7月23日(木・祝) 国立能楽堂

 

解説 川口晃平 (観世流 梅若会 シテ方)

狂言 『棒縛』 (大藏流 善竹家・大藏家)

  シテ(次郎冠者)善竹大二郎 アド(主)善竹十郎 アド(太郎冠者)大藏教義

(休憩)

能 『土蜘蛛』 (観世流 梅若会)

  シテ(前・僧 後・土蜘蛛の精)小田切康陽 ツレ(頼光)角当直隆 トモ(太刀持)山崎友正

  ツレ(胡蝶)小田切亮磨 ワキ(独武者)野口能弘 アイ(所の者)野島信仁

  笛:栗林祐輔 小鼓:田邊恭資 大鼓:亀井洋佑 太鼓:大川典良 地頭:馬野正基

  面:前シテは直面 後シテは紹介ないが顰か、ツレは小面のはず

 

本来の予定は、オリンピックがらみで多数の外国人が来日する中で、主として外国人や、上京する日本人相手に、コンパクトに日本の古典文化を紹介する企画だったが、こういう情勢で、日本人ばかりだけど、6カ国語を用意した液晶パネルもあって、解説も、訳す関係から原稿をしっかりと。

 

解説者の川口さんは、梅若会の若手で、横浜能楽堂の教室発表会の時に、浴衣・袴を着付けて頂いたことがあって、親近感がある。3月22日(日)の「3人の会」にも、行った。これが、コロナ前の最後の能会だった。

なかなかおしゃべりは得意そうで、『土蜘蛛』に出てくる「膝丸」という太刀は、その中で「蜘蛛切」と改名されるが、なんでも、その後も改名を繰り返して、源義経に伝わったり、戦国時代も生き残って、現存は箱根神社に「薄緑」として現存しているらしい。面白い。お能を知ると、日本史の知識ももらえて、楽しい。

 

『棒縛』、何度目でしょうか。今年の4月30日に、善竹富太郎さんがコロナで死去して、だからなのか、アド太郎冠者が大藏家。ま、善竹家と大藏家は近いから。企画段階の配役はわからない。

棒などで縛られた太郎冠者、次郎冠者が何とかして酒を飲んで、謡や舞に打ち興じていると、主が帰ってきてしまうというお話し。その酒を苦労して飲む様や、宴会の様子が楽しげに演じられる。謡も『竹生島』の一部、「兎もオ波を奔るかア」も出てきてうれしくなる。

主が帰ってくると、杯に主の影が映るのだが、二人は主の「執念」だと笑い飛ばす。そんなシーンあったかな。更に、主に怒られると、太郎冠者は恐れ入って退出するが、次郎冠者は逆ギレして、主を追い出してしまう。そんなんだっけ。

細かいところは、流派やお家によっても違う、またその時の出演者の工夫もあるのかも知れない。

面白かった。

 

『土蜘蛛』、3回目。2017年7月はシテ梅若玄祥(当時)、2018年12月はシテ坂真太郎(観世流)だった。今回は、観世流の梅若会がシテ。表記が『土蜘』ではなくて、『土蜘蛛』だったり、地頭が銕仙会の馬野さんだったりして、観世流の中でも、謡本が梅若かどうか事前にはわからなかった。

が、始まると、詞章は梅若のモノで、節付けや謡い方も梅若流で、これはとにかくお稽古で収得したと思っている謡だから、パネルを見なくてもほぼ同時完璧に謡えるし、プロの謡い方や、スピード、迫力のかけ方も良く解って、とても為になったし、勉強にもなったし、楽しかった。

昔は、能会は、全くの素人さん相手ではなくて、お稽古をしている素人さんが、師匠筋・流派の会を観る、ということだったらしいが、さもありなん、これは楽しいし、更に更に、お稽古したくなるという寸法だと良く解る。

お能を鑑賞している時に、詞章が良く聞き取れたり、意味が解るだけでも十分に楽しいのだが、お稽古して習った曲が上演されると、鑑賞が十倍にも楽しい。観て良し、やって良しの演芸がお能。謡と仕舞だけでも十分だけど、お能を1曲演じてみると、更に更に、楽しいのかも。秀吉、家康以来の伝統。

今回の千筋の糸は、前場が2個、後場が12個の、合計14個でした。ただ、一巻きが大きい気がしている。後場での千筋の糸に、ワキ独武者が足を絡めてしまって、尻餅をついてしまったのは、大したミスではない。

それよりも、ツレ胡蝶がゆったりと謡う前場、後場の勇壮でその上げ調子、力強い謡い方に、なるほどと。こう謡うんだと。

 

全くのド素人からお能を観だしてから約2年、お稽古初めて1年で、ここまで成長するんだと、我が高等遊民、良いんじゃないですか。

さらに、お稽古に力が入るというモノ。10月末に、師匠の梅若紀彰師がシテで『紅葉狩』をやるのだけど、紀彩の会でのお稽古は、急遽、『紅葉狩』にしようかなと。楽しいぞ、きっと。