、その力量と身体能力の差が一目瞭然となってしまう。だから、『翁』の緊張感がイマイチ出ない。
詞章も異なる。
小書き「弓矢立会」は、本来は、他流との競合らしいが、本日は、梅若家の中だけ。
千歳の山中迓晶。立派に舞ってました。
三番叟は狂言方。野村万之丞。しっかり舞っていて、途中の鈴ノ段に移行するときの面箱との遣り取りもしっかりと兄弟間で。
萬斎のを最近多く見てて、迫力が違うかな。鈴ノ段で、ちょこっと意識が飛ぶ。
こちらの三番叟は、お決まりのままで、黒式翁尉面。
狂言『佐渡狐』6回目かもだけど、これもお目出たい、上頭への年貢納めの時の話しなので、本日に相応しいのだろう。
シテ奏者の野村萬。94歳か。素晴らしい。『翁』の紀彰先生以外のお二方より、ご高齢なのに、しっかりしている。
仕舞4曲は、いずれも寿ぎの曲。梅若会の中堅どころ。私も舞った『東北』クセ、あんなにゆっくり舞うのが本来なんだ。
連吟『笠ノ段』は、梅若家にゆかりのある能『芦刈』の一部。楼雪先生が中心に謡う予定が、「体調不良のため出演見合わせ」とのガイド。長いねえ。復活できるか。
女流の連吟『羽衣』。よく知っている曲で、楽しみなのに、最前列に座っていて、寝てしまいました。ゴメンナサイ。全員女流だからかな、と言い訳。
本日のメイン、半能『石橋』、シテ梅若景英くん。
ワキの名ノリは同じ様。ワキ座に座ると、本来謡本にはないアイが登場する。面を付けている。聞いていると、清涼山の山の精だと。経過や石橋の様子などを語って、幕に入り退場。
いよいよ後場。
最初から一畳台が正先に出されている。2台が左右ではなくて前後に並べてある。広い台のイメージ。牡丹飾りがピンクと赤。
囃子方の「乱序」が始まると、豪勢、豪華、勇壮。堂々と後シテ獅子の登場だ。
もうその段階から、舞台に出てきても、地謡の先輩のお歴々が、じっと影英君を見つめる。取り分け、地頭で指導者であったと思われる紀彰師の鋭い目付き。地謡が、地頭が、こんな目付きで見つめるのは、今までないよねえ。
前後に並べた一畳台に飛び乗るときに、わずかに、一畳台が前方にずれ動く。2台は固定されていない。
ワタシたち紀彰師のお弟子たち見所も、お披きで、初の面着装なのを知っているので、ヒヤッとする。わずかな動き、ズレでも、体重が後ろにかかりすぎていたら、転んでしまう。
降りるときも、わずかに、右足が滑る。
途中動きが止まるとき、息がハアハアしていて、大変そう。
気にして凝視しているから心配なのです。でもでも、立派に、豪華に、勇壮に、頭を振り振りしたりして、舞っていました。成功です。
特筆すべきは、地謡の迫力。ツヨ吟で、大ノリで「獅子とらでんの舞楽のみぎんー」と全声音を立てて謡う。地頭の紀彰師の迫力につられて他の地謡も、全力な感じ。
最後の最後「獅子の座にこそ 直りけれ」が、常のように「けれ~」と伸ばすのではなく、急の止め。残り留めというのだそう。
それがピシッと決まって、感動的。
ワタクシは、謡本を持っていたこともあって、このキリの地謡、謡ってみたいなあ、と。
楼雪師の書かれた演目解説から引用。
「初代実が引退の時に舞ったのが「石橋」で、その頃には身体も衰えていた実は、作り物の中に座って獅子を演じたそう。そこで2回か3回、頭を振っただけなのに、舞台がパッと明るくなったと。このこともあり、私もいつか「石橋」を最後に舞って引退しようと決めている。そのときは一緒にやろうと、英寿とは約束した。」
いよいよ、楼雪師、引退時のことを考えたか。
英寿改め影英くんの、お披露目、お披きに向けて、梅若一門が最初から盛り上げていくような番組構成でした。
最初は、ややだらけ気味かなと思っていましたが、最後は、ピシッと決まって、満足した舞台になりました。
新年初舞台。地震や事故や、病気やら色々あった年始だけど、良い年を願う。