3月22日(日) 国立能楽堂
仕舞 『春日龍神』 谷本悠太郎 地頭:観世淳夫
能 『清経』・恋之音取 (観世流 銕仙会)
シテ(平清経)谷本健吾 ツレ(清経ノ妻)鵜澤光 ワキ(淡津三郎)森常好
笛:杉信太朗(一噌隆之から交代) 小鼓:観世新九郎 大鼓:亀井広忠 地頭:観世銕之丞
狂言 『樋の酒』 (大蔵流 山本東次郎家と茂山茂家)
シテ(太郎冠者)山本則秀 ツレ(次郎冠者)茂山逸平 アド(主)山本則重
(休憩)
能 『松風』 (観世流 梅若会)
シテ(松風)川口晃平 ツレ(村雨)山中迓晶 ワキ(旅僧)殿田謙吉 アイ(浦人)山本則秀
笛:松田弘之 小鼓:鵜澤洋太郎 大鼓:亀井忠雄 地頭:梅若実(地謡に梅若紀彰)
(休憩)
仕舞 『弱法師』 観世清和
『実盛』 梅若紀彰(梅若実から交代)
『女郎花』 観世銕之丞
地頭:観世喜正(梅若紀彰から交代)
能 『船弁慶』・重前後之替 (観世流 宗家)
シテ(静 知盛ノ怨霊)坂口貴信 子方(判官源義経)谷本康介 ワキ(武蔵坊弁慶)宝生欣哉
ワキツレ(従者)大日方寛 アイ(船頭)山本則重
笛:杉信太朗 小鼓:飯田清一 大鼓:亀井広忠 太鼓:林雄一郎
附き祝言 『千秋楽』
新型コロナウイルス感染拡大防止策としては、入場時のアルコール除菌と、ホールの換気によって、開催。快哉。これで良いのだ。
「三人の会」は、観世流の、それぞれお家系譜そのものではない、比較的若手・中堅の三人が集まる会で平成28年発足。ただ、それぞれのお家の全面的協力を得ていて、第5回記念もあってお家のトップも出演。囃子方も中堅クラスが登場。ベテランも出るけど。まあ、将来の能楽界を、お家以外で支えていく部隊。今後も期待できる。
スタートの仕舞は、三人のうちの一人谷本健吾長男悠太郎君の仕舞。平成19年生まれだから、まだ13歳。若々しい、だけど幼くはないきっちりした仕舞で、感心しました。
能『清経』は2回目。2019年7月に能楽協会の納涼能で観ている。その時のシテは金剛流金剛永謹。どうやら寝てしまったらしく、詳しい記述はブログにない。
が、ストーリーは覚えていた。源平合戦で追い詰められた平清経は、九州豊前の柳ヶ浦で入水自殺。ワキ家臣淡津三郎が遺髪を持って都の妻へ。が、自殺した清経を妻は恨む。そこに登場したシテ清経ノ幽霊は、いきさつを語り笛を吹きつつ入水するが修羅道に悩む。平清経は、武人ではなくて、もはや文人なのです。
小書「恋之音取」で、シテ清経が登場する場面で、笛方杉新太朗が、地謡座まで進み出て、幕を向いて、笛を吹く。吹いて、止んで、吹いて、止んで。なかなかシテ清経は幕から登場しない。やっと出てきても、橋掛かりをゆっくりとゆっくりと歩む。その間、笛の音と中止。この緊迫感が堪らない。笛方杉信太朗は、中堅でピカイチの笛方。一噌隆之から交代しての笛方。立派に、情感たっぷり、重い習いの笛方を十分に務める。シテ方を喰ってしまったほど。
いやいや、シテ清経の舞も良かったですよ。声が出ているのが最高。45歳。
シテツレは鵜澤光という女流。声がやや高かったが、妻役だし、地謡と混ざらないから、音程に違和感はない。動きは、一見男子と変わらず、しっかりした足取り。小柄だから、面とも合って、良いんじゃないかな。
狂言『樋の酒』は何回か観ているけど、今回は、同じ大蔵流で有りながら、山本東次郎家の太郎冠者に、次郎冠者は茂山逸平という組み合わせ。太郎冠者は、常は米蔵に押し込まれるが今回は軽物蔵。次郎冠者は主には下戸と思わせていて実は大上戸という設定。舞台と橋掛かりに樋を渡すのではなく、舞台上の、隣り合う別蔵との設定で、樋を渡して飲み合う。謡合う。舞合う。そこに主が帰ってきて、面目ない、許されませ、許されませは、同じ。
こういう別家の共演と、新しい演出で、面白かった。決まったやり口ではないから、練習したんだろうね。
