1月30日(木) 国立能楽堂
おはなし 野村万作 聞き手三浦裕子
狂言 『痩松』 (和泉流 野村万作家)
シテ(山賊)石田幸雄 アド(野村萬斎)
(休憩)
能 『二人静』 (観世流 武田家)
シテ(女、静御前の霊)武田尚浩 ツレ(菜摘女)松木千俊 ワキ(神主)江崎欽次郎 アイ(従者)中村修一
笛:杉信太郎 小鼓:鳥山直也 大鼓:河村大 地頭:武田志房
面:シテ「若女」(洞白・作) ツレ「小面」
おはなしは、大学の先生は下手で行けない。聞き手というのに、ちゃんと聞かずに、自分の感想やそれがなぜ出るかをしゃべる。インタビューなんだから。万作の新著「狂言を生きる」からの話だった。この本は読んでいるし、一部名言をブログにも書いているけど、万作の話しは面白かっただけに、勿体ない。本の中の話のきっかけだけ作れば良いんだ。
狂言『痩松』初めて。万作がその前に話して、楽屋に控えているんだから、やりにくいだろうな。物語は、シテ山賊が不運な場所という隠語の痩松で隠れていて居ると、通りかかった一人のアド女に対して、長刀で威して、実家に持っていくつもりだという小袖や帯を取り上げる。大収穫だ。ところが、ドジなことに、アド女に長刀を盗られて、逆に威されて、取り上げたモノ以上に、脇差しなども盗られてしまうと言う、アホ山賊のお話で、おかしい。
萬斎の声は、高いね。女向きに高くしているのだろうか。師父万作の前で、教えられているとおりにしっかり演ずる。
久しぶりに、狂言で寝なかった。
能『二人静』、初めてだけど、楽しみにしていた。本やらユーチューブやらで有名だし、しっかり予習もできていた。
物語は単純で、ツレ菜摘女に、前シテ女が、幕の内から何やら恐ろしいことを話す、罪業が深いので経を唱えさせよ、疑うならば取り憑くぞ。
ビックリしたツレ菜摘女がワキ神主に報告するが、その内、疑い的なことを言うと、突然憑依して、疑うんじゃない、我は判官に使えるものである、と話し出す。今度は驚いたワキ神主が、憑依されたツレ菜摘女に、静御前か、そうならば舞が上手だろう、憑依されたツレ菜摘女が昔収めた舞の装束があるだろうというと、実際に宝蔵にある。
で、これに物着する。この間の囃子方のあしらいが面白い。優雅。笛方の杉信太郎、どんどん上手になっていく。
憑依されたツレ菜摘女が舞出すと、後シテ静御前の霊も登場して、二人の静御前が相舞う。
ここで、小書き「立出之一声」がつくと、後シテは、葛桶に座って憑依されたツレ菜摘女の舞を見ているという設定。二人が息を合わせて舞うのはとても難しいから、こういう小書きができたらしい。ユーチューブで観世喜之シテ、観世喜正ツレの『二人静』があるが、この小書きの演出。結構な名人の親子なのに、やはり合わせるのは難しいのか。
ところが、今回は、小書きなしで、相、舞う。シテ武田尚浩は1957年生まれ。ツレ松木千俊は1962年生まれ。昔から切磋琢磨してきたのだろうか。勇気のある演出。
二人の面に特色があって、シテは「若女」だけど、時代が付いたモノで一見「増」のようにも見える。ツレは新しめな「小面」。二人が交差する舞もあり、右に行ったり左に行ったり、主として面の違いで識別した。
やはり、ぴったり合うと言うことはなくて、拍を踏むタイミングはピタリだが、左右とか、開きとか、上げ扇だとか、ずれる。仕方ないと思う。何しろ、並んで舞っているし、面を着けていれば隣は見えないのです。
「しづやしづ」から続く、かなりの時間の「序ノ舞」、見どころだ。美しい相舞の序ノ舞。
「しづやしづ、賤の苧環繰り返し、昔を今になす由もがな」。古歌も身に染みる。
やはり、お能は良いなあ。
留め拍はシテだけ。静かに橋掛かりを退場する、ツレ、シテの順に。感動してしまった。余韻に浸って。