なんとなく録画しておいた映画。6月上旬かな。NHKBSプレミアムのモノ。高倉健が出るって書いてあったし、なんとなく聞いたことがある題名だったし。

ただ、録画してからもしばらく観なかったけど、このたび、観た。素晴らしい。名画でした。

 

原作:水上勉

監督:内田吐夢(よく知らない・・)

出演 犬飼多吉(こと、樽見京一郎):三國連太郎

    函館署の刑事(弓坂吉太郎:伴淳三郎

    娼婦千鶴(こと、杉戸八重):左幸子

    敦賀の刑事(味村):高倉健

 

1964年製作。白黒。

戦争直後の極貧困時代、食うモノに困る時代、昭和22年9月、青函連絡船遭難に並行して、岩内での殺人放火事件。その犯人の一味(か、巻き込まれただけか)の犬飼多吉が、命からがら下北半島に渡って、大金を手にして、大湊で、妓楼に上がって、杉戸八重に会って、手にして大金の一部を渡す。貧困の中で、花街に身を沈めた八重に同情したか。

時を経て、東京でまだ青線地点で働く八重(名前は千鶴)。真鶴で成功して、篤志家となった樽見京一郎(犬飼多吉)の新聞写真を手に、お礼に(か?)真鶴を訪ねるが、過去を消したい樽見京一郎に、殺されてしまう。

それからの、犯人捜しと動機探しの推理サスペンス。

だが、主題はそんなところにはなくて、あの時代の、超、超極貧な生活とその苦しみ。その中でも生き抜く。

まさしく、函館と下北間が飢餓を分ける海峡、生死を分ける海峡。消したい過去と現在の成功との境の海峡。函館側の事件と、本土側の生活。

やはり、大作家というか感覚のよろしい水上勉。

俳優陣も素晴らしい。浜ちゃんの三國連太郎の演技。喜劇役者のイメージしかなかった伴じゅんこと伴淳三郎の真剣さ。高倉健は、真面目。左幸子は、あの時代を生き抜いたオンナの執念と純情さをエキセントリックに演ずる。

脇役陣も、ちゃんと。

 

1964年というと、僕はまだ小学生。東京オリンピックの年。華やかな世界の影では、まだ戦後の貧困も潜んでいた。忘れてはならないが、忘れられない時代。60年安保闘争の後。名古屋に住んでいたけど、今から思い出しても貧困だった。それでも、学徒出陣した父は、生還して、まあ一流企業で働いてはいた。重役ではなかったけど。

記憶が蘇る。

 

言わずもがな、名画でした。

高等遊民にならなければ、多分観なかった映画。新しい発見に戸惑うと共に、喜びがある。