1月11日(土) 梅若能楽学院会館
『翁』 シテ(翁)梅若紀彰 ツレ(千歳)山中景晶 アイ(面箱持)山本凜太郎 アイ(三番三)山本則秀
笛:藤田貴寬 小鼓:曽和伊喜夫・森貴史・住駒充彦 大鼓:大倉慶之助 地頭:松山隆雄
(休憩)
新年小謡 『実』 出演者一同
『宝の槌』 シテ(太郎冠者)山本東次郎 アド(主)山本凜太郎 アド(すっぱ)山本則孝
(休憩)
『国栖』 白頭 天地之声
シテ(老人、蔵王権現)山崎正道 前ツレ(姥)角当直隆 後ツレ(天女)山中迓晶 子方(浄見原天皇)角当美織
ワキ(臣下)森常好 アイ(追手)山本凜太郎、若松隆
笛:栗林祐輔 小鼓:田邊恭資 大鼓:安福光雄 太鼓:林雄一郎 地頭:角当行雄
我が師梅若紀彰のシテ初。『翁』は3回目だけど、今日ほどシテの力量の差を感じたことはない。面箱持ちを先頭にして、シテ翁、ツレ千歳などの順に橋掛かりから直面で登場してくるが、その時の緊張感と圧倒的な舞台支配力に、すでにしてウルウル。ドキドキしてくる。シテ翁が舞台中央で正面を向いて深く、深くお辞儀をするのも、腰から綺麗に降りて、深々と、実に素晴らしい。
「とうとうたらりたらりら」と謡い出す声も素晴らしい。
ツレ千歳の舞も、引きつけられて、緊張感に溢れるモノ。白式尉の面をつけて舞うシテ翁の優雅さ。声。当代一流の役者に違いない。
但し、小鼓方三人は、若手の方で、シテの圧力に負けてしまったか、緊張しすぎたか、乱れてしまった。
アイの三番三は、揉みの段、黒式尉面をつけた鈴の段とも、素晴らしかった。前は、ここは山本東次郎で見たのだが、立派に次いでいる。配布されたパンフでは面箱が山本則重とあったが凜太郎君に変更か。山本東次郎家総出演で、立派にこなす。
新作の『実』を皆で謡う。できたばかりなのだろう、謡のペーパーを見ながら。配られたので比較してみていると、間違えている人も多い。いかに玄人でも、初見に近いと間違えるのだろう。梅若実が節をつける。
『宝の槌』は、初めてかな。魔を退治する奇特な宝物を買ってこいと命じられたシテ太郎冠者が、都のすっぱに騙されて、鎮西為朝の打ち出の小槌と偽られて、太鼓の撥を高額で買わされる。呪文を唱えると願うモノが打ち出されると言うことだが、主の前で失敗して、言い訳にこれ勤めるが、最後は、出世できるぞ、ということで許してもらえるという、なんだか落ちがわからない。が、おめでたい曲なのでしょう。
人間国宝山本東次郎はやや疲れたか。何しろ新年から、きっと彼方此方で狂言や間狂言をやっている。13日には東次郎家伝十二番もあるし。でも高齢にもかかわらず、お元気ではある。
『国栖』も2回目。10月2日に国立能楽堂で観世流で観ている。子方浄見原天皇が舟に隠れるシーンでは、確か、橋掛かりでやっていたが、今回は脇座前に出てきた布張りの舟の中に実際に子方天皇を隠しておいてしまうモノだったなあ、などと考えながら観ていたが、後で、解説を見ると「観世流の中でも当家とご宗家系とでは詞章に異同箇所が非常に多く、そういった事情もあって以前は遠慮してあまり上演されなかった時期もあった」とのこと。詞章の違いまでは気づかなかったが、イメージ的には、同じ観世でも大分違うなあ、と。語りの辺り、今回の梅若の方がわかりやすい印象。2度目だからかも知れない。
仲入後、すぐに登場する後ツレ天女の天女の舞。全くの印象だけど、面を着けているから実は誰だかわからないのだけど、紀彰師の弟子筋ではないのか。舞い形が紀彰師とよく似ていて、はっきりとしていて、きっちり左右などもしていて、弟子素人としては、うれしい。
後シテ蔵王権現の勇壮な舞「楽」も、テンポの良い謡と共に、楽しい曲です。
新春2回目の能の会だけど、こちらが新春な感じ。やはり、素晴らしい『翁』が原因でしょう。入場シーンが頭から離れない。