12月12日(土) 川崎能楽堂
狂言 『清水』 (和泉流 三宅狂言会)
シテ(太郎冠者)三宅近成 アド(主)三宅右矩
(換気休憩)
能 『夜討曽我』 (観世流梅若会)
シテ(曽我十郎祐成)梅若実 ツレ(曽我五郎時致)角当直隆 ツレ(団三郎)山崎正道 ツレ(鬼王)小田切康陽
ツレ(古屋五郎)山中迓晶 ツレ(五郎丸)川口晃平 立衆2名 アイ(伝令)金田弘明
笛:小野寺竜一 小鼓:田邊恭資 大鼓:大倉慶之助 地頭:誰だったかな
狂言『清水』も何度も。芸風は、第1部の墨塗と同じ。ストーリーは、もうわかっているが、清水に水を汲みに行くのが嫌な太郎冠者が、大切な桶を捨ててしまって、鬼に襲われたと嘘をつく。心配した主が、清水に行くと、鬼に扮した太郎冠者が現れて、取って咬もう、と。お許されませ。太郎冠者屋にもっと酒を飲ませよ、などと。でも、その鬼が太郎冠者だとバレてしまう。
取り分け、これというモノがなかったので、寝てしまった。
休憩時間も寝ていたら、能『夜討曽我』が始まって目が覚める。初めての曲。曾我兄弟の敵討ち事件物語。これは、実際の復讐の時の話し。2019年3月に『小袖曽我』を観ているが、こちらは復讐に向かう前の母親との別れ話。
今回の1部2部を通しての最大の期待は、人間国宝梅若実がシテを務めると言うこと。
登場は、橋掛かりから、杖を突きながら、摺り足など出来ずに、歩んできて、脇座の葛桶に座って、シテ十郎の語りが多い。
前場は、シテ曽我十郎と、ツレ弟の曽我五郎と、その従者であり一緒に戦いたいツレ団三郎、ツレ鬼王の4人の語り。なかでも、一番偉いのがシテ十郎で、梅若実が主人公という訳。ほとんど座りっぱなしなので、足腰の痛みがあっても大丈夫という役割。
ただ、長く続く語りの中で、あれっと思ったのが、地謡の一番近い方が、2度ほど、語りの詞章を教えている声が聞こえる。絶句した訳ではないので、あるいは事前に、忘れそうなところを助言するよう打ち合わせをしていたのかも知れない。
相変わらず良い声で、素晴らしいのですが、自信に溢れているという感じではなくて、表現は悪いけど、やっと、というイメージ。動作は、沢山のご経験の中で、滞りなく進むのだけど、何だか、ごそごそしたり、手紙を取り出す辺り、すっと、威厳を持った曽我十郎ではない。前場の終わりで退場する時に、手を振るのだけど、それも、威厳ではなくて、手を振りました、という型。片手に杖を持っているからね。やっと出番が終わりました、ね。
対して、ツレ曽我五郎の角当直隆さんは、しっかりと武将の雰囲気。これから敵討ちをするんだという気概、気迫。声も出ていたし、所作もきっぱりしていました。1部のシテ角当行雄さんのご子息。良いんじゃないでしょうか。
従者のツレ団三郎の山崎正道さんも、雰囲気も出ていたし、きっぱりした感じ。声も出ていました。
アイで、敵討ちの成功が語られる。
後場の始め、橋掛かりでのツレ曽我五郎の語りで、曽我十郎が討たれたことがわかって、後は、追っ手との、深夜の暗闇の中での戦い。暗闇の風は、解りましたよ。目付柱を探したり、衣被きで女装したツレ五郎丸を見破れない、様子。
ツレ古屋五郎はなんとか討つことが出来たが、ツレ五郎丸には、押さえ込まれてしまう。武器ではなくして、暗闇の中で、組み討ちの戦い。そして捕縛されてしまう。
これらの、ツレ曽我五郎と、ツレ五郎丸を演じた角当直隆さん、川口晃平さん、しっかりしていました。抽象的ではなくて、具体的な戦いという、現在能。若手が活躍するお能かな。
なんて、ド素人の感想ですから、あまり気にせずに。
1部2部を通じて、やっと、お能を観られた感じ。
梅若実先生には、先日、12月6日には、独吟と地頭を突然休まれて、体調が心配されている。謡は「当代一流」(能楽タイムズ)で、これは変わっていないので、一安心だけど、語りでの助言や、杖を突くハコビなどを観ると、天才能楽師の、老いというのを見せつけられてしまって、悲しくなる、我が身につまされる。
老成して、どこか身体を痛めてしまったシテ方は、こういう舞台であっても、それを演じ、観られたことが価値になるのでしょうけど、どうなんでしょう。悲しくなってくるのは、ド素人だからですか。そういう姿も、目に焼き付けておくべきなのでしょうね。
それとも、独吟や、地頭だけで、感動を与えた方がよろしいのか。どうしましょう、どうしましょう。