面白いんじゃないかな。
能『松風』も2回目。2019年10月に代々木果迢会で。在原行平の須磨での、海人の現地妻。別れと懐旧。まあ捨てられたというか、その当時は当たり前。身分違いもあるし。行平の残した烏帽子を、舞台上で物着して、舞台正先の松を行平と見取ってしまって、狂うシテ松風。そのシテ松風の中ノ舞、破ノ舞。素晴らしい。
今回は、梅若なので、梅若本を入手して、追いながら鑑賞。そうだよね、こういう節回しだ、と納得して、気持ちよく。
地頭の実玄祥師と地頭補助の紀彰師の声が素晴らしく、地謡を良く纏める。さすが・・
シテ川口晃平さんも、声がよく出ていて、良いなあ。
ただ、シテツレ村雨の山中迓晶さんは、立ち姿がイマイチ。ただ突っ立っているだけ、大地に足が根付いていない。シテ川口さんと並んで立つが、こちらは脇正面から観ているから、立ち姿のどっしり度合いがまるで違う。能の基本。もっと紀彰師に教わりましょう。
仕舞3曲。それぞれのお家のトップが舞う。最初は、観世宗家清和。上手なんだけど、ぐらっとは来ないなあ。
次いで、実玄祥師に替わって、紀彰師。紀彰師の仕舞は、実は初めてかと思ったが、思い出せば、去年の8月、教室の発表会で『殺傷石』を。ただ、よく覚えていない。
紀彰師の仕舞は、まあ、素晴らしいというか感動モノ。教わったとおりの型の動きを、ああいう風に優雅に、美しく舞えるのですね。声も良いし。「左右」なんて、ホントに格好いい。例示すると、「左右」で左を向く時、右手の扇を、紀彰師は45度くらいの角度で斜めにする。それを平にする舞もあるが、斜めの方が格好いいでしょう。
今度、お稽古で、『実盛』を教えて貰おうかな。
3番目の観世銕之丞さんも、素晴らしい。宗家だからと言って上手な訳ではない。
この仕舞に、地頭で、九皐会の観世喜正が臨時で登場。プログラムでは地頭になっていた紀彰師が、仕舞を実玄祥師に替わって舞ったので、急遽か、九皐会の実力トップが地頭に。この年代が良いんですよ。
3家トップの仕舞に、実玄祥師に替わって紀彰師が舞った意味は、大きなモノがあるんじゃないかな。
能『船弁慶』は3回目。2018年11月に横浜かもんやま能、シテ喜多流粟谷能夫。2019年7月に東次郎家伝12番で、シテ梅若紀彰、アイ船頭山本東次郎で。
ユーチューブで何回も観ているから、まあ、一番身近なお能か。前回の東次郎12番の時は、東次郎さんのアイ船頭を中心に観ていた。勿論我が師紀彰師のシテも観ていたが、あまり前シテの静の舞が、シーンとして浮かんでこず、あれまあ、と我が記憶の無さに呆然。ブログを読み返して思い出したけど。良かったよね。
アイ船頭は、同じ東次郎家だけど、動きがやはり違っている。前回はこのアイ船頭が中心の小書き附きだったが、今回は、シテ中心。
今回の前シテ静の舞は、じっくり観ました。美しいです。後シテの長刀の勇壮な舞は、やはり、楽しめる。戦いのお能は解りやすい。
子方は、これも谷本さんのお子さんだと思うが、5から6歳かな。10歳はいかないだろうな、しっかり喋って、太刀合わせもしっかりと。可愛い。
ここでも、笛方が杉信太朗、大鼓方が亀井広忠。お疲れ様です。お二人とも好きなんです。太鼓も良いですね。
地頭は観世清和だけど、ちょっと狂ったかな。纏めきれないのかな。宗家だからできるという訳ではない。
附き祝言。『千秋楽』。良いねえ。前にも『千秋楽』を聞いたけど、今回は、観世流で、習ったのと同じ。ここでも、うるっと。
やはり、お能や謡、仕舞は、お稽古と並んで、並行して、良い良い、となる。
高等遊民、止められない。
梅若会、良いなあ。
丁度45歳くらいの三人のシテ方。ちょっと歳は一回り以上上だけど、紀彰師。中間の観世喜正。京都の片山九郎右衛門。観世を引っ張っていく方たち。能楽界全体を引っ張っていく。来年も「三人の会」あれば、行きます。