11月15日(日) 梅若能楽学院会館

能 『卒塔婆小町』・一度乃次第

  シテ(老女・小野小町)山崎正道 ワキ(高野山の僧)宝生欣哉 

  笛:松田弘之 小鼓:亀井忠雄 大鼓:成田達志 地頭:梅若実 地謡:梅若紀彰

女流仕舞3曲

『経政』クセ 伶衣野陽子 地頭:髙橋栄子

『夕顔』 富田雅子

『大江山』 三吉徹子

(休憩)

狂言 『萩大名』 (大藏流 山本東次郎家)

  シテ(大名)山本東次郎 アド(太郎冠者)山本凜太郎 アド(庭の亭主)山本則秀

仕舞3曲

『鵜之段』 松山隆雄 地頭:梅若紀彰

『野宮』 角当行雄

『山姥』 川口晃平

(休憩)

能 『融』・思立之出・酌之舞

  シテ(汐汲翁 源融之霊)梅若長左衛門 ワキ(旅僧)森常好 アイ(都六条辺の者)山本則重

  笛:杉信太朗 小鼓:鵜澤洋太郎 大鼓:安福光雄 太鼓:林雄一郎 地頭:松山隆雄

附き祝言 『千秋楽』

 

今年は、梅若会の定式能がすべて来年に延期になったが、別会能はできるだけ開催らしい。梅若能学院会館は、3月の別会能、紀彰先生シテの『檜垣』以来。市松模様の座席で、ロビーも何も飲食禁止で。換気のためか、暖房が効かず、寒い。

席は、紀彰先生にとって貰って、正面最前列。開始時点ではほぼ満席。こういう会では、お目当てが出てしまうと帰る方もいるのだね。正面の隣(と言っても市松だから一席おいた隣)の方も、能『卒塔婆小町』が終了したら帰ってしまった。お年を召した、着物姿の御婦人だったが。

で、ゆっくり、鑑賞できました。14日の国立は、全席で隣もいて、為か、集中しないで残念だったので、今回はどうか。

 

能『卒塔婆小町』は2度目。2019年5月に宝生流シテ大坪喜美雄で。このときは、大坪さんの個人的な会であって、有名人だとも知らずに飛び込んで、だがそれなりに良かったとブログにある。更に、2019年1月のNHKテレビ録画、シテ友枝昭世人間国宝のモノを、解説付きで観てきたので、予習はバッチリ。更に、梅若謡本まで購入して。

謡本では、ワキとワキヅレの次第、道行きと続くが、本舞台では、まずシテがゆっくり、ゆっくりと登場。シテの山崎正道さん、還暦を迎えての「披き」だって。朽ちた卒塔婆に見掛けた葛桶が舞台にあって、後見も付いておらず、上手に狙いを定めて腰掛けた。

ここまででも、山崎さん、良いんじゃないのですか。上記の2名人と比較できる能力は無いけど、運びとか橋掛かりの動作、葛桶の座り、良かったですよ。緊張感も出ていて、老女の雰囲気も出ている。集中してみられる。

ワキとの問答も、謡本を見ながらだとホントに良くわかる。節の部分も、梅若だし、良くわかる。思い出したらば、昔能を見始めた頃、謡本を開いている客がいて、何してんだろうくらいの気持ちだったが、すこしお稽古すると、特にその流派のだと、理解が進むのです。

一旦、去ろうとして、ワキに止められて戻ってきて、百歳になった小野小町だと明かして、突然、深草の少将が憑依して雰囲気が変わるところも、良かったです。

物着して、舞も梅若の舞で美しい。

地頭の梅若実師が素晴らしい。また隣に座る地謡の紀彰先生。一瞬、どちらが地頭かしらと、声の良さに戸惑う。節付けも、美しい。心地よい。

 

女流の仕舞。地謡の女流ばかりで、梅若は女流が多いのだろうか。悪くない。

 

狂言『萩大名』は何度も。東次郎さんは初めてかな。シテ大名の庭を愛でる目つき、顔つき、アド太郎冠者を頼りにする有様、さすが。庭に関心は持っているのに、表現ができないというか、自分独自の観点で、最後は「面目ない」となるが、その残念そうな、悲しそうなぞぶり。シテ大名の見栄張りとバレ。

七重八重、九重とこそ思いしに、十重咲きいづる、萩の花かな。最初は覚えられっこないと言いながらも、最後には、最後の5文字以外は覚えたので、上出来なんだけど、結局自分の歌ではないから、恥ずかしいのです。でも、大名の見栄がある。太郎冠者も、亭主も、ちょっともう少し優しくすれば、なんて思ってしまう舞台でした。

 

男性仕舞3曲。松山さん、角当さんは、年配の経験者だけど、みっともなくフラつかない。若手の川口さんは、飛び回ったり。年齢と経験に応じた仕舞で、よろしかったです。この舞台だけのために、どれほど練習するのかしら。

 

能『融』も2度目。2019年9月に、代々木果迢会浅見慈一さんで。

小書きの思立之出は、ワキの小書きらしく、幕の中から謡ながらワキが登場する。ワキ旅僧が京の六条の河原院跡について、由来とか、名所案内を前シテと。前にも書いたけど、東本願寺の別邸枳穀院のことらしく、中のお庭も含めて、場所の特定ができて、楽しい。名所案内も、東から、南見回りで、西へ。これも、情景が見える。取り分けて今回は謡本も見ながらだから、一層見える。

後場になって、後シテの源融の舞。特に、早舞は、テンポ良く、大きくて、楽しめる舞。

梅若長左衛門さん、最初の橋掛かりからの登場シーンでは、運びがイマイチで、摺り足になっていなくて、ゆっくりした動きには、腰が付いていかないというか。前屈みの姿勢の維持ができないようだ。でも、早舞になると、良かった。速い動きの方が楽なのかも知れない。

『融』も楽しいお能ですね。

お能は、動かない姿勢、ゆっくりしたハコビが命だと思うようになりました。この辺、梅若紀彰先生は上手だし、美しいし、決まっているし、格好いいよねえ。

 

番組にはなかったけど、附き祝言。『千秋楽』久しぶり。思わず謡いたくなった。謡えるもんだね。

 

梅若会の能会は出るようにしましょう。取り分けて、梅若紀彰先生がシテのお能は、逃さずに。