2月16日(日) 国立能楽堂

能『翁』 (喜多流)

  翁:友枝昭世 三番叟:野村万蔵 千歳:野村又三郎

  笛:一噌隆之 小鼓:鵜澤洋太郎、飯冨孔明、田邊恭志 大鼓:柿原弘和、太鼓:桜井均

能『竹生島』 (喜多流)

  シテ(漁翁 龍神)香川靖嗣 ツレ(海人 弁財天)佐々木多門 ワキ(大臣)福王和幸 

  アイ(竹生島明神社人)奥津健太郎 地頭:粟谷能夫

  笛:一噌隆之 小鼓:鵜澤洋太郎 大鼓:柿原弘和、太鼓:桜井均

狂言『鍋八撥』 (和泉流 野村萬家)

  シテ(浅鍋売)野村萬 アド(羯鼓売)野村万之丞 アド(目代)野口隆行

(休憩)

能『盛久』・夢中之出 (観世流 銕仙会)

  シテ(平盛久)大槻文藏 ワキ(土屋三郎)宝生欣哉 アイ(下僕)善竹富太郎

  笛:竹市学 小鼓:観世新九郎 大鼓:亀井広忠 地頭:観世銕之丞

狂言『寝音曲』 (大藏流)

  シテ(主)茂山忠三郎 アド(太郎冠者)善竹十郎

 

いわゆる正式な五番立ての「式能」、去年はこの企画が満席で取れず、代わりにと言うわけではないけど、1月6日に観世会の式能に参加して、観世の人々の風情など見てきたが、今年は、早くから発見していて、即に申し込んでいた。

 

能楽協会は、戦後設立された玄人の能楽師によって構成される。シテ方五流、ワキ方三流、狂言方二流、笛方三流、小鼓方四流、大鼓方五流、太鼓方二流を網羅する、全国唯一の業界団体だそう。

しれが、毎年催す式能で、今回で第60回らしい。第1回は、昭和36年(1961年)旧水道橋宝生能楽堂だったらしい。

今は、ほとんど五番立ては行われず、この式能も、第一部と第二部に分かれて、チケットが販売される。通しで買う人が多いとは思うけど。

厳島神社の桃花祭も五番立てかな。シテ方五流は集まらない。

第一部は、午前10時開演で、朝早いのだ。しかも、休憩時間や第二部との間隔も、観客の昼食のことをあまり考えていない。まあ、時間的に十分な休憩時間を取ることは難しいだろうが。昔、というか江戸時代は、お昼どうしていたのだろうか。狂言の時間などに、食しながら観ていたのかなあ。

 

『翁』4回目。なんだかんだ、観ているねえ。今年1月11日の、シテ翁梅若紀彰師の印象が強すぎて。あのときは、登場からウルウルだったもんな。今回は、人間国宝友枝昭世がシテ翁。やはり荘厳な雰囲気を十分出して登場。

喜多流だから、面持ちは居なくて、千歳が面箱を持つ。その千歳、シテ喜多流だから狂言方が受け持ち、今回は、野村又三郎。名門ではあるけど、まだ若いし、あまり売れては居ない。しかも同門者に上手がおらず、野村又三郎家の狂言はあまり誉められない。確か前に、又三郎が独り狂言をやっていた。

今回の千歳。又三郎、立派にやっていました。

出色は、三番叟の野村万蔵。野村萬斎、山本東次郎、山本泰太郎も観たけど、素晴らしい舞でありました。

梅若の時は、千歳は若手のシテ方。これも準備してよくやっていた。三番三があまりよく覚えていないが、山本則秀だった。

 

『竹生島』初めてだけど、謡は全曲通してお稽古済なので、既視感はある。能の進行につれて謡の詞章も口に出てくる。でも、流派が違うからやや謡詞章が異なっているし、ここはもっと盛り上がるんじゃあ、と感じて、純粋に楽しめない。

いや、喜多流が悪いのか。じゃないような。シテ方が下手なんじゃないのか。ツレだけど天女ノ舞も、心に響かなかったもの。シテの舞働きも、迫力不足かなあ。

よく解っている曲で、楽しみにしていただけに、残念。

 

『鍋八撥』、2回目かな。羯鼓売りと浅鍋売りが、お目出たい初市の一番乗りを争って、様々な勝負をするお話。前回と勝負の対象が違っていたかな。今回は、商品の由来、棒ふり、羯鼓の舞、相舞。

羯鼓売りが若者に対して、浅鍋売りは老人。だから勝負事にはついて行けない。その老人の自負と苛立ち、悲しさを、人間国宝野村萬が十分に見せる。自身既に90歳を超えているはずで、それでも、相舞での物真似は、ホントは上手にできるのにできない芸で、回転など、できない設定なのだけども、それでも90歳でよくできるねえ。

そういう伏線が沢山あるから、また心底理解できる芸だから、最後に鍋が割れてしまっても「数が増えてめでたい」という負け惜しみというか、言い逃れというか、悲しさと悔しさ、諦めがよく表現される。

素晴らしい。

 

『盛久』初めて。小書き付きで、京から鎌倉までの道行きが省略されている。いきなり直面のシテ盛久が舞台中央を過ぎて脇座辺りまで出てきて、床几に座るからちょっと驚く。顔を見ると、人間国宝大槻文藏だよねって。

物語は、平家滅亡後に捕らえられた平家方の武将盛久が、鎌倉由比ヶ浜で打ち首になるところを、清水寺信仰の観音経の御利益によって、太刀が折れ(舞台上は太刀が飛んでしまって)助かる、これを頼朝も許して、領地も与えるという話。

平家滅亡後の平家方の有名武将で生き残ったのは、この盛久と盛次に、悪七兵衛景清。こういう人のお話、負け修羅というのかしら、お能でも好きだよね。

お能自体は、折角人間国宝がシテ方なのに、前半は謡と語りばかりで、大した働きもしない。間狂言中に、烏帽子直垂に着替えて(物着)、登場はしない頼朝との遣り取りと、男舞。ここで、勇壮な舞を見せて、人間国宝の価値を示す。

 

『寝音曲』何回目かな。命ぜられてはやりたくない謡と仕舞を、面倒なことを言ってイヤイヤやるが、その内興に乗って楽しむお話。

狂言の出来としては、特筆することはない。まあ、そうね、で、寝た。

第一部も終わりになると、疲労もあった。この頃は、五番立ては、来年は無理と。