10月21日(水) 鎌倉能舞台
解説 「能の小道具・作り物」 中森貫太
狂言 『成上り』 (和泉流 野村万作家)
シテ(太郎冠者)野村萬斎 アド(主)飯田豪 アド(すっぱ)深田博治
(休憩)
能 『熊坂』 (観世流 九皐会)
シテ(僧 熊坂長範)中森健之介 ワキ(旅僧)野口琢弘 アイ(里人)石田淡朗
笛:一噌隆之 小鼓:幸正昭 大鼓:大藏慶之助 太鼓:小寺真佐人 地頭:中森貫太
鎌倉能舞台での能楽公演は、今年の1月以来、9ヶ月ぶり。このときの会のこともブログに書いてある。
土曜日では無く、週日であるが、定員が大分少なくなっての販売であったこともあってか、販売席はほぼ満席。地元の愛好家が待ってました、ということか。
見所も、やや改造されていて、正面席前列2列が座椅子であったのがなくなって、全部椅子席へ。あの座椅子わりと好きだったんだけど。
従前は基本的に全席自由席で、特に1000円出して希望すれば、どの席でも指定で買えるというシステムであったが、今回は、全席指定で、しかも、席をまったく選べない。コロナの新システムなので仕方ないでしょう。
今回は、中正面の最前列椅子席で、椅子が低めなので、座る時にあれっという感じ。
やや緊張感の中で、解説。相当準備してきたか、淀みなく。コロナでの中止も含めて、小道具について。
杖に2種類あって、盲目者用と、高齢者・幽霊用。長さが違う。後者は、杖の付き方が変わると。
数珠も、摺鳴らす用は、算盤みたいな形をしていると。
ふむ、色々あるんだね。舞台があるお家や、宗家筋などは全部揃えてあるのだろうけど。シテ全員が持っている訳では無いから、借りてくるのだろうね。宗家などへの謝礼金に含むと言うことか。単なる上納金では無いのですね。
狂言『成上り』、初めてだな。主人と嵐山のお堂に籠もっている間、太郎冠者も寝てしまって、預かった太刀を抱えていたのにすっぱに竹にすり替わられてしまう。その言い訳を、太刀が竹に「成り上がった」吉兆だとかなんとか。主は騙されないで、すっぱを捕らえ、太刀は取り戻すが、太郎冠者が無能で、上手に縛り上げられない。拍子で、主を捕まえてしまう。そのすきにすっぱは逃げ出す。許すまいぞ、許すまいぞ。
人寄せパンダ萬斎は、忙しいのに、鎌倉能舞台にはよく出演する。義理堅いのかな。友人関係なのだろうか。当たり前だけど、見所は、萬斎の芸を見に来る。しっかり芸をこなしていました。さすが、野村萬斎。
ここで、15分の休憩。鎌倉能舞台は、いつもは休憩無くして狂言と能を続けるが、換気のためと、舞台設定の必要上休憩を入れると。あそこはロビー、ホワイエが無いから、休憩があっても仕方ないのだけど、まあ、ゆっくりトイレにも行けるから良いんでしょう。
舞台設定上の必要とは、地謡関係。もともとやや狭い能舞台に4人の地謡、飛沫防止のために、地謡の前に、座って頭まで届く透明パネルを運んできた。成る程ね。
能『熊坂』は初めて。『烏帽子折』の後日談みたいな。『烏帽子折』で、牛若丸に散々にやっつけられて、部下共々殺された大盗賊熊坂長範の、幽霊が登場して、戦いを振り返りつつ、ワキ僧に回向を頼む、というストーリー。
前シテ僧が、直面のまま登場して、ワキ旅僧と話して実は・・、と。次いで、中入で、アイ里人とワキ旅僧の長い語り。ここは、語りばかりだから眠くなる。アイ里人の石田淡朗さんは、英国留学中と聞いていたけど、もうずっと日本にいて、狂言一筋で行くのだろうか。端正で綺麗な顔立ちで人気が出そうだし、語りもきちんとできています。野村万作家の若手ホープになりそう。
後場は、激しいシテの動き。熊坂の面を付けて、大きな発声で。床几に座りながらも長刀を揺らさずに抱える。立ち上がってからは、大きく振り回す。大きく飛んで、膝をつく、飛んで回る。長刀を抱えながら。これは、若手のシテ方じゃないとできないですね。面が揺れるほどの大きな声で。しかも乱れなく。
中森健之介さん、成長したなあ、と思います。
ワキ旅僧の野口琢弘さんも、若手で、大きな声で。
狭い舞台上でのお囃子に負けないように、謡えるのは、立派だなあ、大変だなあ、疲れそう、と。地謡も、ツヨ吟で思いっきり。気持ちよさそう、ボクもできれば謡いたい。
狭いので、後見が舞台上に常駐できない。まず、後場でシテの衣装がまくれ上がってしまっても、そのまま。更に、長刀にからんでしまって、見所の方がハラハラ。地謡の端の方が、幕の方を覗き込んで何とかしろ、という仕草。できないので、仕方なく地謡から立ち上がって、直しに行くかというところで、後見が出てきて長刀を受け取った時に、衣装も直す。
後見ていうのは大切なんだね。先日の野村四郎さんシテの『善知鳥』の時もね。
連続して、後見の大切さがわかった。と同時に、何かあった時にも、最終的には後見が何とかしてくれるから、シテ方は慌てること無く、きっちりと演ずる、舞うべき何だと。心して発表会へ。